日本のプロ野球を経験せず、直接MLB、メジャー球団入りを目指す異例のルートを選んだ武元一輝。日本時間の15日、名門「オークランド・アスレチックス」が、ドラフト19巡目で武元を指名。夢がまた一歩、近づいた。

進路に迷う武元に、声をかけた中谷監督

夏の甲子園に2度出場し、智辯和歌山を卒業して米・ハワイ大学に進学した武元。投手として最速151キロ、打者として高校通算20本塁打を記録、昨季のドラフト候補にも挙がった二刀流の逸材が、幼少期から憧れたメジャーリーガーを目指すために異例の挑戦を決断した。筆者に思いを語ってくれたのは、2023年のこと。

夏の甲子園を終えて、進路に迷っていた武元に米大学への進学を勧めたのは、智辯和歌山の中谷仁監督だった。武元にこのように声をかけたという。

「今でもプロに行けるだろう。でも、将来を考えたら、大学で自分を磨いて、大きな舞台で活躍する選手になって欲しい。アメリカに行く選択肢はどうか?」

中谷監督自身、プロ野球・阪神タイガースや楽天、巨人などを渡り歩き、引退後は少年野球の指導者などを務めた後に母校・智辯和歌山の監督に就任。甲子園で優勝を果たすという異例のルートをたどっている。

きっかけは2022年8月。武元は、全米から集まった60人の有望な高校生たちによるオールスターゲーム “パーフェクトゲームズ” に61番目の選手として招待されていた。

その大舞台で、投手と野手の二刀流でアピール。アメリカの大学だけでなくメジャー5球団ほどから調査が入った。大谷翔平選手らの活躍で、日本人の注目度も高いらしい。

武元にとって、アメリカの大学への進学は当初全く選択肢に無かったが、「人と同じことをするのがあまり好きではない」性分で、迷いはなく、想像するだけでワクワクしたというのだ。

筆者が、初めて武元と会ったのは、彼が高校1年生の冬。高校野球の取材で智辯和歌山に訪れた際に、面識のない私に屈託のない笑顔で「きょうは何の取材ですか?」と声をかけてきたことがきっかけだった。今思うと、武元のあの明るく、常時ポジティブな性格は、アメリカ向きかもしれない。

「ホームシックなんて全くないですよ!」

2023年、武元のハワイでの日常生活はこんな具合だった。朝5時に起床、ウエイトトレーニングをしてから、朝7時半に語学学校へ通学。野球の練習が始まるのは夕方からだ。米大学は8月末からスタートするのだが、極めて大事なのが「学力」なのだ。何よりまずハワイ大に合格するため、武元は2月から英語の勉強を続けてきた。

「2月上旬にハワイに来てから2か月。語学学校に通いながら、毎日8時間は勉強しました。今まで野球しかしてこなかったので、英語を勉強しておけば良かったと本気で思いましたね(笑)。入学してからも、学業で成績を残さないと野球が出来ない。継続して勉強しています!」

武元の机には、英語の教科書がずらりと並んでいた。英会話も、はじめの頃は単語を返すのが精いっぱいだったが、今ではレストランで注文が出来るレベルになったそうだ。

「野球をする環境も整っているし、ハワイなので、食事も日本に近い。英語は勉強中ですが、今は少しだけ返せるようになりました(笑)毎日が新鮮でホームシックなんて全くないですよ!」

ハワイ大は、昨季のドラフトで2人が選ばれた。4年制大学に通う選手は21歳からドラフトの指名対象となる。武元も、2025年には指名対象となるため、それまでにハワイ大で活躍することが求められていた。(※注 そして、25年に指名されたのだ。)

「上位でドラフトに指名されるためには、まだまだ実力が足りない。メジャーで一流の選手になることが自分の目標。挑戦できると自信がついたときにチャレンジしたい」

招待選手は全員がドラフト候補 初挑戦の大舞台で残した最高の結果

そして2024年、20歳になった武元は、米サマーリーグの最高峰・ケープコッドリーグに参加した。多くのメジャーリーガーが輩出してきた同リーグ。招待される選手は全選手がメジャーのドラフト候補。

6月から8月中旬にかけて行われたリーグに、大学1年生の武元は、招待選手として参加した。9試合に登板し、3勝1敗で防御率0.71。25回1/3で23個の三振を奪う大活躍をみせ、リーグ最優秀投手に選ばれた。これは、ドラフトへ向けて良いアピールとなった。

 「いろんな人の支えがあって、自分が日本にいた時に想像していたよりもはるか上の舞台でプレーすることができました。メジャーのスカウトも数多くいる中で、米大学1年時に最高峰のリーグで結果を出せたのは自信になりました」

 高校時代の最速は151キロだったが、渡米して約1年半で球速は3キロアップの154キロに成長。平均球速も約148キロだったが、今は約150キロに上がったという。

さらに、高校時代の映像を見比べるとコントロールも格段に良くなっていて、同リーグで三振の山を築いた。着実にレベルアップしている武元だが、その裏には渡米後のある意識の変化があった。

「今に集中すること。自分に必要なことは何かを常に考えること」

 移住して1年半。英語や文化などを学び、オフはサーフィンや乗馬をするなど充実した日々を過ごし、野球でも「毎日刺激を受けながら成長できている」と語る中で、アメリカ人と一緒に野球をして、実力の差を感じることも多々あったという。

 「アメリカ人とウエイトトレーニングを一緒にやると、すごくフィジカルが強いので力の差を感じます。毎日を普通に過ごせば差は開くばかり。その差を埋めようと考えた時、いかに効率良く自分に必要なことをやるかが大事だと思いました。そう感じた日から日記をつけて、自分の取り組みを文字化して整理するようにしています。また、野球は道具を動かす速さが必要なスポーツ。どうしたら体が早く動かせるかを意識して、瞬発系の種目を多くやっています。高校時代は何も考えてなかったので、精神面でも進化しているかもしれないです(笑)」

 そして武元は、元プロアメフト選手の栗原嵩の個別トレーニング指導も受けた。ハワイ在住の栗原は、アメフト選手に軸を置きながらも2020年にはボブスレー日本代表に選出されるなど、高い身体能力を武器に活躍してきた万能アスリート。その豊富な経験と知識から早稲田大学ラグビー部や明治大学野球部など、競技の垣根を越えて数々の名門を指導してきた実績を持つ。そんな栗原に指導を仰ぎ、189センチ・95キロの恵まれた体を自分が思うようにコントロールし、パフォーマンスに生かすことを目指してきた。

 「トレーニングで体が少しずつ強くなり、イメージ通りに動かすことができるようになってきました。そして、投球ではファーストストライクとキープアタッキング(常に積極的に攻めていく)を意識して今回は良い結果が出ました。これからも常に自分に何が必要かを考えて、まずは来年(2025年)7月のドラフトに向けて、“今”自分がやるべきことにフォーカスして毎日を過ごしていきたいです」

ドラフト指名 武元からメッセージ届く

異例のルートを選択して米メジャー球界へ挑戦する武元。足元を見つめながら、大きな夢へ着実に歩みを進めていた矢先の2025年7月、大きな知らせが届いた。MLBの名門「オークランド・アスレチックス」がドラフト19巡目、全体560番目で武元を指名したのだ。二刀流の武元を投手として指名した。

指名された受け止め、そして今後について、ハワイにいる武元から筆者に電話でメッセージが届いた。

『今回のドラフトで選んで頂いて、スタートラインに立てたことは素直に嬉しかったです。これまでお世話になった方にもたくさん連絡をもらいました。ただ、指名順位は19巡目。9巡目以内で指名されることを目標にしていたので、正直に悔しさもあります。これからも自分自身と向き合い、着実に成長して、メジャーの舞台で活躍できるように頑張ります。』

日本球界を経由せずにメジャーリーガーを目指す道。異例とされたルートは、武元の今後のあゆみ次第では、将来「最短ルート」と呼ばれるのかもしれない。先駆者としての挑戦に注目したい。(取材・文 毎日放送 進藤佑基)

◎武元一輝(たけもといつき)

右投げ左打ち。智辯和歌山高で甲子園に2度出場。高校時代は188センチ95キロの恵まれた体で、球速151キロ、打っては高校通算20HRで2021年夏の優勝に貢献。日本球界に進まず米・ハワイ大学からメジャーを目指す異例のルートを選んだ