政府は11日、高市総理を含む閣僚の給与について、国会議員の歳費からの上乗せ分を当分の間、支給しないことを決めました。国会議員の歳費129万4000円に上乗せされる金額、「総理大臣115万2000円」、「閣僚48万9000円」をカットする=いわゆる“身を切る改革”です。

 この大臣給与カットについては、専門家の間でも「もらいすぎ」「報酬は堂々ともらうべき」など賛否両論で、国民の間でも「ちゃんと仕事をしてくれるなら…」「パフォーマンスなら…」など意見が分かれています。

 果たして、大臣の給与カットは妥当なのか?それについて私たち有権者はどのような視点から判断すればいいのか?国会議員の“お財布事情”について、元新聞記者・元官僚・元国会議員秘書という3人に取材しました。

 ◎取材
 鮫島浩氏(元朝日新聞 政治部デスク)
 石川和男氏(元経産官僚 政策アナリスト)
 尾藤克之氏(元国会議員秘書 コラムニスト)

「身を切る改革」何がカットされる?

 まず、国会議員のお財布事情を見ていきます。一般の国会議員の歳費(給与)は、「月129万4000円」で、年2回の期末手当を合わせると「年約2190万円」です。

 この金額にプラスして、
 ▼国務大臣は48万9000円
 ▼総理大臣は月115万2000円
 が上乗せされ、年間の歳費は、
 ▼国務大臣は約2961万円
 ▼総理大臣は約4061万円
 となります。

 今回の、大臣給与カットは、この「上乗せ分」を当分の間カットするというものです。

実質年収は約5300万円 「手当」「特権」が多い?

 また、この歳費のほかに、
 ▼立法事務費 ※報告義務なし
 月65万円 ⇒ 年780万円
 ▼調査研究広報滞在費(旧文通費)※1万円以上のものは要報告
 月100万円 ⇒ 年1200万円
 といった 「非課税の手当」が支給されるため、年収換算すると、それぞれ約1100万円・約2000万円相当の“使えるお金”が入ってくる計算になります。

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 つまり、一般国会議員の実質年収は「約5300万円」となるのです。
 ▼歳費 2190万円
 ▼旧文通費 2000万円
 ▼立法事務費 1100万円
 ⇒約5300万円

 さらに、以下のような“特権”もあります。
 ▼格安議員宿舎⇒赤坂3LDKが月12.4万円(相場約50万円)
 ▼JR⇒無料(新幹線含む)
 ▼飛行機⇒月4往復

 なお、一般の国会議員の給与を各国で比較すると、日本は約16万ドルで世界18位。一方、各種“手当”を含めた金額を見ると、約34万ドルで世界3位という数字が出ています(列国議会同盟(IPU)より)。

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 さらに国会議員には、「個人」「政治資金団体」「政党支部」という“3つの財布”あると言われていて、政党交付金、企業・団体献金、パーティー収入など、様々なルートで資金が入る仕組みが作られています。

「閣僚は大変」「手当は見直すべき」賛否両論の大臣給与カット

 今回の閣僚給与カットについては、専門家の間でも意見が分かれています。

 ▼鮫島浩氏(元朝日新聞 政治部デスク)
 「カットすべき。もらいすぎ」
 ▼石川和男氏(元経産官僚 政策アナリスト)
 「カットの必要なし。閣僚は大変!」
 ▼尾藤克之氏(元国会議員秘書 コラムニスト)
 「カットの必要なし。“手当”は見直すべき」

 大臣になるということは、国会議員でありながら官僚組織のトップに立つこと、つまり、立法府と行政府を兼務することであり、「給与カットは労働の対価と合わない」というのが石川氏の主張です。また、この対価を受け取らないことは「行政の仕事を軽く見られているように思える」と、元官僚としての視点も述べています。

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 一方、旧文通費について「1円単位で報告すべし」と尾藤氏は主張。「1万円以上で報告」「余った分は返還」という新ルールが8月に導入されたものの、この報告義務は「ザル」であり、全額使い切っているケースが多いと言います。

「年約2190万円」“事務次官より上”は妥当か?

 国会議員の歳費「年約2190万円」については、法律(国会法35条)で「議員は、一般職の国家公務員の最高の給与額(=事務次官)より少なくない歳費を受ける」と定められています。つまり、「事務次官より多い給与」と決まっているのです。

 この額について尾藤氏は、「政治家の中で、もらう額に“差”があっても良いのでは?」と提案。

 また、石川氏は「『お金が無くてもやる気がある政治家』に長く続けてもらうには必要」と主張しています。

“身をキレイに改革”=使途の透明化を

 閣僚給与カットについて、与野党の中でも意見が分かれています。

 ▼日本維新の会 藤田共同代表
 「身を切る改革。高市首相就任、早々素晴らしい方針だ」 
 ▼国民民主党・玉木代表
 「しかるべき給与を堂々ともらえばいい」

 一方、国民が求めているのは、“身を切る改革”よりも“身をキレイに改革”、つまり「使途の透明化」なのかもしれません。