9月22日に告示、10月4日に投開票の自民党総裁選挙。既に出馬表明をしている茂木敏充前幹事長に加え、9月16日は、林芳正官房長官が出馬の表明をしたほか、小林鷹之元経済安全保障担当大臣も出馬会見を行いました。
それぞれ総裁、総理になって日本をどうしたいと語ったのか。そして小泉進次郎農林水産大臣の総裁選を取り仕切る顔もわかってきていて、そこから小泉氏が日本をどう導きたいのか見えてくるといいます。政治ジャーナリスト・武田一顕氏の見解を交えお伝えします。
林氏・小林氏の会見内容を振り返る
自民党総裁選挙を争うことになると予想される5人のうち、16日に出馬表明を行った林芳正官房長官(64)と、出馬会見を行った小林鷹之元経済安全保障担当大臣(50)の2人について詳しく見ていきます。
まずは、9月16日午後に出馬を表明した林芳正氏。自身の公約などについては後日、出馬会見で述べるということですが、16日の発表の中で示した方向性は以下の通りです。
▼初当選から30年の経験・実績を国のためにいかしたい
▼賃上げを物価上昇以上に進めたい
▼原発再稼働も
▼詳しくは後日「林プラン」発表
林氏は去年の総裁選では、▽格差是正・インフラ整備、▽積極的な外交・防衛力強化を挙げていました。
一方で、一歩踏み込んだ公約を含めた出馬会見を行ったのが小林鷹之氏です。16日に行った出馬会見の中から抜粋しました。
▼定率減税を期限付きで実施(税金を一定の割合で減らす)
▼自民党にも世代交代が必要
▼自衛隊を憲法に明記
▼原発の新増設も
小林氏は去年の総裁選で、▽自民党の近代化・脱派閥、▽憲法改正・自衛隊明記を主張していました。
加藤財務大臣を選対本部長に…小泉氏の狙いは?
そして、動向が注目される小泉進次郎農林水産大臣(44)は、加藤勝信財務大臣(69)に選挙対策本部長への就任を依頼することで最終調整しているということです。前回の総裁選に立候補していた加藤氏は今回不出馬。大蔵省出身で、もともとは額賀派でしたが、能力を買われ後に安倍政権時代の要職をつとめてきました。
この動きについて政治ジャーナリストの武田一顕氏は、次のように分析します。
・財務省とは対立しない→財政健全派(国の借金や財政赤字を増やさない、税収に見合った支出が基本という考え方)で経済を進める姿勢
・保守層とリベラル層の双方に顔が利く→バランスが良い
立憲民主党の野田佳彦代表と、安住淳幹事長はともに、民主党政権時代に財務大臣を経験しています。もし小泉氏・加藤氏という財務省と対立しない2人が政権を握るとなった場合、自民―立憲の財務省人脈を使っての「大連立」の可能性もあるかもしれないと武田氏は読んでいます。
候補者全員が同じバスで移動!?2008年には石破氏が麻生氏に…
総裁選挙の勝敗を決するものとは?今回は国会議員票295票と党員票295票で争うフルスペック選挙です。最初に過半数を獲得する候補者がいればそれで新総裁が決まりますが、そうでなければ上位2人での決選投票(国会議員票295票、都道府県連票47票)となります。
ちなみに、去年の総裁選のスケジュールは以下の通りでした。
9月12日 告示、所見発表演説会
13日 候補者共同記者会見
14日 公開討論会、街頭演説会(愛知)
15~20日 演説会(福島~沖縄~愛媛~大阪~東京~島根)
22~24日 オンライン討論会
27日 投開票
このように、毎日のように演説や討論会、記者会見を行い、演説は全国をまわります。候補者全員でバスで移動するということもあるそうです。
バス移動をめぐってはこんなエピソードも。2008年、“麻生氏で決まるだろう”と言われていた総裁選で立候補していた石破氏。バスの中で石破氏は一生懸命、得意分野である農業政策の話を麻生氏にしていたそうです。その後、麻生政権が誕生し、石破氏が農林水産大臣に任命されました。もしかすると、バスでの出来事が影響したのかもしれません。
選挙対策本部長の役割とは?
候補者本人は演説や討論会などに専念するため、実務は全て選挙対策本部長が仕切ることとなります。つまり、選対本部長は陣営の実質ナンバー2とも言える重要な存在です。
具体的に何をするかというと、国会議員・地方議員・党員の票集め。かつてはカネやポストをちらつかせることもあったそう。地方議員は陳情もできるということで、100票や200票もの党員票を握るような有力議員を自分の陣営に入れられるかどうかが大事になってきます。
武田氏によると、かつては激しい買収工作がありました。2つの派閥からお金をもらうことを「ニッカ」、3派閥からだと「サントリー」、全派閥(当時は5派閥)からだと「オールドパー」などと言われていたということです。この時代の総裁選挙の“勝利の値段”の相場は25億円とも言われています。
選挙対策本部長も頑張らなくてはいけませんが、やはり最後は本人の努力が結果を左右すると武田氏は話します。国会議員に電話をするときも、スタッフがするのと本人がするのとではやはりパワーが違うといいます。
そして決め手となるのは「演説」。全国遊説したときに候補者が、どのようなことを党員の前で語るかは大きなポイントだということです。
前回落選した5人による“敗者復活戦”?
自民党の議員などではない有権者は投票できない総裁選を、私たちはどう見ればいいのでしょうか。
総裁選は、公職選挙法の対象外です。自民党にとっては、党に注目を集めることができるため、ファン獲得や党のイメージアップのチャンスとも捉えられます。そのため、総裁選を見るときには、客観的な目を持つべきかもしれません。
出馬するとみられるのは前回の総裁選で落選した5人で、立憲民主党の野田佳彦代表は「1年前の敗者復活戦みたいなもの」と冷ややかなコメントを述べています。
自民党が本当に大きく変われるのかどうか。ある種の“お祭り”に一緒に乗っからず、冷静に見ていく必要がありそうです。