日本人の5人に1人が睡眠に関する悩みを抱えていると言われています。しかし、医療機関を受診するにもどこに行けばいいかわからないという人も多いということです。そこで厚生労働省は、医療機関が掲げる診療科の名前に「睡眠障害」を加える検討に入りました。

 夜に何度も目が覚める、寝つきが悪い、日中ウトウトするのはよくない?めいほう睡眠めまいクリニック院長であり、寝る子は育つ協会理事長の中山明峰医師への取材を含めてまとめました。

そもそも「睡眠障害」とは

 睡眠障害とは、睡眠に関連した多種多様の病気の総称。眠れない「不眠症」、しっかり寝ても眠気がする「過眠症」、夜尿・歯ぎしりなどの「睡眠時随伴症」などを合わせて睡眠障害といいます。

 この睡眠障害はさまざまな悪影響を与えます。厚生労働省のデータによると、がん発症率の増加やうつ病の誘発、高血圧症・糖尿病などのリスク、倦怠感やイライラ、交通事故の誘因などにつながるということです。

日本人の睡眠時間は短い!2人に1人が不眠症の可能性?

 日本人の睡眠は、国際的な基準で1万人に調査したデータ(nishikawa睡眠白書2025より)によると、不眠症の可能性がある人が48.1%だったということです。

 一方で、中山明峰医師によると、不眠の治療はどこに相談に行けばいいかわからないという患者が多いということですが、対応するのは「精神科」「内科」「耳鼻咽喉科」など、実は幅広いそうです。

 日本人の平均睡眠時間は、OECD(経済協力開発機構)加盟33か国中、最下位で、7時間22分。中山医師は「“徹夜はえらい”文化が影響しているのではないか」とみています。

厚生労働省が検討中「睡眠障害〇〇科」

 そもそも医療機関が看板や広告で掲げる診療科(標ぼう診療科)というのは法律で決まっています。単独で使えるものは、「内科」「外科」などで、組み合わせて使えるものは「小児内科」「美容外科」など。

 今回検討されているのは、組み合わせて使える診療科名に新たに「睡眠障害」を追加することです。「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」や「内科(睡眠障害)」「精神科(睡眠障害)」などの表記を想定しているということです。
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 睡眠分野の研究はまだ歴史が浅く、かつては、睡眠の問題の多くは「不眠」として捉えられ、精神科が対応すると考えられていました。

 しかし1980年代、「睡眠時無呼吸症候群」という睡眠時に呼吸が止まってしまう病気の研究が始まったことで、呼吸器科や耳鼻咽喉科にも広がっていきました。睡眠に関する悩みや症状によって診療科が違うというのが現状です。

 2016年に筑波大学・柳沢正史教授らが、睡眠に関係する遺伝子『覚醒を制御する遺伝子(オレキシン)』を発見。これを機に「不眠薬」の転換が進みました。

 かつては精神安定剤が処方されていましたが、耐性・依存性の懸念がありました。しかし、2016年以降、睡眠を促進するホルモン「メラトニン」の薬や、覚醒に関わるホルモン「オレキシン」を抑制する薬など、不眠の本質に迫るような薬が処方されるようになってきたということです。

 中山医師は「『睡眠障害〇〇科』ができることで、専門知識を持った医師による正しい診断や的確な薬の処方を期待することができる」といい「注目されることによって研究も進むのではないか」と話します。

布団に入ってすぐ寝られる?睡眠障害の確認方法

 意外と自覚していないという人も多いという睡眠障害。自分があてはまるか確認する方法を、中山医師に聞いた内容をもとにまとめました。

 まず「不眠」の判断基準は…

・布団に入って30分以上寝付けない人
・昼間のパフォーマンスに影響が出ている人

 そして「睡眠障害」の判断基準は…

・週に2日以上不眠
・昼間に眠気がある
・3か月以上続いている
※該当1つで「可能性」、3つで「睡眠障害」
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 睡眠障害かも?と思ったら「睡眠日誌」をつけて自分の睡眠状態について知ることが治療の第一歩だと中山医師はいいます。これを「認知行動療法」といいます。これで改善しない場合は睡眠薬などを処方されるという流れになるということです。

 理想的な睡眠時間は、高校生までは9時間、大人は7時間~8時間、60歳以上は6時間~7時間だということです。

 中山医師曰く「高齢者が午後9時就寝→午前3時起床となるのは問題ないが、睡眠時間が短いと借金=睡眠負債になる」とのこと。二度寝してしまう場合は睡眠負債がある証拠だといい、「二度寝は負債は返せるがプラスにはならない」ということです。

昼寝はOKだが、午後3時以降はNG

 睡眠に関する悩みの1つとして、日中、ウトウトしてしまうという人は多いのではないでしょうか?これについて、中山医師によると、昼であれば昼寝をしても問題ないそうです。

 【お昼は◎】
・食後、血糖値の上昇で眠くなるなら30分程度の睡眠を
・熟眠はNG
・耳栓アイマスクでデスクに突っ伏す

 昼寝の際は、脳を休ませ情報をシャットダウンすることが大事だということです。

 一方で、午後3時以降のうたた寝はNGだといいます。

 【午後3時以降×】
・睡眠に関するホルモン「メラトニン」が分泌されるのが午後3時からのため、昼寝をすると夜の睡眠を阻害するおそれ
・午後3時以降のうたた寝防止に昼寝を

「健康な人でも、1時間に1回~2回呼吸が止まっている」

 続いて、夜に何度も目覚めてしまう悩み。もしかすると、無呼吸症候群が潜んでいるかもしれません。

 中山医師によると、「睡眠中は健康な人でも、1時間に1回~2回呼吸が止まっている(※1時間に5回以下が正常値)」といい、「眠りが浅いタイミングと重なると目が覚める」ということです。

 横向きで寝ると、舌がのどに落ち込むのを防ぐため、症状が軽い場合は抱き枕などを使って横向きで寝ると無呼吸になるのを抑えられるということです。

きょうから実践できる理想的な睡眠環境

 睡眠と食事の関係について中山医師は「何食べるか?より臓器を休ませるを意識し、寝ている間はお腹空っぽが理想」といいます。食事が腸に行くまで4~5時間、就寝直前に食べるなら吸収しやすいものやヨーグルトがいいということです。

 コーヒーなどカフェインが含まれるものは就寝前はNG、昼寝前ならアロマ効果でおススメということです。また、寝酒はNG。体内のアルコールは2~3時間で分解され覚醒作用を持つ「アルデヒド」になるということで、眠りが浅くなる原因になってしまうということです。

 そして、理想的な睡眠環境は湿度50℃前後、室温26℃前後で、「寝室が別な人は早めにクーラーをつけてちゃんと寝具自体を冷やすことが大事」と中山医師はいいます。