女子児童の下着を盗撮し画像をSNSのグループチャットで共有した疑いで、名古屋市の小学校教員が逮捕、送検されました。そのグループチャットには、小中学校の教員10人近くが参加し、児童の着替えを盗撮した画像や動画約70点を共有していたとみられています。

 子どもへの性加害の実態とは?どうすれば子どもを守れるのか?「日本版DBS」の課題とは?日本の教育現場に詳しい、日本大学文理学部教育学科・末冨芳教授の見解をもとにお伝えします。

「実態はさらに深刻では」教職員320人が性犯罪などで懲戒処分

 2023年度に「性犯罪・性暴力等による懲戒処分」を受けた公立学校の教職員は、過去最多の320人にのぼりました(教職員全体の0.03%)。68.8%のケースでその被害者が児童・生徒だったということです。

 この数字に対して、「実態はさらに深刻ではないかと言われている」強調するのは、教育行政に詳しい日本大学の末冨芳教授。その理由として、次のようなケースが考えられると言います。

 ▼子ども自身、被害に気づいていない
 ▼親が恥ずかしくて言えない
 ▼過去には学校の管理職が教育委員会や警察に報告しなかった例も
 (※現在は報告義務あり)

 小学校の頃に性被害を受けた女性に取材をした河田アナウンサーによると、その女性は近所の顔なじみのおじさんと遊んでいて、自分は“お医者さんごっこ”をしているつもりだったが、実はそれが“性加害”だったと大きくなってから気づいたと話していたということです。

「1人の加害者が非常に多くの被害者を生む」

 今回の事件は、小中学校の教員とされる約10人が“秘匿性の高いアプリ”で盗撮した画像を共有し、「いいですね」「こんな機会があってうらやましい」といったやり取りが行われていたということです。

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 子どもが被害者となる盗撮の卑劣さについて、「1人の加害者が非常に多くの被害者を生む」と末冨教授は指摘。さらに、「グループで見せあうことでさらに被害が拡大する」と言います。

「外部サイトへの誘導も」複雑化するSNSへの拡散方法

 盗撮画像などのネットパトロール・通報を行うボランティア団体、ひいらぎネット代表の永守すみれ氏によると、盗撮手法で多いものは、「スカートなどの下に撮影機材を差し込む」「手に持っていても自然なスマホでの撮影」だそうです。

 そして拡散の方法については、「以前は大手SNSに画像がそのまま貼られることも多かったが、最近は外部サイトに誘導するなど複雑化している」と言い、さらに「隠語などを使用することも多い」ということです。

「一般人の被害が増加」卒アル写真を使った“性的ディープフェイク”

 こども家庭庁のネットの青少年保護に関するワーキンググループの中で、課題の1つとして挙がったのが「卒アル問題」。卒業アルバムの写真を悪用した“性的ディープフェイク”=実在の子どもの顔と別人の裸体を合成するなどの手口が問題になっています。今回共有されていたものの中には、盗撮画像以外に「別人の裸+児童の顔」のディープフェイクも見つかったということです。

 こうした生成AIを使った“性的ディープフェイク”について守永氏は、「以前は芸能人やアスリートの被害が多かったが、この1~2年で一般人の被害が増加している」と指摘。小学校の卒業アルバムを使ったものも出ていると言います。さらに、「画像1枚から、自ら服を脱ぐなどの性的な動画を作ることも可能」だということです。

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 ただ、“性的ディープフェイク”の取締りには、さまざまなハードルがあるようです。川﨑拓也弁護士によると、「児童ポルノを所持などしていたら、児童ポルノ禁止法違反になる」ということですが、「保護の対象となるのは『実在の児童のみ』であり、性的ディープフェイクは『実在しない児童』とされる可能性が高い」と言います。

 さらに、「わいせつ物を頒布などしていたら、刑法のわいせつ物頒布等の罪になる」ということですが、ここで言う“頒布”とは「不特定もしくは多数の者に提供」した場合を言い、具体的に何人なのかは明確に決まっていないそうです。今回のように“10人ほどで共有”というケースでは、この罪に問われる可能性もある一方、より少ない人数で共有していた場合はこの罪にあたらない可能性も出てくるということです。

「日本版DBS」導入へ…下着泥棒は対象外!?

 2024年6月に導入のための法律が成立し、2026年12月25日の施行が検討されているのが「日本版DBS」です。これは、子どもと接する仕事に就く人に性犯罪歴がないかを確認する制度で、イギリスなど海外の制度を参考につくられました。

 例えば、学校などで仕事をしたいという就職希望者がいた場合、(1)学校などはこども家庭庁に申請→(2)こども家庭庁は法務省に就職希望者の犯歴照会を依頼→(3)犯歴なしの場合は学校などに「確認書交付」or犯歴ありの場合は「本人に先に通知」という流れです。犯歴があって通知が来ても、本人が辞退すれば学校には伝わりません。

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 この制度について「やっと子どもたちを性暴力から守るスタートラインに立てた」と強調するのは末冨教授。今後の課題として、「性犯罪で判決が確定した場合に限られる」点を挙げています。例えば、不起訴となるケースや示談で終わるケース、また、下着泥棒など窃盗罪にあたるものは対象外となるそうです。

 一方、イギリスでは、「ボランティア先で子どもとの距離が近い」「SNSで子どもとやり取り」などの情報も共有されていて、就職先に伝えているとのこと。実際に、日本でもSNSでつながり校外で会う事例は多いということです。

 また、末冨教授は「加害側の教員についても分析はまだ不十分でない」と指摘。さらに「適切な治療や、子どもと接することがない職場でのキャリア支援などが必要」とコメントしています。

「防犯カメラを設置することも一手か」

 どうすれば、教員による子どもの性被害を防ぐことができるのか。末冨教授は「効果的な予防について議論するためには実態の分析が必要だが、日本はまだまだ不十分」と指摘。その上で、「子どもや保護者の同意の上、防犯カメラを設置することも一手か(現状では証拠不足)」と述べています。