ビールや日本酒、ワイン、ウイスキーなど「仕事終わりの一杯」にみなさんが選ぶのはどれでしょうか。「とりあえず生」という人も多いと思いますが、若者のアルコール離れが進む昨今、選ぶお酒も変わってきているようです。
さらに、健康志向やお財布事情から、そもそもお酒を飲まない「ソバーキュリアス」という考え方も広がりつつあります。多様化するイマドキのお酒市場について、専門家の話を含めまとめました。
◎都留康:一橋大学 名誉教授
◎木地利光:市場アナリスト
時代とともに変化してきたアルコール市場
日本でのお酒文化の歴史を振り返ります。まず、高度経済成長や男性社会などの背景から「飲みニケーション時代」と言われた昭和~平成初期。それまでビールは価格が高く日本酒がよく飲まれていましたが、一橋大学の都留康氏によれば1965年ごろに冷蔵庫が普及したことで、市場は日本酒からビールへと変化したということです。
そして平成中期。「宅飲み」「ひとり飲み時代」と呼ばれていて、バブル崩壊や外飲みが苦戦したことが背景にあるようです。このときの市場は、「チューハイ」や「発泡酒」など選択肢が広がりました。
平成後期は「女子会ブーム」時代とも言われて、女性の社会進出が増加し、飲食店では「女子会プラン」が多く出てきました。市場ではワインやカクテルが人気で種類が増えていきました。
令和になると「酒離れ」が進みます。市場はノンアルコールや低アルコールなど多様化。実際に、酒類販売(消費)数量のデータ(※沖縄県は含まない 国税庁より)を見ると、1990年代半ばをピークに減少の一途をたどっています。
その理由について、健康志向の高まりのほか、都留氏は「経済的な要因」を、市場アナリストの木地利光氏は「娯楽の多様化」があると指摘しています。
お酒を“飲まない”という選択
そうした中、あえてお酒を飲まない選択をする「ソバーキュリアス」という考え方が日本を含め世界的に広がってきています。「ソバー(sober)」はしらふを意味し、「キュリアス(Curious)」は好奇心があることを意味する単語で、飲めるけれど飲まない、飲まなくてはいけない文化から少し距離を置きたい、といった考え方を表しています。
ノンアルコール飲料市場は、2009年から2023年でなんと6倍に(サントリーノンアルコール飲料レポート2024より)。
最近では、イオンやドン・キホーテ、ミズノなどの異業種がノンアルビール市場に参戦しているほか、ビールだけでなくワインやハイボールのノンアルコール商品も登場しています。
好調の背景について木地氏は「若年層だけでなく中高年層にも広がる」「タイパ重視(酔うと効率が落ちる)」「価格が手ごろ」といった点を挙げています。そして都留氏は、「カギは食事との相性」としていて、食前・食中・食後まで飲むシーンを想定した飲料が提案できれば、もっとノンアル飲料は選んでもらえると話しています。
大吉洋平アナウンサーが飲食店にも商品を卸す大阪・堂山の酒店「伊吹屋」を取材すると、若い人が好むお酒は、「傾向が変わり種類も増えている」といいます。ソーダ割りや、インスタ映えする酒を自由に作ることができるジンはこの店の人気商品で、低アルコールの酎ハイも主力となっているそうです。店は「酒屋としてはもうちょっとお酒を飲んでいただきたい。ノンアルコールの利益率というのは微々たるものなので、できたらもうちょっとビールやアルコール度数の高い酒を飲むブームが来てくれたらなとは思います」と話しています。
ノンアル好調の一方で都留氏は「ノンアルは基本的に“お酒の代用品”」だといい、お酒を飲む人が減少していくと「将来的に頭打ちの可能性もある」とも指摘します。
では酒離れを回復するには?日本酒・ウイスキー・ビールは海外輸出が急速に拡大しているため、海外での評価の高まりが、国内の購買意欲を刺激する効果に期待ができるということです。
専門家「メリット・デメリットの比較で考えることも大切」
こうした流れの中、お酒・ノンアルの今後について専門家はどう見ているのでしょうか。木地氏は「最近はジン市場が拡大し、ストロング系チューハイが縮小している」と分析。「酔いたくないがビールを飲みたい」というニーズにどう応えるかがポイントになるといい、アルコールとノンアルコールが共存しつつ進化していく未来が今後の理想形ではないかと提言しています。
一方で都留氏は、アルコールは健康被害のリスクがあるとした上で、「料理をおいしくする」「人間関係を円滑にする」という側面を挙げ、メリット・デメリットの比較で考えることも大切だとしています。そして、お酒やノンアル飲料の多様化で選択肢があるだけでは不十分で、それぞれの特徴や、健康への影響に関する知識を持つことが重要だと訴えています。