中居正広氏をめぐる一連の問題に加え、社員がオンラインカジノで賭博した疑いで逮捕されるなど、不祥事が噴出しているフジテレビ。親会社フジ・メディア・ホールディングスの株主総会では、冒頭金光修社長が謝罪しました。出席した株主によれば、会場からは「役員も金銭的責任を果たすべき」という厳しい意見があり、大きな拍手が湧く場面もあったということです。

経営陣の刷新 フジ側11人 ダルトン側12人を提案

 焦点となった経営陣の刷新について、フジテレビは社長候補の清水賢治氏を除く現体制の全員退任と、新たにファミリーマート元社長の澤田貴司氏、TVer社長の若生伸子氏、フジHD財経局長柳敦史氏らを取締役候補とする案を提出しました。

 これに対し大株主の投資会社ダルトン・インベストメンツは、SBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝氏、ワーナー・ミュージック・ジャパン会長の北谷賢司氏、NEXYZ.Group近藤太香巳氏ら12人を提案しました。会場にはフジテレビと関係の深い堀江貴文氏も株主として出席し、総会の注目度の高さをうかがわせました。
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 結果として、フジ側が提案した取締役候補が賛成多数で全員選任されたいっぽう、ダルトン側が提案した北尾会長らは、いずれも過半数の賛同を得ることができず、選任されませんでした。

「日枝体制」40年の終焉が決まった日「再生への一歩目」

 フジMHDの定時株主総会では、露呈した「コンプライアンス問題」と、「スポンサー離れの問題」が焦点となりました。企業・メディア法務に詳しい河西邦剛弁護士は、「フジテレビを象徴するような日枝久さん。40年続いた体制が今日の株主総会をもって終わったこと。それが再生へのまず1歩目というような印象を受けました」と述べ、「再生を示せるか重要なチャンス」だと指摘しました。

 河西弁護士は、選任されたフジテレビ側の取締役について、「今回の11人は旧経営者側が決めている。その決定プロセスに日枝氏は関わっていないが、その枠組みの中での選任だろう。もしダルトン側の取締役が1人でも入っていたら、外部から入るので、影響力はものすごく大きかっただろう」と話しました。

スポンサー問題は解決するのか 「すぐは難しいかも」

 今回の株主総会でフジテレビ側が目指した目標の一つが「信頼とスポンサーの回復」でした。経済同友会の代表幹事も務めるサントリーホールディングスの新浪剛史会長は、総会前に「株主総会を見た上で(CM出稿などを)最終判断するのが一番いいのかな」と発言しており、スポンサー企業も今回の総会を注視していたことがうかがえます。

 河西弁護士は、「企業は株主総会を通じてフジテレビが本当に再生できるのか、そして人権侵害のような問題が起こらない体制を徹底できるのかを見極めようとしている」と述べ、「逆に言うと、きょうの株主総会の結果で、すぐにスポンサーが戻るというのは難しいのかもしれない」と分析しました。

 今後のもう一つの軸として、「良い番組を作るということです。広告効果をきちんと示していかないといかない。(ガバナンスとの)両輪がうまく回って初めて、スポンサーの信頼を再び得ることができる」としました。

なぜ対立した?決定的な違いは「不動産事業の分離か」

 フジ側の提案とダルトン側の提案、計23人の取締役候補はなぜ両者で全く違っていたのでしょうか。河西弁護士は、両者の考え方に違いがあったとみています。フジ側は、清水氏以外を代えて信頼回復を目指すという考え方、ダルトン側は「不動産事業の分離案」など利益追求を目指す考え方があったのではないかというのです。

 「スポンサーに帰ってきてほしい思いは共通です。では何が対立していたのか、決定的な違いは、ダルトンはさらに企業価値を上げて儲けたい、という考え方がありました。フジ・メディア・ホールディングスは、テレビ事業のほかに、サンケイビルを中心とした不動産事業を手がけており、この利益が非常に大きい。フジ側はこれを切り離したくなかった、溝が埋まらなかったということですね。」(河西邦剛弁護士)

 河西弁護士によれば、一般的に事業分離は株価上昇につながりやすく、特に個人株主に魅力的な提案に映った可能性もあります。一方、フジテレビ側は不動産から得られる利益を、時間のかかるコンテンツビジネス、例えばアニメやドラマ、キャラクターグッズの販売、海外展開やネット配信といった長期的な投資に充てるため、不動産事業という安定した収益源が不可欠という考えがあったのではと見ています。

総会前に決まっていた?冒頭「投票は不要です」

なぜフジ側が「勝利」したのか。フジテレビ側から「事前投票の結果、取締役の選任の投票は不要です」という発言があったことも気になる点です。河西弁護士は、「発言は開会した直後にあったようだ、とし、きょうの総会の前にもう勝ち負けが分かっていた可能性が高い。特にフジ側幹部は自分たちの提案が選ばれることが分かっていたのではないか」と述べました。

事前に行われたインターネット投票や委任状によって、すでに結果が判明、「投票は不要」と冒頭に述べることによって、総会での議論が白熱化するのを避ける狙いがあったのではないかと分析します。河西弁護士によれば、ダルトン側も「一枚岩ではなかった」とのことですが、今回は3月時点の株主による総会であり、その後の動きが激しい場合は、次回は株主の面々が変わっている可能性があり、どうなるかわからないということです。

”オンラインカジノ”新たな不祥事も フジ新経営陣、いまは未知数

フジテレビは、変わることができるのでしょうか。河西弁護士は、「直近に幹部社員がオンラインカジノを巡り逮捕される不祥事が起きている。他方で、再生したい、いい番組を作っていきたいという社員も多い。新経営陣が一丸となって、コーポレートガバナンスが実行できるかは未知数で、今後が試される局面だ」と展望しています。