来年4月から、自転車の交通違反に「青切符」が交付され、それぞれの反則金が決まりました。携帯電話を使用しながら運転する「ながらスマホ」には1万2000円の反則金が科されます。イヤホンで音楽を聴きながらの運転には5000円、信号無視には6000円の反則金となりました。
「青切符」って何?これまで見過ごされた自転車違反の摘発が強化
自転車ルールの厳罰化について街で聞きました。ながらスマホ運転については「1万2000円の反則金は妥当で、2万円か3万円でもいい」「自転車に乗りながらスマートフォンを操作している人をよく見かけるので危ない。もっと金を取った方がいい」などと、危険な運転の抑止効果に期待する意見もありました。
一方で、罰金額の妥当性や運用方法など、様々な観点から今後も議論が交わされそうです。道路交通法に詳しい高山俊吉弁護士を交えて解説していきます。
まず「青切符」とは、比較的軽微な交通違反を犯した際に、反則金を納付することで刑事罰を免れることができる制度です。自転車の違反はこれまで、酒気帯び運転や酒酔い運転といった、悪質で重大違反に対しては刑事罰の対象となる「赤切符」が適用されていました。しかし、それ以外の違反については、なかなか取り締まりが徹底されていなかったのが実情です。
今回の道路交通法改正により、2025年4月からは自転車の違反に対して青切符が交付され、これまで見過ごされがちだった違反行為への取り締まりが強化される見込みです。
【一覧】これが自転車の違反行為と反則金!ながらスマホ、信号無視、傘差し運転
来年4月に導入される自転車の「青切符」制度、まず対象となるのは16歳以上です。これは、原動機付自転車の運転免許を取得できる年齢であり、最低限の交通ルールに関する知識を有しているためと説明されています。主な反則金は、以下のようになっています。
・1万2000円→スマートフォンなどを使用しながら運転する「ながら運転」
・9000円→「放置駐車違反」
・6000円→「信号無視」「スピード違反」など
・5000円→「無灯火運転」「一時不停止」「イヤホン着用(条件付き)」「傘差し運転」など
・3000円→「二人乗り」「並走」「子どもを抱っこしての運転」など
合計で113もの違反行為が青切符の対象としてリストアップされているとのことです。
「反則金は高い」とする弁護士 交通ルール周知の重要性を指摘
自転車に対する青切符の導入と反則金について、道路交通法や交通問題に詳しい弁 護士の高山俊吉氏は「私は高いと思います」としました。
高山氏が「高い」と考える背景には、市民の交通ルールに対する理解が十分ではないという現状認識があります。「交通ルールは最低限のところをみんな知っているだろうと言われているけれど、事実と違うと思う。市民感覚としては最低限の交通ルールを知っておられる方が少ない」と指摘。具体例として「自分の判断で、場合によっては歩道を走ってもいいんでしょう、ぐらいに思っている人もかなり多い」としました。
このような意識レベルの中で、高額な反則金だけが先行してしまうことについて懸念があるとし、「反則金を科すのであれば、原付などに比べてもっと少ない金額ではなかったか」と考えを述べました。
これに対し弁護士の越水遥氏は、「最初は高いと思ったが、自転車の場合、命にかかわる事故が多いので、加害者にならないため、乗っている人を守る意味でも、もっと高くてもいいのではと考えている」と話しました。
高山氏は交通ルールの周知徹底が不可欠だと強調します。「処罰をするから、処罰を受けたくないならやめろ、という議論である前に、交通安全を守るのはみんなの基本的な責任であるし、当然やればできるんだ。そういう市民感覚が醸成されることが大事」と述べます。「そこを抜きにして、反則金に走ってしまってはいけない。呼吸というか、塩梅の取り方のところを間違えないようにしてほしい」と望みました。
イヤホンそのものは禁止されていない?「必要な音が聞こえない」の基準は
さて、自転車に乗りながらイヤホンを使用する行為は、反則金5,000円の対象となる場合があります。条件付きとされていますがそれは「イヤホン着用のうえ、必要な音が聞こえない状態で運転」していると判断された場合です。ややこしい点があり、高山弁護士に詳しく聞きます。
「道路交通法には、イヤホンを着けてはいけないとは規定していません。問題はイヤホンによって周囲の音が遮断されると、安全な運転に必要な情報が耳に入らず、結果道交法違反になるということです。イヤホンをつけていいかどうかは、各都道府県が定める条例によって異なるという建付けになります。」
「例えば、関西2府4県などでは、条例でイヤホンの使用を禁止しており、その条例を組み合わせて、結果道交法違反になる、という複雑な構成になっています。」「道路交通法は、各地の公安委員会の決まりに違反した場合に道交法で処罰するという形をとっているので、各地が定めた基準に違反すれば、結果として道路交通法に基づき安全運転義務違反と判断されることになります」(高山弁護士)
高山弁護士はこうした複雑さについて、「実際にわからないという人がかなり多いのではないか。そこについて気を遣いつつやらないと乱暴になる可能性がある」と指摘します。
「歩道通行」は原則違反?自転車利用者のジレンマ
自転車の交通違反に青切符が導入されるにあたり、「それは許してよ」という声が上がっている例があります。それが「歩道通行」で反則金は6,000円。警察庁が行った意見募集にも、この点に関する意見が多数寄せられたといいます。
実際は、歩道通行で直ちに青切符が交付されるわけではなく、取り締まり対象となるのは、主にスピードを出して歩行者を驚かせた場合や、警察官による警告に従わない場合など、悪質なケースの方針だそうです。
そもそも歩道通行が認められているケースも存在します。
・運転者が13歳未満の子どもや70歳以上の高齢者である場合
・「自転車通行可」の標識がある歩道
・車道通行が危険な場合
交通量の非常に多い都市部の大通りなどは、車道を走るのが危険と感じることもあります。そうした際には歩道通行が許容されることがあります。自転車専用レーンが整備されていても、そこに自動車が駐車しているために通行できず、やむを得ず車道にはみ出す際に、後方から来る車とスレスレになるような、危険な状況を感じたことのある人も少なからずいることでしょう。
「戸惑いを世の中に広げるおそれ」
高山俊吉弁護士は、「実際にこういう状況で歩道で自転車に乗るのは仕方がないだろうと思っている市民は少なくなく、それに無理もないところもある」と、利用者の心情に理解を示し、この項目は「非常に課題だらけ」と指摘します。
「原則こう、例外こうと言われても、自転車乗りの立場からすると、危険な状況にはなるべく遭遇しないように運転したい。だから自然に歩道に乗ってしまう。でもそれはいけないとされていて、これが反則金につながるのか、という戸惑いみたいなものを世の中に広げてしまうおそれがある」とし、定められたルールと実態との乖離や、新たな混乱について懸念を示しています。
来春の青切符導入で意識すべきことは、自転車の交通ルールそのものを、自転車に乗る人も乗らない人も含めて、社会全体でしっかりと理解し、隅々まで行き渡らせることが何よりも重要と言えるでしょう。