小泉進次郎農水大臣は6月16日、「約70年前から毎年秋に実施してきた米の作況指数の公表を廃止する」と発表しました。作況指数とは、農水省が調査した収穫量を数値化したもので、平年を100とし、平年よりも良(多い)か不良(少ない)かがわかる指標です。ところがこの作況指数、去年は平年並みでしたが、生産現場の実態と違うと指摘されていました。
これまでの調査は実態を正しく反映していたのか?今後、コメの供給量を正確に把握するために必要なこととは?2人の専門家の見解をもとに解説します。
◎流通経済研究所・折笠俊輔主席研究員
◎キヤノングローバル戦略研究所・山下一仁氏(元農水官僚)
備蓄米 コメ価格全体への影響は?
6月17日時点のデータによると、コメ5kgあたりの全国平均販売価格は3週連続で下落しました。
直近の推移(5月26日~6月1日→6月2日~8日)を見ると…
▼ブレンド米等(備蓄米など含む):3898円→3834円(-64円)
▼全国平均販売価格:4223円→4176円(-48円)
▼銘柄米:4428円→4443円(+15円)
(※農水省「銘柄米とブレンド米の販売価格(5kgあたり)」)
ブレンド米(備蓄米など含む)も下がっていますが、小泉大臣の“2000円のコメ”はまだ出始めで量が少なく、一気に下がることはないということです。一方、銘柄米の価格は下がっておらず、まだ備蓄米による影響が見られません。
価格を下げるため、「コメを市場にじゃぶじゃぶに流す」と話した小泉大臣。一方、キヤノングローバル戦略研究所・山下一仁氏は「卸はコメをすでに高く買っている以上、安く売れない。かつて60kg1万2000円~1万5000円だった取引価格は、今は2万7000円」としたうえで、小売り単価は5kgで約4200円になると指摘します。卸が赤字を出してまで安くするのか…現在、卸業者と政府との間で“綱引き”が行われているようです。
「概算金」システムが価格の高止まりを招く?
次の新米が出れば価格が下がるのではないかと思いきや、その可能性は低いようです。
その理由は「概算金」の高騰だと山下一仁氏は指摘します。概算金とは、秋の新米に対してJAなどの集荷業者が農家に事前に仮払いで渡す金額です。秋になって実際のコメ価格が決まってから調整が行われ、概算金より高ければ農家に追加で支払い、安ければ返金を求めます。
しかし、JAとしては返金を求めることで農家との関係が悪化することを避けたいため、今年の概算金をすでに支払っているということは、ある程度今年の価格が決まっていることを意味します。つまり、この秋どころか来年の秋まで値下がりしにくい構図が続いているのです。
小泉大臣はこの状況を打破するため、「海外からの緊急輸入を検討」という発言も。山下氏は「コメをじゃぶじゃぶにする」と言いながら備蓄米の残りは約10万tで、小泉大臣が切れるカードはもう輸入米しかないと指摘しています。
これまでのコメ調査方法 問題点は?
こうした中、小泉大臣はコメ収穫に関する調査方法を変える新たな動きを見せています。これまで国は全国8000か所の水田を無作為に選び、1つの水田につき「1平方メートルを3か所」手刈りして、実際の稲穂からの収穫量を調査していました。
この調査から導き出される指標は、全国でとれるコメの総量を示す「収穫量調査」と、その年のコメの「でき」を示す「作況指数」の2つです。2024年度は収穫量が679万t(前年比+18万t)、作況指数は101(平年を100として)でした。
しかし、この調査方法には問題点があります。まず、収穫量調査では、コメをふるい分ける際のふるい目の大きさが1.7mmとなっていますが、実際の流通では1.8mm〜1.9mmが使用されており、実態とのズレが生じています。また、作況指数は玄米で調べるため「質」が考慮されていません。
山下氏によれば、2023年産のコメは酷暑の影響で、玄米を白米に精米する過程で、割れたコメや白く濁って売れないコメなど、いわゆるロスが推計30万tも出たとのことです。
小泉大臣はこれらの問題に対応するため、ふるい目を流通で使われている1.8mm〜1.9mmに合わせる方針を示し、約70年続いた作況指数の公表を廃止すると発表しています。
作況指数の公表廃止について、流通経済研究所・折笠俊輔氏は「『今年のとれ高どうですか?』『ぼちぼちです』という感じのもので、廃止しても大きな問題はない」と述べています。最近のコメ作りは地域差が大きく、同じ環境下でも品種によって収穫量に差があるなど、実態把握が難しくなっているとのことです。
「民間在庫の把握」が抜けている!専門家が指摘
一方、山下氏はコメ供給量の正確な把握には、収穫量の実態把握とロスの把握に加え、「民間在庫の把握」も重要だと指摘します。なぜかというと、正確なコメの供給量は「その年(秋)の生産量」+「前の年の残り量(在庫)」であるからです。山下氏は、現状は「その年の生産量」ばかりに注目して「前年の残り量」についての議論が抜けているといいます。
農水省のデータによれば、民間在庫量は去年の夏頃から前年より合計約40万tも少ない状態が続いています。
山下氏はこの背景として「2023年産のコメに酷暑のロスが30万tあった」ことに加え、「実質の減反政策で9万トン減っている」点を挙げています。つまり、最初からこの民間在庫量で足りていない40万tを備蓄米で放出していれば、もっと早期に価格が安定していた可能性があるというのです。
また、価格高騰の根本的な解決には、事実上の減反政策、つまりコメの生産量を減らしている現状を変えることが必要だと山下氏は提言しています。その議論を忘れずに進める必要があるとのことです。