住宅メーカーの突然の破産により、夢のマイホームは建つことなく、残ったのは住宅ローンだけ…。人生最大の買い物とも言える「家」をめぐり、依頼者たちから怒りの声と悲鳴が上がっています。

念願のマイホームの工事を住宅メーカー「企広」に依頼したAさん

 (Aさん)「人を信じられなくなりましたし、つらかったですよね」

 つらい胸の内を明かすのは、兵庫県加古川市で妻と2人の子どもと暮らす公務員のAさん(40代)です。去年12月、念願だったマイホームの購入を決意しました。
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 (Aさん)「妻の希望に沿う形でキッチン周りは設計しました。子どもたちが使うであろう部屋を2つ用意してもらって。あとは収納もしっかり用意してもらって」

 夢が膨らむ新築一戸建てでの生活。その工事を依頼したのが、半世紀以上の歴史をもつ姫路市の住宅メーカー「企広(きこう)」でした。
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 (Aさん)「(社長は)身なりもちゃんとしていましたし、もちろん。本当に信用して、いい方に出会えたなという思いで、打ち合わせには臨んでいましたね」

工事前に突然「倒産」の知らせ…「よく分からない住宅ローンを支払っている状態」

 Aさんは2150万円のローンを組み「企広」と契約。今年3月には地鎮祭を行いました。ところがその1か月後、「企広」の担当者から衝撃の知らせが届きました。
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 (「企広」の担当者から届いた文面)「株式会社企広は4月28日に倒産致しました。このような形となりましたことを深くお詫び申し上げます」

 (Aさん)「『大金、お金のほうを支払いしています』ということをお話ししたんですけど、本当にどうしていいか分からなかったですね」

 Aさんの家が建つはずだった場所。一切工事は行われないまま雑草が生えてほったらかしですが、ローンは残ったままです。土地はAさんの所有ですが、新たに別の業者に工事を依頼する余裕はなく、マイホームの夢を諦めざるを得ませんでした。
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 (Aさん)「(現在の家の)家賃も現状支払っている状態で、よく分からない住宅ローンも支払っている状態で、生活自体が本当に成り立たなくなってしまって。妻や子どもに対しては、金銭的な部分で不遇な思いをさせることになるかもしれないことに関して、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいですね」

Bさんのケース:リフォーム工事の途中で倒産「一生許せない」

 「企広」の破産で人生の歯車が狂ってしまった人は他にもいます。兵庫県内に住む60代のBさん。親が住んでいた実家をリフォームして住もうと考えていました。そこで去年7月、工事を依頼したのが「企広」でした。

 (Bさん)「”がわ”だけを残して、中は全部変えて、屋根も全部変えてという感じですね。正直、ほかの業者と比較したときに(企広は)金額がすごく安かったので、500万円から700万円くらいは違っていたと思いますね」
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 Bさんが「企広」に支払うのは1160万円で、そのうちの一部は80歳ごろまでのローンを組んで工面しました。ところが、去年のうちに終わるはずだった工事は延期を繰り返し、迎えた今年の4月…

 (Bさん)「企広の営業の方から『倒産しました』という知らせが来て。最悪の結果になってしまったというのを実感したというか、もうどうしようという感じでしたね」
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 破産した当時のBさんの実家の様子。木材や脚立は放置され、壁はなく向こう側が丸見えです。工事は3割ほどしか進んでいませんでした。ローンは残ったままで、その上、工事の続きを別業者に依頼せざるを得ず、新たに約700万円を出費する羽目になりました。

 (Bさん)「ホンマに生きた心地がしないというのはこういうことなんやなっていう。どうやってその辺のときを過ごしたかというのがね…。もう怒り、腹が立つしかもうないんです。(企広の)社長に対して。私はもう許せない、もう一生」

Cさんのケース:国からの補助金が受け取れないまま会社が破産

 問題は工事だけではありません。相生市内に住む会社員のCさん(40代)は、「企広」に依頼して去年秋にマイホームを建てました。家は無事に建ちましたが…

 (Cさん)「こどもエコホーム補助金。(企広側は)手続きが終わりしだい、早い段階で振り込みますとおっしゃっていました」

 「子育てエコホーム補助金」は、高い省エネ機能を有することなど複数の条件を満たした住宅に対し、メーカーを通じて国から100万円の補助金が出る制度です(※戸建て住宅は受け付け終了)。

 今年3月28日には、国から「企広」への振り込みがされたとの通知が届きました。しかし、Cさんに振り込まれないまま会社は破産しました。
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 (Cさん)「正直悪質ですよね。それがあったらもっと子どもたちとかにもいろんなことをしてあげられるのかなと思ったら、悔しい思いでいっぱいですね」

破産の半年ほど前から安い値段で仕事件数を増やしていたか

 多くの憤懣の声があがる突然の破産。会社があった場所を訪れてみると…

 (記者リポート)「破産から約半年が経ったこちらの住宅メーカー。当然、中には誰もいなくて、裏手に回ると資材が当時のまま放置された状態となっています」

 「企広」は今年4月末に神戸地裁姫路支部から破産手続きの開始決定を受けました。

 「企広」と20年近く取り引きをしていたという工務店の社長が取材に応じました。会社は数年前から経営状態が良くなかったと話します。

 (工務店社長)「3~4年前くらいから、工事代金の支払いがちょっと遅れる傾向があったので。最初のうちは1か月、2か月(の遅れ)だったんですけど、遅くなったら3か月、4か月。ちょっとずつ延びていった感じやね」

 ところが、破産する半年ほど前から、むしろ仕事の件数を増やしていたといいます。
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 (工務店社長)「(去年秋から)急にたくさん仕事があるなというイメージはあった。つぶれる前は結構駆け足で仕事を取っていたみたいなので、たぶん結構安い値段でお客さんと交渉して仕事を取っていた」

破産管財人 債権者に返済できる見込みは「極めて薄い」

 破産の前に何が起きていたのか。取材班が企広の社長の自宅を訪ねるも会うことはできず、代理人弁護士を通じて取材も申し込みましたが、「回答できることはない」と応じてもらえませんでした。
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 ただ、今年8月、神戸地裁姫路支部で開かれた債権者集会の出席者によりますと、破産管財人などからは去年時点で会社が2億8700万円の債務超過となっていた一方、破産する前の月まで新規契約を取っていたと説明があったといいます。

 なぜ直前まで仕事を受けていたのか問われると、社長はこう答えたといいます。

 (「企広」の社長 ※債権者集会の出席者によると)「いろいろ金策にも走っておりましたし、案件もそこそこありましたので、それを契約して運営していこうと。待っていただいている支払いもそこで払っていこうと考えておりました」

 また、破産管財人からは、債権者に返済できる見込みは「極めて薄い」との説明があったということです。

「想像を絶するつらさ」ローン返済と家賃の二重払いに苦悩

 地鎮祭をしただけでマイホームの夢が終わってしまった加古川市のAさん。それでも2150万円のローン返済は残っていて、いま住んでいる家の家賃との二重払いに苦しんでいます。

 (Aさん)「1年や2年で返せるような金額ではないので。本当に何十年という単位でよく分からないものにお金を支払い続けていく。想像を絶するつらさですよね。本当に人間のすることじゃないなと思いますね」