年々増加する自動車の窃盗。今後さらに被害が拡大する可能性があるといいます。専門家が“史上最恐最悪”と警鐘を鳴らす新たな手口とは?実態を取材しました。

アラーム音に気づき玄関を出ると…愛車を盗もうとする男たちの姿

 「盗られてそいつらが得をするようなことは嫌やった」

 大阪市西成区に住む50代の男性。5月8日、自宅に停めていた愛車を盗まれそうになりました。

 (男性)「やたらこの(防犯センサーの)アラームがピコピコ鳴るんですよ。まさか泥棒かと思って」

 狙われたのは、4年前に新車で約800万円で購入したトヨタのアルファード。駐車場に設置された防犯カメラが、犯行の一部始終を捉えていました。
20250617_jidousyatounann_yt-000101534.jpg 【防犯カメラの映像】
 午前2時半ごろ、1台の車が男性の家の前で止まると、顔を隠した3人の人物が、駐車場に止められたアルファードに近づきます。

 周囲を警戒しながらバンパー部分でなにやら作業を進める3人。防犯対策で設置されていたアラームが何度も鳴りますが、やめる様子はありません。

 仲間からなにかを受け取った1人がしゃがみ込んで作業を続けます。その時…

 「なにしとんじゃこらー!!」

 アラームや物音で犯行に気づいた男性が玄関から飛び出してきました。車は急発進。乗り遅れた2人は走って逃げていきました。

 (男性)「こっちはしんどい目して働いてるのにね。夜に家に来てそれ(車)を持っていってお金を稼ぐような人は絶対に嫌やなと。『そんなことはあかんぞ』という思いで追いかけた」

 車を盗まれるのは免れましたが、確認したところバンパーの一部が壊されていたといいます。

 (男性)「ここのネジを外してガンってやるんですね。開けられて、なにかをつながなあかんセンサーを抜いてたらしいんですよ」

犯人らが使ったとみられる手口「CANインベーダー」とは?

 犯人らが使ったとみられる手口が「CANインベーダー」です。CANとは『Controller Area Network』の略語で、車の制御を司るシステムのこと。車内に張り巡らされた制御システムの配線に、外部から専用の機器をつなぎ、特殊な信号を送ることでドアを解錠したり、エンジンを始動したりすることができるといいます。

 車のセキュリティ対策を行う専門店で、実際に機器の操作をみせてもらいました。
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 (セキュリティラウンジ名古屋 加藤学社長)「盗難手口で一番多いCANインベーダーといわれる装置です。モバイルバッテリーサイズですが、車のコンピュータに直接アクセスするためのプログラムが組み込まれています。不正にパネルを外して、実際には中にはコネクタがありまして、そのコネクタにピンを差し込むんですね」

 中のコネクタに機器をつなぎ合わせると…

 (加藤学社長)「いまコンピュータにアクセスし始めたところですね。ライトがつきました。いまエンジンがかけられて、もう解錠されていると思います」

 わずか3分ほどでエンジンをかけることができました。

 名古屋・北区でCANインベーダーを使った犯行の一部始終が、防犯カメラに収められていました。狙われたのは高級車「レクサスLX」。2人組が車の左前方に工具のようなものを差し込み、部品を無理やり外します。もう1人が何かを手渡したあと、手元で操作をするとライトが点灯。

 ロックも解除され、運転席に乗り込むと…エンジンがかかり、勢いよく走り去っていきました。車に触ってから走り出すまでの時間は、わずか1分半でした。

 CANインベーダーが出回り始めた2020年ごろから、自動車の盗難被害は増加傾向(警察庁による統計)で、メーカーや警察は警戒を強めていますが、盗難が減る気配は一向にありません。

専門家が“史上最恐最悪”と指摘する新手口

 専門家はその背景にCANインベーダーに続く新たな手口が普及している可能性を指摘します。

 (自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子さん)「通称『ゲームボーイ』と呼ばれる、キーエミュレーターという、これがいま非常に増えています。“史上最恐最悪”。」

 自動車窃盗の新たな手口、通称「ゲームボーイ」。

 (自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子さん)「スペアキーがその場で作れてしまうということが、“史上最恐最悪”と言われる所以です」

 液晶や十字キーなど、見た目がゲーム機そっくりな端末を車に近づけてドアノブを数回引くと…ロックが解除されエンジンがかかります(Youtubeに投稿されている動画より)。

 ドアを開けたりする際、ドアノブ部分からは微弱な電波が発せられています。通称ゲームボーイは、その電波に含まれるキー情報を引き出し、端末自体を合鍵として使えるようにするもので、海外で被害が増えているといいます。

 本来は鍵をなくした際、スペアキーを作るために開発された通称ゲームボーイ。「違法な使用は禁止」と書いて販売する海外のサイトには…
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 (記者)「『ゲームボーイ』と検索しますと、いくつか機械が出てきて、高いものだと2万ユーロ、日本円で約330万円で販売されています」

 このサイトでは4つの機種が日本円で約160万円~330万円で販売されていました。

「対策意識を持たないとガンガンやられる」

 専門家は、今後日本でも通称ゲームボーイによる被害が拡大する可能性があると話します。

 (自動車生活ジャーナリスト 加藤久美子さん)「CANインベーダーは鍵が無くてもエンジンをかけて盗むことはできるのですが、そのあとまた鍵を作らなきゃいけないんですね。ゲームボーイはその場で鍵自体を作りますので、窃盗犯としては便利なツールかなと思います。これは今後もっと増えていくと思います。対策をしないといけないという意識を持たないと、もうガンガンやられます」

 次々に登場する新たな手口。自分の愛車が狙われるかもしれないという意識を持って、対策をする必要がありそうです。