「やはりお米です」。認定NPO法人キッズドアで困窮する家庭への食料支援を担当している渥美未零さんは、今年の特徴を聞いた記者の質問にこう即答しました。
支援物資の中でもエース級、「お米さえあればなんとか乗り切れる」と言われていた米が、今年はこれまで取引していた卸業者からの入手が難しくなってしまいました。方々あたってなんとか必要量を確保したそうです。
物価高に続く米価格の高騰が、困窮子育て家庭をさらに追いつめいています。
農林水産省によると、全国のスーパーにおける米の週平均価格は7月13日時点で5キロあたり3589円。4月から5月にかけての4200円台よりは政府備蓄米流通の影響で値下がりはしているものの、昨年の同時期2300円前後と比べるとまだ高値です。さらに細かく見れば、これまで食べ慣れていた銘柄米は13日時点でも4261円で、ほとんど値下がりしていません。
◆9割の家庭で「コメ不足」

キッズドアに支援登録している家庭に対して行われたアンケート調査(2025年5月23日~6月2日:回答数2033件)でも、経済的な理由から米が「とても不足している」「やや不足している」家庭が9割を超えています。
現在食べられているお米の量は一か月あたり4キロ未満(2人家族)が45%を占めていて、渥美さんは「支援を申し込んでくる保護者には、一か月の食費がひとり1万円以下という方も大勢いらっしゃって、今まで2000円くらいで買えていたお米が倍以上の価格になるのは打撃が大きすぎる」と話します。
買えないものは米だけではありません。「現在、経済的な理由で食事に不足しているもの」という質問について、「とても」「やや」を合わせて「肉、魚、卵、乳製品、豆腐など」は95%、「野菜」は92%、「果物」は97%という回答で、物価高騰に対応できていない家庭がほとんどであることが判ります。
その一方で保護者の収入は、2024年の賃金が「上昇しなかった」は72%、上昇した人でも、その増加額が物価上昇に対して十分だと「思わない」は91%で、賃金上昇の恩恵は届いておらず、むしろ生活はより厳しくなっているといっていい状況です。実際、今年の食料支援には全国3361世帯から申し込みがあり、その数は去年夏の支援より約400世帯増えています。
◆「水を飲んでしのいでいます」「子どもが遠慮することもある」
アンケートには保護者の悲痛な声が綴られています。
・お米だけでなくいろんな物価高騰で生活が苦しいです。お風呂に何日も入らないとかトイレを流さないとか細かく節約をしても厳しいです。
・最近いつも食事不足で野菜も足りておらず、麺類1人分を親子二人で分けたりしています。普段は水を飲んでしのいでいます。
・シングルマザーですが、過労で倒れ病気で療養中です。物価高騰で食料が満足に買えず、子どもに我慢させることも増え、子どもが「僕はいらないよ」と遠慮することもあります。
・本当にお米が必要なんです。子どもたちにお腹いっぱい栄養あるものをただ食べさせてあげたいだけなんです。たまにはハンバーガーも買ってあげたいです。
・今年の夏は猛暑になると言われていますが、お米や食料品の高騰で生活費が圧迫されることを考えると、とてもエアコンは使えないと思っています。
さらに夏休みには給食がなくなることで、家計では食費の負担が増え、子どもが十分な栄養を摂れなくなる可能性も高まります。こうした食生活の悪化は子どもの成長や健康状態にも影響します。アンケートにも子どもがイライラしたり集中力が落ちることが多いという回答だけでなく、「病気にかかりやすくなった」「体重が増えていない」「身長が伸びていない」といった回答も2割~3割あり、看過できない現状が浮き彫りになっています。
◆「毎年悪くなっているが、今年は底が抜けた感じがある」
キッズドアの渡辺由美子理事長は「困窮家庭の状況は毎年悪くなっているが、今年は底が抜けた感じがある」と話します。「これまでは親の食事を減らして子どもに食べさせていたが、今年は子どもにも食べさせられなくなっている。十分な食事が取れないということは、子ども自身が『自分は貧困なのだ』と自覚しながら育たなければいけないということ。こうした環境が子どもの将来にどんな影響を及ぼすか心配です」と危機感を募らせています。

キッズドアでは、この夏は米やレトルト食品など7000円ほどの食糧支援を3000世帯に行い、資金はクラウドファンディングで集めています(7月31日午後10時まで)。目標金額は2100万円ですが、超過したお金は支援に漏れた361世帯への支援に充てる予定です。支援物資はすでに一部発送されていて、保護者から安堵の声も届いています。
・この度の食料支援、ほんとうにありがとうございます。主食をたくさんいただけたおかげで子どもの好きなお肉や高くてなかなか買えないお魚を食べさせてあげたいと思います。
・支援をしてくださった皆様の温かい気持ちが詰まった段ボールいっぱいの食品をありがとうございました。夏休みの食費や生活費を抑えることばかり考えて孤独な思いでしたが、ほっと一息つくことができました。
・7月中旬ですが今月は食費に使えるお金が残り4000円しかなく、本当にどうしようかと思っていたところ届いたので、心から助かりました。
子どもたちの夏休みはこれからが本番です。お腹が満たされるだけでなく、友達と遊んだり様々な体験をすることも子どもには大切な成長の糧です。一人でも多く、心も体も大きくなれる夏を過ごしてもらいたいものです。(取材・文 MBS東京報道部 石田敦子)