再審=裁判のやり直しを請求中の元死刑囚の死刑を執行したことは、弁護権の侵害で違法だとして、元死刑囚の弁護人らが国に賠償を求めていた裁判。大阪地裁は5月14日、弁護人らの請求を棄却しました。(松本陸)
▼2人殺害の強盗殺人などの罪で死刑が確定 4回目の再審請求中に死刑執行
岡本啓三元死刑囚は、1988年に他の男らと共謀し、男性2人を殺害し多額の現金を奪った上、2人をコンクリート詰めにして造成中のゴルフ場に遺棄したなどとして、強盗殺人や死体遺棄などの罪に問われ、2004年に死刑が確定しました。
岡本元死刑囚は2008年に1回目の再審請求を申し立てましたが、棄却が確定。その後、2011年と2015年に岡本元死刑囚の弁護人が再審請求を申し立てたものの、これらも棄却が確定しました。
そして、2017年に弁護人が4回目の再審請求に踏み切りましたが、大阪地裁での審理中の2018年12月27日、大阪拘置所で岡本元死刑囚の死刑が執行されました。
▼争点となったのは殺意の発生時期
死刑が確定した刑事裁判や、4回にわたる再審請求審で、岡本元死刑囚側は一貫して、「成立する罪は強盗殺人ではなく、殺人と強盗の併合罪だ」と主張していました。つまり「殺意が発生したのは現金を強奪した後で、強盗殺人罪は成立せず、量刑が変わってくる」という旨の主張です。
▼「弁護権を侵害」賠償を求め国を提訴
岡本元死刑囚の弁護人3人は、▽死刑執行により、再審請求での立証が困難を極めることになった。弁護権を直接侵害され、誤判を正し死刑確定者の命を救うという責務の遂行が不可能になった。憲法が定める適正手続の保障にも違反する ▽恩赦出願中や再審請求中の死刑執行が国際人権規約に違反するという理解は、国際社会で確立されている として、計1650万円の賠償を求め、2020年12月に大阪地裁に提訴していました。
▼国側「刑事訴訟法の規定では、再審請求に刑執行停止の効力ない」
一方の国側は、「刑事訴訟法の規定に照らせば、再審請求に刑の執行を停止させる効力はない。再審請求中に刑の執行を停止できる裁量権が検察側には認められているが、岡本元死刑囚について死刑執行を停止すべき事由は見あたらなかった」として、請求の棄却を求めていました。
▼「再審請求により当然に執行が停止されるとすれば、請求が不断に繰り返されることで死刑執行が永続的に不可能に」大阪地裁は請求を退ける
大阪地裁(大森直哉裁判長)は5月14日、「内容や回数などに関係なく、再審請求によって当然に死刑執行が停止されるとすれば、再審請求が不断に繰り返されることによって、死刑執行が事実上永続的に不可能となる。死刑制度の維持を前提とする限り、現行の法制度の下でそうした事態が生じることは不合理で、今回の死刑執行が憲法の保障する適正な手続きに違反したとは言えない」と指摘。
「再審請求中の死刑執行者に一律に死刑を執行してはならない職務上の義務を導くことは困難」として、弁護人らの賠償請求を棄却する判決を言い渡しました。
▼「人の生命を奪う不可逆的かつ究極の刑罰である以上、再審請求中の死刑確定者への死刑執行は慎重な検討を要する」との付言も
一方で14日の地裁判決では、「死刑が人の生命を奪う不可逆的かつ究極の刑罰である以上、再審請求中の死刑確定者への死刑執行については慎重な検討を要するというべき。今回の判決によって、再審請求中の死刑確定者への死刑執行が違法と評価される場合があり得ることまでは否定されない」という付言もありました。