京都で室町幕府を開いた足利将軍が食べた御膳。再現の舞台裏に密着しました。

 真剣なまなざしで調理する学生たち。作っているのは、京都で武家政権を築いた室町幕府の第12代将軍・足利義晴にふるまわれた御膳です。一体どんな料理なのでしょうか?

 1522年に記録された文献には、足利義晴が12歳の時、祇園祭を見物しながら雑煮やタイの焼き物などを食べたことが記されています。

 この料理を再現しようと約1年前に立ち上がったのが、和食の歴史などを研究する京都府立大学の学生たちです。

 (京都府立大学・プロジェクトリーダー 小川航典さん)「『食』という面で新たな祇園祭の発見があっておもしろいかなと思っています」

 当時はどんな食材が使われていたのか?文献を読み解きヒントを探します。

 (先生)「今のしょうゆを使えないから」
 (学生)「たれみそ?」
 (先生)「たれみそとかね、そういうやつを使って味付けするしかない」

 去年4月、学生たちが訪れたのはプロジェクトで調理を担当する調理師専門学校。文献から苦労して辿りついたレシピで本当に再現できるのか?意見をもらいに来たのですが、さっそく大きな問題が…

 (調理学校の学生)「代表的な調味料のしょうゆや砂糖が、当時はあんまり使われていない調味料になる?」
 (小川航典さん)「簡単に手に入るものではないので、なかったということで進めていく」
 (学芸員)「かなり禁じ手があるという状況ですが」
 (調理学校の学生)「砂糖が使えないとかいろいろ難しいところは多いですね」

 なんと、しょうゆや砂糖といった今では当たり前の調味料が“使えない”のです。というのも、室町時代はしょうゆや砂糖を製造する技術がまだ確立されておらず、「塩」や「たれ味噌」が使われていました。

 予想外の壁に学生たちも頭を悩ませます。さらに話し合いを重ねると、新たな課題が…

 (小川航典さん)「当時考えられた材料で作っていただけたら、それは当時の味になるのかなと考えている」

 調味料も含めて忠実に再現したいと思う学生たち。一方、調理学校側は…

 (調理学校の学生)「(味を考えると)『本当にこれ食べていたのかな?』って。儀式的に出しているだけで、実は裏でもっとおいしいものを食べていて。これはあくまで見た目だけみたいな感じなのか」

 (調理学校の学生)「おいしいものを提供したいというのは第一にあるので、そこをどうね…」
 
 「忠実な再現」か、「おいしさ」を求めるのか、足利将軍が食べた料理に思いを馳せ、3か月にわたって試行錯誤が繰り返されました。

 そして迎えた試食会。限られた調味料のみを使いつつも、最大限の工夫を凝らして味にもこだわった料理を作り上げました。

 忠実な再現にこだわっていた学生たちも…

 (小川航典さん)「これはこれでおいしいかなと思います」
 (府立大学の学生)「おいしかったです、全部」
 (府立大学の学生)「もっと癖があるかなと思っていたけど、全然(ない)」

 始動から約1年、雑煮や、タイの焼き物のほか、みょうがやナスなどの野菜が入った饅頭など13の料理を再現した「足利将軍の御膳」がついに完成しました。

 再現された貴重な料理は、現在は食品サンプルに加工され京都市内の博物館にあります。「和食」など日本人の伝統的な食文化を知ってもらおうと開催されているイベントで展示されています。

 (京都から)「味付けとかも質素なのかもしれないが、十分豪華だなと」
 (東京から)「ちょっと食べてみたいなと」

 約500年の時を経て再現された足利将軍の御膳は多くのことを教えてくれたようです。