阪神タイガースは5月13日~18日に5試合を行いました。13日のDeNA戦では9回表2アウトから高寺望夢選手が試合を振り出しに戻すプロ初ホームランを放ち引き分けに持ち込むなど、2勝2敗1分け、貯金を今シーズン最多タイの6として首位に立っています(19日時点)。今回は、キャンプから変化が見えたという中野拓夢選手と新人離れした落ち着きを見せる伊原陵人投手について、ミスタータイガース・掛布雅之氏が解説しました。
スイングを変えることで確実性を向上 不動の2番バッター・中野選手
掛布雅之さんが注目したのは、不動の2番バッターの中野拓夢選手。去年の不調を経験したからこそ仕事が明確になり、確率重視の打撃になったと指摘します。そして、バントや出塁によって、今シーズン調子の良いクリーンアップへのつなぎ役に徹する中野選手を次のように評しています。
掛布さん「中野選手は優勝したときにフルイニング出場し、あれだけ活躍してレギュラーになったと、多少のおごりもあったと思うんですね。去年、自分の野球ができず、今年は野球に非常に危機感を覚えてキャンプをスタートしたと思うんですよ。その中で、自分のバッティングは何かと考えたときに、大きな打球を打つよりも、内野の頭を越えるヒットや、詰まっても内野安打というのが中野選手のスタイル。グリップを下げてアッパー気味にスイングすればフライが多くなりますから、アッパー気味のスイングをレベルスイングに変えようということで、グリップをあまり下げずにトップの位置からそのままボールをたたきにいくようなスイングに変わり、今年はフライの確率が低くなってるんですよね。確実性も上がりました」
掛布さん「そしてもう1つは、クリーンアップにつなぐバントです。野球選手は、たとえ2番であっても主役になりたいんですよ。ただ阪神は、クリーンアップの状態がいいということで、1つのバントがクリーンアップの打点に繋がり、チームの勝利に繋がるということで、バントに対する考え方が、今までの中野選手から変わっています。自分が犠牲になって1つのアウトを相手に与えるけども、このアウトが得点に繋がるという“犠牲になる野球の美学”みたいなものを中野選手は知ったんじゃないでしょうか。また、犠牲バントを数多くすることによって、中野選手の打率は下がりません。そうなると今年の中野選手の数字は、たぶん3割をクリアする打率を残すと思うんですね。すごく期待できると思います」
―――掛布さんは今シーズンが始まる前からキーマンに中野選手をあげていましたね。
掛布さん「キャンプで中野選手を初めて見たときに、去年の打ち方と変わっていたので、今年に懸ける相当強い気持ちを感じたんですね。それと藤川球児監督が一度、中野選手が状態が悪い時に、2番から下位打線に落としたことがあります。これが中野選手自身に大きな危機感を与えたと思うんです。レギュラーだと思っている選手に対して、危機感を与える監督の起用法というものも、今の中野選手の数字に繋がっていると思います。だから、中野選手の起用法に関しては藤川監督のファインプレーかもしれません」
伊原投手の強みは「低めと高め、コースへの投げ分け」と「球の出どころの見づらさ」
そしてもう1人注目したのが、ルーキーの伊原陵人投手。マウンド度胸が満点でコントロールも抜群な伊原投手について、新人王候補と太鼓判です。
掛布さん「気持ちがすごく強いんですよ。右バッターの懐にどんどんストレートを投げられるのがその表れです。そして、低めに投げられるコントロールがある。バッターは低めにコントロールされているボールを打とうと思うと、絶対にボールの目付けは低くして構えるんですよ。低めのボールを意識しますから、そこにあえて高めのインコースのカットボールを投げる。低めのボールの目付けをして、高いところからカットボールを入れられると、目とボールの距離が取れないんです。だからバットを振る道を塞いでいるんです。低めと高め、コースの投げ分けができる技術と、あともう1つ素晴らしいのは、投げるときにボールが打者から見えないように隠れるんですよね。バッターからするとタイミングがとりづらい。速度以上にストレートの速さを感じる伊原投手のフォームの素晴らしさがあります」
掛布さん「ただ、伊原投手のこれからの大きな課題もあります。まだ各チームデータがないですから、一回りしてデータが整うと、1回痛い目にあうと思います。その後、彼がどうピッチングを組み立てて変えてくるか。伊原投手の本当の姿は1回打たれてからですね。新人王の第1候補です」