阪神タイガースは、4月4日から行われた巨人との伝統の一戦を3連勝で終え、単独首位に躍り出ました。阪神の元監督・矢野燿大氏は、育成出身のルーキー・工藤泰成投手の起用や、データを逆手に取った?近本光司選手の初球打ちを、この3連戦での注目ポイントにあげました。
DeNA戦は嫌な流れで負け越しも…伝統の一戦で3連勝!
―――4月1日~6日の阪神は、DeNAとの3連戦が2敗1分けとなりましたが、巨人戦で3連勝しましたね。
(矢野さん)「DeNA戦はちょっと嫌な流れだったんですよね、負け方も、追いつかれ方も。勝てた試合もあったので、嫌な流れでしたね。ただ、巨人戦ではいい形になりました。中身も良かったです」
巨人との3連戦を振り返ります。4月4日の試合では、大山悠輔選手の勝ち越しタイムリーがあり、去年・おととしと満塁の場面で打ちまくった木浪聖也選手が今年も“満塁男”ぶりを発揮して走者一掃のタイムリー。そして5日は、佐藤輝明選手が『球団8500号ホームラン』となるメモリアルアーチを含め2本打ちました。近本選手は守備でのいいプレーから勝ち越しのホームランが生まれました。6日は、門別啓人投手がプロ初勝利、ピッチャー陣が奮闘しました。
―――1試合2HRの佐藤選手について、いかがですか?
(矢野さん)「エラーもありますが、やっぱりこうやって打つ魅力がありますし、逆方向に打ち出しているというのはすごく良い状態になってきているかなと」
―――打球が逆方向へ飛ぶというのは良い状態?
(矢野さん)「今まではファールになっていくことが多かったんですけど、捉えて逆方向にしっかり距離を出せるっていうのは、良い形、良いポイントで打てているので、状態的に良くなっているかなと思います」
プレッシャーがかかる場面でマウンドに上がったのは育成出身ルーキー
―――巨人との3連戦、矢野さんがポイントとしてあげたのは『工藤投手のフォークボール』。「1個のアウトが1アウト以上の価値があった」とみているようですね。工藤投手は6日の試合、1点リードの6回途中2アウト1塁3塁の場面で門別投手に代わり登板。すごくプレッシャーがかかるシーンでした。
(矢野さん)「門別投手の初勝利の権利もかかっている。1点差で絶体絶命のピンチ。プレッシャーがとてもかかるんですよね。そこでの藤川球児監督の投手交代は思い切っていて、僕も監督目線で見てますから、ここで工藤投手にいかせたというのは面白いなと、藤川監督らしいなと思いましたね。(工藤投手の気持ちとしては)『こういう場面で使われてうれしい』っていうのがプレッシャーを上回っているんじゃないですかね」
―――工藤投手が抑えピッチャーとして9回を託されるようになることは?
(矢野さん)「ポテンシャルとしてはあります。ただ、プロの目線で見ると、“もうちょっと必要かな”というところがあります。今回、初球をアウトコースに全力で投げましたが、引っかけて抜けました。そして次はシュートで抜ける。ボールのずれ方が斜めにずれるのではなく、縦にずれるようになってほしいんです。縦にずれだすと、高めは空振りを取れて、ボールの角度がしっかりとつきます。シュート回転と引っかけるっていうのは、試合の中で使いにくい。1球目から縦にしっかりずれていくようなボールになったら、抑えは間違いなくいける」
―――ボールを引っかけてしまうのは力みですか?
(矢野さん)「力みはやっぱありますね。そして『抑えたい』『初めからいくぞ』という(体の)開きが引っかけている状態になるんじゃないかなと思います。ただ、ポテンシャルはありますし、楽しみで仕方がないです」
相手バッテリーの思考を逆手に取った?近本選手の『初球打ち』
―――続いては打撃のポイント。5日の試合、3回1アウト1塁の場面で近本選手が初球をホームランにしました。『初球』というところがポイントだと?
(矢野さん)「あまり初球を打つというイメージのバッターではないですよね」
―――前のバッターの富田蓮投手がバントを失敗して、相手チームがホッとしたようなところで、近本選手に打席が回ってきました。
(矢野さん)「相手からしたらエアポケットというか、『1アウトとれたし、ピッチャーが1塁にいる。近本選手はあんまり初球を打ってこないから、外のスライダーで入ればカウント取れるんじゃないの…えー!打つのー!?』みたいな。そんな感じのすごく価値があるホームラン。得点圏だったら打つけど、ここは打たないでしょっていうところを打ちに来た」
―――巨人バッテリーはデータ(近本選手の初球スイング率:17.1%)をわかった上で配球したのでしょうか?
(矢野さん)「データを知っているからこそ、逆に近本選手がそれを利用したんじゃないかなというところも僕はあると思います。チャンスメイクするのが1番2番と言われるんですけど、私が監督時代に『お前が決める試合もあっていいんじゃないの』という話をしていたんですよね。だからここ、初球をなぜ打ったのか近本選手に聞いてみたいですね。いろんな考えを持って、根拠を持ってこの初球を打ちにいって、それを決めてくれたっていうのは価値がすごく高いんじゃないかなと思いました」