去年、石伊雄太(中日)と立松由宇(ロッテ)の2人がプロ入りを果たした社会人野球の名門・日本生命。2月下旬、大阪・貝塚市にある日本生命グラウンドを訪れると、最速151キロの右腕・谷脇弘起投手(23)は、シーズン開幕に向け順調な仕上がりぶりを見せていた。(取材・文 MBSアナウンサー 金山泉)
この日、シート打撃に登板した谷脇。力感のない投球フォームから投げ込まれる常時140キロ台後半のストレートは、ベース盤上で伸びてくる。日本生命入社後に習得したという縦のカーブは相当の落差があり、そう簡単に捉えることはできない。
「カーブは、カウント球でも勝負球でも使える。カウントを取りたいときに今まではストレートでしか取れなかったが、カーブでもカウントを取れるようになってきた」と、制球力向上に取り組んできたカーブに手応えを感じている。
2024年は大きな経験を積んだ1年だった。
世界一に貢献、いっぽうプロのレベルも痛感
U23日本代表メンバーとして9月に行われたW杯に出場し、世界一に貢献。その後、社会人選抜の一員として、11月と12月の台湾ウィンターリーグでもマウンドに上がり、NPBチームの内藤鵬(オリックス)からフォークボールで三振も奪うなど好投を見せた。
一方、代打で出てきた重松凱人選手(ソフトバンク育成)に、初球の148キロのストレートを打たれ、ホームランを許した。「育成選手でも代打で出て1球で仕留める力を持っている」とプロのレベルの高さを感じて帰国した。
これまで何度も悔しさを味わってきた。
和歌山県の公立校・那賀高校のエースとして、高3年夏の和歌山県大会で決勝に進出。黒川史陽(楽天)、東妻純平(DeNA)、小林樹斗(広島)、細川凌平(日本ハム)を擁する智弁和歌山と対戦し、黒川に先頭打者本塁打を打たれるなど9回を投げ15安打12失点。強力打線から11三振を奪うも、聖地まであと1歩の所で涙をのんだ。
立命館大でもエースとなった谷脇は、大学4年時にプロ志望届を提出。大学ラスト登板となった23年秋の同志社大戦では、リーグ史上31人目のノーヒットノーランを達成したが、ドラフト当日に名前が呼ばれることはなかった。
「何があっても起き上がる」今秋にうれし涙は…
谷脇は「(大学4年時は)結果も出ていなかったので、プロ入りは無理だろうなという所は正直あった。ノーヒットノーランはドラフトの1週間前。遅すぎたなと思います」と当時を振り返る。今年はドラフト解禁年となる社会人2年目だ。「5完投2完封。そして2大大会の優勝。チームで結果を残してプロに行きたい」と今シーズンの目標を語る。
「子供のころからいつも試合の応援に来てくれる両親の存在も大きい」と、支えてくれる家族への感謝も忘れない。弘起(こうき)の名前の由来は、「何があっても起き上がる=起」だという。数々の悔しさを乗り越えてきた右腕のうれし涙が、今秋ドラフトで見られるかもしれない。
◆谷脇弘起(たにわき・こうき)
2001年11月25日生 和歌山市出身 185㎝88㎏ 右投左打
那賀高(和歌山)~立命館大~日本生命 高3夏の和歌山県大会準優勝。大会6試合で66奪三振の大会最多記録を樹立。甲子園出場経験はなし。
関西学生リーグ通算35試合8勝8敗。大学4年秋の同大戦でノーヒットノーラン達成(リーグ史上31人目32度目)。
【野球サイコー!取材後記】
これまで様々な経験をしてきた谷脇投手。「過ぎた時間はすべてDESTINY 今の君を産んでくれた」。その「くやしさを忘れないで」。
※「過ぎた時間はすべてDESTINY(運命) 今の君を産んでくれた」「くやしさを忘れないで」 ・・・B’z「Easy Come,Easy Go!」の歌詞
◆取材・文 金山泉(かなやまいずみ)
MBSアナウンサー。1982年6月5日生、新潟県上越市出身。野球とB’zをこよなく愛する。投手として首都大学リーグ2部で通算11勝(8敗)をマークした。