昨シーズン、大谷翔平選手や山本由伸投手が所属するロサンゼルス・ドジャースがワールドシリーズを制し幕を閉じたメジャーリーグ。いよいよ今シーズンのキャンプインが近づいてきました。実は日本のプロ野球とは“全く違う”というメジャーのキャンプ。その仕組みについて、阪神タイガースのエースとして活躍後、オークランド・アスレチックスやサンフランシスコ・ジャイアンツでプレーしてメジャー通算100試合の登板経験があるプロ野球解説者・藪恵壹さんに聞きました。

全体練習はわずか2時間!?日本とは違うメジャーのキャンプ

―――メジャーリーグでプレーする主な日本人選手は15人ということで、日本人メジャーリーガーが増えました。

「私がメジャーに行った時で23人目でしたが、今はもうトータルで70人を超えています」

―――メジャーリーグのキャンプは、アリゾナ州とフロリダ州、2か所に分かれて行うようですね?

「計30チームあるんですけど、半分ずつ、アリゾナのカクタス・リーグとフロリダのグレープフルーツ・リーグに分かれます」

―――藪さんはアリゾナキャンプを経験されましたね。

「そうですね。乾燥地帯でピッチャーにとっては非常にハードな場所ですね」

―――乾燥しているとピッチャーは不利?

「変化球が曲がりにくかったり、ボールがよく飛ぶんですよ。だからなかなかピッチャーには厳しいところです」
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―――日本のプロ野球と違って、メジャーでは選手が一斉にキャンプインせず、先にピッチャーとキャッチャーがキャンプイン。5日ほど遅れて野手が合流するという形のようですね。

「先にバッテリー組を集めて、体の検査をやります。一斉に来ると人数が多すぎるので、半分に分けると。そういう意味で(ピッチャーとキャッチャーに)先に練習をさせておくと」

―――全体練習が2時間ほどというのは短いですね。

「いくつかのセッションに分かれていて、それを20分ずつぐらいでやっていくという感じです。それ以外はウエイトトレーニングをする選手もいます。アリゾナは昼間はすごく暑くなかなか走れないので、朝、まだ暗いうちから走っている選手も結構います」

―――日本のキャンプとメジャーのキャンプの一番の違いは?

「メジャーのキャンプはサバイバルなんですよ。とにかく選手を集めて、開幕の26人の選手枠を決めていく」

―――藪さんがキャンプに参加していた時は、2時間の全体練習のほかは自身で考えていた?

「僕は球場に入るのはだいたい一番でした。クラブハウスは午前5時から開いていて、まだ真っ暗なうちから行って、少し動いてから朝ご飯を食べるという感じでした」

―――“あいつは一番乗りで頑張ってるな”という感覚はアメリカにもありますか?

「ありますね。毎日誰かが見てくれていますし。僕がご飯を食べていたら、『俺にも毎日用意してくれ』とジャイアンツ時代にパブロ・サンドバル選手に言われて、毎日同じようにタッパーに入れて用意していました」

『ミールマネー』支払い前日に肩をたたかれる…メジャーのキャンプは毎日が厳しい“サバイバル”

―――練習より実戦だというのがメジャー流。開幕メジャーの当落線上の選手は結果が残せなければクビ。投手であれば、2度のチャンスで2度打たれるともう厳しい?

「最初の2週間ぐらいは野手と投手の組に分かれて練習します。いざ実戦で試合が始まりますと、1週間に1回『ミールマネー』といってキャンプ中もお金がいただけるんですが、その前日にバサッと切られるんですよ。朝、ウォーミングアップをしようというタイミングで『ちょっと』と声をかけられる。もうそこまで用意周到に考えられています」

―――前のシーズンまでの実績は関係ないのでしょうか?

「ある程度はありますけど、やっぱり2度打たれたりすると、次の日はもう戦々恐々。他の選手がウォームアップに出ている間に肩たたきされて、その間に全部荷物整理をして帰っていくという。アップに出ていた選手たちが戻ってきたらもういない…。選手同士の挨拶もできずにバイバイっていうことも結構ありますね」

―――藪さんはオークランド・アスレチックスでそのような厳しいキャンプをクリアしてメジャーで投げられていたと?

「最初に僕がオークランドに行ったときは、契約で守られていたので、キャンプで切られるということはなかったです。ただ、招待選手という形で参加する選手らは40人の選手枠に入っていないので、いつ切られてもおかしくない」

キャンプには『日本人の中学生』も招待選手として参加!?

―――キャンプインのときはメジャー契約の選手が40人、さらにマイナー契約の招待選手らがいて、そこから開幕時は26人に絞られます。佐々木朗希投手、藤浪晋太郎投手、青柳晃洋投手は招待選手として参加のようですが、佐々木投手はどういった扱いになるのでしょうか?

「佐々木投手の場合は若くして取られましたので、まだ長く見てもらえるところはあると思います」

―――藤浪投手と青柳投手はどうですか?

「サバイバルですね。もうここは頑張らないと」

―――藪さんがコロラド・ロッキーズ時代に招待選手として参加したキャンプには、中学生も!?

「日本の中学生が6人くらい来られていまして。それでよく聞いてみると『僕たちも招待選手です』って言うんですよ。青森山田高校に入る前の子たちだったんですけど、中学生で招待を受けていたみたいです」

―――そして生活面では、キャンプ地に自分で家を借りたり、購入したりする選手もいるのですか?

「キャンプ地がフロリダとアリゾナで決まっているので、何年も長い契約をしている選手は家を持っていたりします」

―――藪さんはどうされていましたか?

「僕はアパートを借りたり、ホテルに泊まったり」

―――先ほど話がありました『ミールマネー』。“食事代”ということですが、現金で支払われるようですね。

「メジャーの年俸は4月からの半年間を12等分して2週間に1回支払われるので、キャンプ中はその年俸が発生しないんです。そこで、キャンプ中はこのミールマネーが1週間に1回、メジャーは1000ドル以上ですかね。マイナーもミールマネーはもらえるんですけど、1日20ドルとかその程度だと思います」

―――日本のキャンプに家族が帯同してる印象はあまりありませんが、キャンプ施設では大谷選手の妻・真美子さんの姿も。メジャーでは家族が参加するのは一般的ですか?

「キャンプ中にいろいろイベントもあったりするんですよ。ドジャースは夫人会が盛んにやっていますから、たぶんそういうのもあるんじゃないでしょうかね」

藪さんが予想する今シーズンの大谷選手の成績は?

―――大谷選手は日本時間12日、キャンプインです。昨シーズンはバッティングの方で大活躍しましたが、今シーズンはどうなるのか。ドジャースのロバーツ監督は「投手の復帰は5月ぐらい」と以前は話していましたが、2月に入って「早まるかもしれない」とコメント。これについてはいかがですか?

「自主トレ中の映像を見ても、キャッチボールもすごく強めに投げていましたし、もしかしたら日本でのオープニング、東京シリーズで投げようとしてるんじゃないかなと。それぐらいの急ピッチで仕上げていますよね。割とボールも強いですし、もういつでもバッター相手に投げられそうな感じに見えます」

―――「大谷選手は想像を超えてくる男」だと見ている藪さん。今シーズン、ピッチャーとしては10勝以上、バッターとしては50本塁打以上の成績を残すのではないかと予想しているようですね。

「そうですね。20試合ぐらい先発すれば、半分勝てば10勝なので。打つ方でホームラン50本というのは、彼の目標とするところだと思います」

―――ロサンゼルス・エンゼルス時代は15勝した年もありました。10勝以上・50本塁打以上が実現するとすごい記録ですね。

「そうですね。彼しかできない記録です」

―――投手の名誉『サイ・ヤング賞』は狙えるのか、開幕シリーズの日本での登板はあるのか、このあたりはどう見ていますか?

「『サイ・ヤング賞』というのは投手の最高の賞です。日本でいう『沢村賞』。ピッチャーに特化しないとなかなか難しい賞かなと。20勝とかそういう数字がいると思います」

―――コンスタントに先発ローテーションで投げ続けた場合、休日を作る必要は?

「僕の経験からいくと、1試合投げるともうクタクタです。体もパンパンで、次の日何もしたくないっていう状況が生まれます。でも大谷選手は、投げた次の試合の方がバッティングの調子が良かったりするんですよ。ただ怖いのは、スライディングとかで肩のけがもありましたし、盗塁の数は減るんじゃないかなと思います」

大谷選手だけじゃない!藪さん注目のメジャーリーガーは?

―――藪さん注目の日本人メジャーリーガーは他にもいます。ボルチモア・オリオールズに入団した菅野智之投手。約20億円の1年契約です。

「1年契約なので今シーズンがもう勝負だと。今年に全てをかけて成績を残さないと、来シーズンがどうなるかわからない」

―――菅野投手はメジャーで活躍できると思いますか?

「できると思います。去年投げていたボールがメジャーの球で同じように投げられるとすれば、勝てるかなと思います」

―――シカゴ・カブスの今永昇太投手は昨シーズン、15勝3敗で防御率は2.91です。カウンセル監督は「昇太は日本で投げる。それは義務」というふうに話しています。今永投手の昨シーズンの成績について藪さんはどう見ますか?

「素晴らしい数字ですし、これをいかに5、6年続けるかなんですよね。5、6年続けてたら超一流の仲間入りです」

メジャーの開幕戦、ドジャース対カブスの一戦が3月18日・19日に東京ドームで行われます。日本人選手同士の対戦にも注目が集まります。