「この時期に沖縄にいないのは、なんだか不思議な感じですね」

 2月中旬、兵庫県明石市にある三菱重工Westグラウンドを訪ねると、北條史也(29)は笑顔でそう話してくれた。

 阪神タイガースで11年間プレーした北條は、今年から社会人野球の名門『三菱重工West』の一員として、新たな野球人生をスタートさせている。(取材・文 MBSアナウンサー金山泉)

プロ生活「終わってみればあっという間」

 阪神でのプロ生活を「やっているときは長くは感じたけど、終わってみればあっという間でした」と振り返る。プロの舞台で放った安打は308本、その中で印象に残っている一打を聞くと、2019年に甲子園で放った本塁打を挙げた。

 「9月21日の広島戦の8回、菊池保則投手からレフトスタンドへ打った決勝2ランはすごく印象に残っていますね。CSに出るには6連勝しかない状況での1試合目で、少し甘く入ってきた初球のシュートを打ちました。9回表、守りにつくときの大歓声は今でも覚えています」

 チームはこの日の勝利で勢いに乗り6連勝でCSに進出。北條はDeNAとのCSファーストステージ第一戦でも3ランHRを含む5打点の活躍でチームを逆転勝利に導き、CSファイナルステージ進出の立役者となった。

悔いはあるか?と聞いてみた

 プロ生活で悔いが残ることはあるか?と聞くと、すぐに「“2017年”と“ケガ”ですね」と返ってきた。

 「2016年に頑張って、ある程度結果を残せて。大事な次の年、開幕スタメンで起用してもらったんですが、結果を残すことができなかった」と唇を噛みながら思い返す。

 その翌年の2018年、甲子園での守備の際に左肩を脱臼。2020年にも左肩を2度脱臼し、手術もした。「今も痛む時があります」と北條は話す。

 阪神から構想外を告げられた時、北條の頭の中に‟現役引退“という選択肢は無かった。

 「まだ野球を続けたい」と、他球団や独立リーグでの現役続行の道を模索していた、そんなときに…。

獲得の打診「プロ経験を選手たちに伝えてほしい」

 そんな時に、打力のある右の内野手の補強を目指していた三菱重工Westの大川広誉GMから獲得の打診があった。

 「阪神時代、プロアマ戦で対戦していて、レベルが高いなと感じていた。社会人野球はトーナメントで行われる。その短期決戦の中で自分がどれだけやれるかというのも、すごく興味深かった」と、三菱重工West入りを決めた。

 三菱重工Westの津野監督は「プロでの経験を選手たちに伝えてほしい」と期待している。この日の練習を見ていると、北條が若手選手に守備の動きを教えている場面を見かけた。

 「みんな目をキラキラさせてプロのことを聞いてきますよ。そういう子たちに負けないように頑張りたいですね」と、プロで学んだことを余すことなく若手選手に伝えながら、自分自身も刺激を受けている。

 「社会人野球はわからないことばかりなので、今年は、僕自身勉強の1年になると思う。その中で結果を残して、あと何年野球をやれるか分からないけれど、1年1年、まず今年が大事という気持ちでやっていきたいですね」

 生き生きとした表情でそう話して、グラウンドを去った北條史也。新天地でどんなプレーを見せてくれるのか、今からワクワクが止まらない。

◇北條史也(ほうじょう・ふみや)
1994年7月29日生 大阪府堺市出身 177㎝80㎏ 右投右打
光星学院~阪神~三菱重工West
光星学院(青森)の主軸として、高2夏から3季連続甲子園準優勝を果たし、2012年ドラフト2位で阪神入団。4年目(2016年)にキャリアハイとなる122試合に出場し、打率.273本5点33の成績を収めた。プロ通算成績は、455試合 打率.255 本18 点113。

【野球サイコー!B’zで紹介する取材後記】

「RED」のマーク、三菱重工Westを新天地に選んだ北條。阪神時代から「楽をしない 偉ぶらない」。常に謙虚な姿勢でひたむきに練習に取り組んできた。これからも「永遠にtry」していく。
※「RED」…2015年6月発売、B’z52枚目のシングル。「楽をしない 偉ぶらない」「永遠にtry」はREDの歌詞。

◇取材・文 金山泉(かなやまいずみ)
MBSアナウンサー。1982年6月5日生、新潟県上越市出身。 
野球とB’zをこよなく愛する。投手として首都大学リーグ2部で通算11勝(8敗)をマークした。