夏の甲子園へ向けた地方大会。大阪では8日いよいよ始まりました。高校野球取材歴はMBSアナウンサーとして38年、その前の高校・大学生時代を合わせると50年近くウォッチして、一部の高校野球ファンからは“神”と言われている森本栄浩アナウンサーに、今年の大阪大会や全国の注目校、近畿地区の情勢についてズバリ聞きます。ちなみに森本さんと私はMBSの同期で、暇さえあれば2人で高校野球の話ばかりする間柄です。《聞き手/MBS報道情報局 澤田隆三プロデューサー》

《澤田》これはもう聞かずもがな、かもしれませんが、まずは大阪大会を展望して、ズバリ本命のチームと、対抗のチームをあげてください。

《MBS森本栄浩アナウンサー》本命は大阪桐蔭ですね、もう大本命ですよね。対抗は、僕は近大付だと思います。右2人のピッチャーがいちばん安定していて失点が少ないチームです。

《澤田》毎年、大阪桐蔭の対抗に上がってくるのは履正社なんですけれども。

《森本》まず大阪全体を見ると、今年は例年に比べると打力が弱い。そんな中で履正社は打てるチームなんだけど、センバツでは打てなかった。そこからどれだけ上げてくるか、です。

金光大阪・キャリー投手(森本アナ撮影)

《澤田》今年の春季大阪大会の決勝で大阪桐蔭を破った金光大阪はどうですか。

《森本》大阪桐蔭が伝統的に苦手とするチームです。過去にも夏や秋の大会で何度か負けたことがあるんです。この春の試合では、キャリーという左の投手を打てませんでした。キャリー投手はけっこう球数が多いんですけど、決定打を許さない。金光は去年のセンバツにも出場し、経験者が残っていて実績では大阪桐蔭の次といえます。ただ、さきほどの履正社も当然あがってくるでしょう。大阪の大本命は大阪桐蔭。対抗としては近大付、金光大阪、そして履正社というところでしょうか。

《澤田隆三プロデューサー》本命の大阪桐蔭なんですけれども、秋の大阪大会、近畿大会、そして神宮大会で優勝しました。センバツでは大本命と言われましたけども準決勝で報徳学園に負けました。その後、春の大阪大会の決勝で金光大阪に負け、近畿大会でも1回戦で奈良の智弁学園に負けました。大阪桐蔭は大阪府内で2020年の秋から56連勝していたのがストップし、スポーツ紙でもニュースになりましたよね。森本さんはその間の戦いぶりをどう見ていましたか。

《MBS森本栄浩アナウンサー》今年の桐蔭は前田悠伍という大エースがいて、彼のチームであることは間違いないんです。その前田投手がセンバツのあとベンチを外れて、夏一本に絞って調整を続けました。西谷監督は、前田投手抜きで他の選手たちでどれだけやれるか、というところを見ようとして春の大会を戦ったのだけれども、結果として勝ち切れなかったということだと思います。やっぱり前田投手の存在がいかに大きいかということですね。ただ同時に下級生、特に1年生の新戦力が出てきましたよね。チームとして底上げはある程度できたんじゃないかな。前田投手の状態次第では大阪を勝ち抜いて、全国大会(甲子園)でも大本命になると見てます。

――前田投手がセンバツ以降のベンチを外れたことで公式戦でも全く投げなかったので、一部ネットやメディアの間ではケガをしてるんじゃないかとか、いろんな憶測が出ましたけれども、森本さんは取材をしていてどう見ていたんですか。

大阪桐蔭の”大エース”前田投手「センバツ以降のベンチ外」何があった

大阪桐蔭・前田悠伍投手(森本アナ撮影)

《森本》僕が取材したところでは、西谷監督は、前田投手は下半身の強化で走り込み中心の練習を進めている、とのことでした。故障はしていなかったと思います。ただ状態が上がってこなかったのはあると思うんですよね。6月1日に愛知県の学校から招待されて名古屋のバンテリンドームで練習試合をしました。前田投手も同行したんですけれど、一切投げませんでした。

 招待した享栄には前田投手と並ぶ評判の東松快征というすごい投手がいるんですけど、結局前田投手は投げず、直接対決は実現しませんでした。本来なら招待を受けた試合なので、顔見せといいますか少しは投げてもよかったんですけど、投げなかったということはやはりまだ状態があがってきていないのかな、と思いました。

 つい先日、大阪桐蔭はメディアの取材を受けて、前田投手は報道陣の前でピッチングを見せました。いいボールを投げていました。本人も不安はないということでしたので、夏一本に絞って練習をやっていたのではないでしょうか。

――大阪大会を勝ち抜くことは決して楽ではないんですが、やはり本大会の甲子園を見すえての調整といえるんでしょうか。

 当然、前田投手は甲子園でピークというふうに考えていると思いますし、今年の大阪はさきほども言いましたが打力のあるチームが少ないので、打ち合いという展開は少ないと思うんですね。逆に言うと、大阪桐蔭の打線がしっかりと援護できれば、そんなに苦しい戦いにはならないんじゃないかな。

打の大阪桐蔭、注目選手は

《澤田隆三プロデューサー》前田投手が戻ってきて、またケガで休んでいた3番の徳丸快晴選手も戻ってきて、大阪桐蔭が万全な戦力で大阪大会に臨むとしたらこれはもうなかなか簡単には崩せないといいますか…。

《MBS森本栄浩アナウンサー》そうですね。攻撃面でも徳丸選手が外れて、春の大阪大会の終盤あたりから打線が繋がらなくなったんですよね。西谷監督はかなり打順を変えたりしたんですけどなかなかうまくいかなくて。ケガから復帰した2年生の徳丸選手はうまさもパワーも両方ある、ここ最近ではずば抜けた選手と思っています。歴代の大阪桐蔭で下級生が3番を打つことはあまりない。

――桐蔭で、ほかに注目している選手はいますか

 前田投手がベンチを外れた間、キャプテンを任された笹井知哉選手です。彼は一塁手で本人は「自分はアグレッシブな1番バッターです」と言っていました。どんどんどんどん積極的に打ってチャンスメイクしたいと。笹井選手はセンバツのときはケガのため三塁コーチャーを務めていましたが、西谷監督は「彼の成長が春のいちばんの収穫です」とおっしゃってましたね。

――では、大本命の大阪桐蔭に弱点はあるかということで少し話をしたいと思います。わたしも去年の秋からこのチームを見ていますが、例年のチームにくらべて内野の守備に不安が残ると思うんですが。

はい、たしかに守備のミスで失点するケースが何度かありました。スローイングのミスもありました。そのあたりは確かにこのチームの課題とは思いますね。

――一方、投手陣全体の話になりますと、前田投手のほかに、どんな投手に期待が集まりますか。

 実績でいうと右の南恒成投手なんですけど、春は肩の調子が良くなくて、近畿大会ではベンチを外れていました。夏に向けてどのように復調できているか。彼が一番実績あるので非常に重要な戦力ですね。2年生では平嶋桂知という右投げの投手。それと境亮陽投手がいます。

――いずれにしても、やはり今年は前田投手の存在が際立っているということですね。

 前田投手をはじめて見たのがおととしの秋の大会で、そのときに西谷監督にうかがったら「自分が見てきた左ピッチャーで1年生のこの段階でこれだけできるピッチャーはいない。教えることがない」と。けん制も、クイックもできるし打者との駆け引きも。もちろんボールはいいし、強いて言えば課題はスタミナということでしたが、もう絶賛でした。

全国の強豪校… 夏連覇めざす仙台育英 春優勝の山梨学院は

《澤田隆三プロデューサー》わたしも前田投手がデビューしたおととしの秋の試合をいくつか見ましたが、本当に驚きました。体は大きくなくどちらかといえば線が細い印象なのに、打者はまったく打てないんですね。チェンジアップが魔球のようでした。その年の神宮大会では対戦した敦賀気比は手も足も出ずに三振の山。気比の東監督は「まったく打てる気がしなかった」とお手上げでした。仮に、大阪大会を勝ち抜いて甲子園に出場するとなれば、全国的にみてもやはり前田投手はナンバーワンになりますか。

《MBS森本栄浩アナウンサー》 もうナンバーワンに近いでしょうね。全国をみれば、センバツのあとのU18代表の合宿に参加した愛知・享栄の東松快征投手、山形中央の武田陸玖投手らの名前があがっています。ただ、甲子園のような大きな大会での経験はまだないので、これからどれだけ実績を残せるか、その点ではやはり前田投手はすでに大きな大会で経験を積んでいて一歩抜けていると思います。

――まだ地方大会が始まったばかりなんですが、この段階で全国で注目するチームをいくつかあげてもらえますか。

 まず仙台育英。ピッチャーが揃っているということですよね。打線がどれぐらいやれるかですけど、仙台育英の高橋煌稀、仁田陽翔、湯田統真の3投手、いずれも150キロのスピードがあります。去年の夏、今年のセンバツでも投げていて実績もありますし、これだけのレベルの投手が揃っているのはなかなかありません。ただ半面、投手の調子はいつもいいとは限らないので交代のタイミングが難しい面はあります。仙台育英は投手起用法というのが須江監督の腕の見せ所かな、と思います。

 次に神奈川の横浜ですね。左腕の杉山遙希投手がいいです。それに1年生の時に甲子園でサヨナラホームランを打った緒方漣選手は経験値が高い。ただ今年の神奈川は全国的に見ても激戦区です。慶応、東海大相模、桐光学園なども力がありますので。

 愛知も注目です。さきほど触れた東松投手の享栄。それに愛工大名電、東邦も力があります。もし享栄が夏の甲子園に出れば28年ぶりということになりますね。

 西の方では広島の広陵です。真鍋慧選手という主砲がいるんですけど、今年の高校球界のスラッガーのなかではナンバーワンです。しかも真鍋選手以外にも打てる選手がいますし、選手の質の高さはすごいです。このほか、真鍋選手と並ぶスラッガーで高校通算本塁打140本の佐々木麟太郎選手がいる岩手の花巻東も有力チームです。

――センバツで優勝した山梨学院はどうでしょうか。

 山梨学院と広陵が戦った準決勝は、センバツでいちばんいい試合で、見ごたえがありました。センバツは林謙吾投手が一人で投げぬきました。山梨大会を勝ち抜けるかどうかは、ほかの投手がどれだけ頑張れるかがカギではないでしょうか。夏は一人で投げぬくのは難しいですから。チームとして名前をあげるなら、そういったところだと思います。

――ありがとうございました。次回は、大阪以外の近畿地区の展望と、注目選手について話を聞かせてください。