アンドレス・イニエスタ選手の、涙の退団表明会見から2日。選手や監督はもちろん、見守るサポーターや相手チームさえも、特別な郷愁に包まれる中で、ホーム・ノエビアスタジアムにヴィッセル神戸がFC東京を迎えた一戦。ヴィッセルは、今シーズン積み上げてきた、攻守にハードワークするサッカーで、難敵を撃破。今シーズン10勝目を飾って、首位をキープしました。

ヴィッセルは前半、前線からプレッシャーをかけて、相手ボールを奪って高い位置から素早く攻撃を仕掛けるサッカーが機能。20分、その狙いどおりにボールを奪うと、左サイド深く侵入した汰木康也選手のクロスに、武藤嘉紀選手が右足のアウトでうまく合わせて先制のゴール。


41分には、FC東京のGKヤクブ・スウォヴィク選手のミスキックに複数の選手が反応。吉田孝行監督が、「春のキャンプから、ずっと練習してきた形」というように、連動した動きで素早く前線へ展開すると、最後は右サイドの初瀬亮選手がチェックにきたディフェンスの選手の両足の間を通して送り込んだグランダーのパスに、大迫勇也選手が走りながらヒールで流し込む、「これぞストライカー」のゴールで2点目。一気に試合の流れを引き寄せます。


さらに44分。ルーズボールに齊藤未月選手が、競り勝ってマイボールにすると
、本多勇喜選手からの縦パスを受けた大迫選手が、武藤選手の動き出しに合わせて、センターバック二人の間に絶妙のスルーパス。パスを受けた武藤選手が、GKのタイミングを冷静に外して3点目。前半で3対0と大きくリードを奪います。

2得点の武藤「本当に幸せな時間を過ごさせてもらった」

後半、思い切って人数をかけて、攻撃の手を強めたFC東京の圧力の前に、不運な判定もありPKで2点を失ったものの、最後まで集中力を切らさず3対2で勝利。
勝ち点3を積み上げて、がっちりと首位をキープしました。


勝利の後、2得点を挙げた武藤嘉紀選手が、「世界最高の選手とプレーできたことは、この上ない経験。選手として、本当に幸せな時間を過ごさせてもらった。」とイニエスタ選手への感謝の言葉を口にしました。


さらに、武藤選手へ絶妙のアシスト、自身も技ありシュートで、得点ランキングトップを快走する大迫勇也選手も、「正直彼がいたから、このチームに来たというのはある。いなくなるのは残念だが、残された立場として、しっかりと結果を残していく責任もある。」とチームメイトへの思いとともに、プロとしての決意を語りました。


そのイニエスタ選手は、2試合ぶりにベンチ入り、ピッチサイドで戦況を見守りながら入念なストレッチとアップを繰り返し、出場に向けての準備と、チームメイトへの鼓舞を絶やしませんでした。試合終了後には、サポーターとともに“神戸賛歌”を合唱。神戸への思いを胸にピッチを後にした姿に、会場からは、惜しみない拍手が送られました。


敗れたスペイン出身のFC東京・アルベル監督は、「しばらく時間がたった後、皆さんは、どれだけ偉大な選手がこの神戸でプレーしていたことを思い起こし、その時に感動を覚えることでしょう。(わたしは、同じクラブで仕事をしたわけではないが),アンドレス・イニエスタ選手が日本に来てくれたこと、日本でプレーしてくれたことを心から感謝したいと思います。」と語りました。

世界的名手の雄姿を目にできるのはあとわずか。イニエスタ選手の神戸での最後のゲームとなる7月1日のホーム札幌戦まではもちろん、そのあともヴィッセル神戸の面々には、結果を背負いながら戦い続ける使命が待ち受けています。

MBSスポーツ解説委員 宮前徳弘