高い状態が続くコメの価格。「米穀安定供給確保支援機構」が5月に発表した向こう3か月のコメ価格の見通しでは、“この先も高いまま”という見方となっています。そんな中、従来とは違うやり方や最先端農業に挑戦しているコメ農家もいます。品薄解消や適正価格の維持につながるかもしれないコメ作りとは?
政府は「流通の問題」と言うが…「そもそもコメの量が足りてない」
コメ価格高騰の原因について、政府は、去年のコメ作況指数が平年並みの101だったこともあり、流通の問題だとしています。これに対し、農業法人トゥリーアンドノーフの徳本修一代表は、現場としては「そもそもコメの量が足りてない」といいます。
この作況指数は、全国に8000あるサンプルの水田で実際に手刈りをして調査しますが、今の時代、手刈りをしている農家はないようで、そもそもこれが古い手法であり、ずれがあるということです。ではなぜ作況指数の出し方を長年、この方法でしているのか。それは、ここ20年~30年、コメはずっと余ってきたため、問題なかったということです。
備蓄米はこれまで約21万t放出されました。そのうちJAなど大手集荷業者が9割以上を落札。JAが落札した約20万tのうち、出荷は約6万t(5月8日時点)。実際にスーパーなどに並んでいる量はかなり少なく、流通などに時間がかかっているともいわれています。
そして、『原則1年以内で買い戻し』というルール自体も、備蓄米が世に出てこない1つ原因になっているかもしれないということで、政府は条件の緩和を検討しています。
「生産効率が悪い」から価格が高い?
トゥリーアンドノーフの徳本修一代表は日本のコメ農家の問題点として「生産効率が悪い」ことを挙げていて、これが価格の高さにつながっているといいます。
専門家曰く、この50年で世界のコメの生産量は3.5倍に増えていますが、日本は半減しています。日本ではここ数十年、効率よく収穫量を増やす品種改良はタブーとされ、非効率な生産が続いているのです。その大きな原因は、日本の農家の大半が『零細農家』であること(経営耕地面積10ヘクタール未満が94.8%)。背景には「戦後の農地解放」「ここ20年~30年コメが余っていたので効率化を図る必要がなかった」などがあります。
これからの農業には「経営」「科学」が必要?
あるコメ農家は「コメの価格が上がっているが、人件費や機械が高騰しているのでそんなに潤わない」といいます。そうした農家も消費者も得していない状況の中、徳本代表は「安くてももうかるコメ作り」の仕組みを作っています。
徳本代表は、異業種から農家に転身していて、外部から客観的に見たときに昔ながらのやり方や常識に違和感を持ったことから、新しい米作りに挑戦。いまは引退した農家から農地を借りて、大規模で省力化した農業を進めているといいます。
徳本代表曰くこれからの農家には「経営」「科学」が必要だということです。農業法人トゥリーアンドノーフでは、田んぼ100ヘクタール(甲子園球場約26個分)を、徳本代表を含めて4人で運営しています。繁忙期は週休1日ですが冬場は週休6日で、利益率30%(一般的には数%とも)だということです。
ではどう利益を出しているのか?例えばAIと衛星を使い、衛星で上から見た葉の色のデータをもとに生育の良い場所・悪い場所を分析し、“育ちにくい”ところにだけ肥料をまけば、必要な肥料は最低限で済みます。また、肥料をまく際もドローンを駆使しているといいます。
さらに、当たり前と思っている「田植え」や「土を耕す」ことをしないで効率化します。安定して均一な品質を収穫するには田植えをしたほうがいいですが、今は品種改良や技術改良が進んでいることもあり、絶対にしなければ稲は育たないというわけではないそうです。
新しい生産方法を取り入れることで、これまで必要だった作業を行わずに、たった3~4人で100ヘクタールを運営できているそうです。田んぼ1枚あたりの投下労働時間は通常25~30時間のところ、トゥリーアンドノーフは5~6時間で済んでいるということです。
コメの値段を安くしながら利益を出すには、生産効率を上げるためにIT・AI技術や最新の肥料・品種を使うことが必要ですが、そのためには水田を集積して「大規模化」する必要があるといいます。
国にも「農地バンク」という制度があります(2014年~本格実施)。農地を貸したい人が国に一度預け、国が農地を借りたい人に貸し付ける仲介をすることで、借りたい人たちが農地を大規模化できるシステムですが、実際にはまだ大きな動きがないのが現状だと徳本代表は指摘しています。
コメ価格“利益を出せるライン”は…
一般的なコメの原価は1kg玄米ベースで推定300円ほどですが、徳本代表は、効率化しているので120円ほどまで下げられているということです。徳本代表によりますと、日本全国がこの120円(1kg玄米ベース)に近づけることができれば、農家が利益を出せる“ライン”は5kgあたり3000円だということです。
また、消費者側の“コシヒカリ信仰”をどうするかという課題もあるといいます。コシヒカリを買う人が多いため農家もコシヒカリを多く作っていますが、実は暑さに弱い品種。消費者がコシヒカリ以外の品種を買うようになれば、農家はより効率的に収穫できる品種を作るようになり、価格を下げることにつながるかもしれません。