バチカンのシスティーナ礼拝堂で行われた次のローマ教皇を決める選挙「コンクラーベ」は、日本時間の8日午前0時半すぎから始まりました。1回目の投票では新たな教皇が選出されなかったことが伝えられました。約14億人の信徒がいるカトリックのトップ選出は、世界中から大きな注目を集めています。故フランシスコ教皇の葬儀には40万人以上の信者らが集まり、160を超える国や国際機関の首脳らが参列したように、その影響力は計り知れません。

極秘の選挙 システィーナ礼拝堂での投票

 コンクラーベは、完全非公開の秘密選挙です。投票会場はミケランジェロの「最後の審判」があるシスティーナ礼拝堂。ここに投票権を持つ枢機卿と呼ばれる高位聖職者約133人が集まります。部屋に鍵をかけて投票を行い、一人が3分の2以上の票を獲得するまで続けられます。投票の様子は完全非公開ですが、現在公開されている映画「教皇選挙」でその様子が描かれており、手書きで記入する様子や投票したあとに投票用紙を燃やす様子、そして結果発表時の煙があがる様子が描かれています。東京大学の山本芳久教授は、「世界中に影響を与える出来事。アメリカ大統領選挙がそうであるように、日本にも非常に大きな影響を与えるものだと思う」と話します。コンクラーベとは一体?山本教授への取材をもとに徹底解説します。

宗教を超えて…世界への影響力

 まずローマ教皇の存在から見ていきましょう。第264代はヨハネ・パウロ2世教皇(ポーランド出身)。第265代はベネディクト16世教皇(ドイツ出身)。ローマ教皇はカトリック教徒14億人のトップであり、バチカン市国の国家元首でもあります。先日亡くなった第266代フランシスコ教皇(アルゼンチン出身)は、コロナ禍においても、個人主義が蔓延する世界において、全人類共通の課題に目を向けるきっかけとなるようなメッセージを発しました。2015年にはキューバとアメリカの国交正常化に尽力するなど、国際政治にも大きな影響を与えてきた存在です。

コンクラーベ「密室選挙」の伝統

 それほどの影響力をもつ教皇を選ぶ選挙「コンクラーベ」とは、ラテン語で『鍵をかけた』という意味がある密室選挙。かつて皇帝よりも権力を持っていた時代もあったため、外部からの影響を排除して、公平な選挙を行うために秘密選挙という方法が採られたとされています。

 カトリックは教皇の下に枢機卿が約250人、大司教が約5400人などとされていますが、投票権を持つのは80歳未満の枢機卿で、今回は約133人に投票権があるとみられています。厳密には、枢機卿以外の誰もが候補者となり得ますが、実質的には枢機卿の中から選ばれています。日本人の枢機卿も2人います。

複数回の投票が行われる可能性

 投票はシスティーナ礼拝堂で行われます。1日で決まらない場合もあり、その場合はサンタマルタ館で食事や宿泊をします。携帯電話の使用は禁止、外部との連絡は遮断されます。無記名投票で、3分の2以上の得票を得ると教皇に選出されますが、誰も3分の2以上の票を獲得できない場合は、投票が繰り返されます。その際は外に未決定を示す「黒い煙」が上がって、再び投票が繰り返されます。

 現地時間のスケジュールは5月7日 午後4時半以降にシスティーナ礼拝堂で1回目の投票。夕方に最初の煙があがります。8日には午前に2回投票があり、煙は正午ごろ1回上がる予定です。午後0時30分にはサンタマルタ館で昼食。午後に2回投票があり、夕方以降1回煙が上がる予定です。前回は5回で決まりました。今回は果たして何回目で決まるのでしょうか。

新教皇の有力候補はどんな枢機卿?予想困難との声

 専門家によりますと、フランシスコ教皇は同性婚に踏み込んだり、バチカンの要職に女性を登用するなど、比較的改革路線と言われてきました。今回はどんな人が注目されているのでしょうか。

 たとえば「バチカンのナンバー2」と呼ばれるイタリアのパロリン枢機卿、保守派とも話ができる中道派として知られているそうです。また、「アジアのフランシスコ」と呼ばれるフィリピンのタグレ枢機卿はリベラルに近いと注目されているそうです。しかし、過去の例からはこんな言葉があるそうです。「教皇(候補)としてコンクラーベに入るものは枢機卿として出てくる」つまり予想が当たらない、結果を予測することは非常に困難ということのようです。

 前回のコンクラーベを取材した記者は、上がった煙が白か黒かわかりにくくグレー色で周辺はざわついたと話していました。その後白い煙があがると大歓声が上がったということです。環境問題、国際関係、社会問題など、世界が抱える様々な課題。新しい教皇からどんなメッセージが発信されるのか、大変注目が集まります。

投票を前にしたバチカンからのリポート

 投票を前にしたバチカンから、仁熊邦貴JNNパリ支局長が様子をリポートしました。

 私の後ろにサン・ピエトロ大聖堂があり、その右奥にありますのが、コンクラーベが行われますシスティーナ礼拝堂です。屋根の部分に煙突がありますね、元々あの場所に煙突はないんですが、今月2日にコンクラーベのために消防隊員らが設置したということです。

 新しい教皇が選ばれなかった場合は煙突から「黒い煙」が上がります。そして選ばれた場合は「白い煙」が上がります。過去何度も白と黒が混ざった灰色の煙が出て混乱したこともあり、今は決まった場合は、白い煙とともに鐘が鳴らされることになっているということです。


 きょう1日で約25万人が訪れるという予測もされていますが、周辺のホテルの価格は通常の倍近くになり、予約もなかなか取れないという状況です。

 近くには店舗もたくさんあるんですけども、コンクラーベにあやかった商品のようなものはありませんでした。ただ、今も売れ続けている商品があって、亡くなった教皇フランシスコのTシャツや、2026年・来年のカレンダーも売れているということです。教皇フランシスコは、弱い人たちの声に耳を傾けた市民の教皇として非常に人気があることがわかります。

 前回は新教皇が決まるまでに投票は5回行われました。バチカンで20年以上取材をしている記者に話を聞きますと、「今回も6回か7回ぐらい行われるんじゃないか」と言っていました。

 というのも枢機卿は普段こちらにおらず、世界各地の教会で働いており、実際お互いのことをほとんど知らないそうなんです。

 今回集まって、準備期間や投票を重ねる中で、食事の時間などに密談などをして投票先を一本化するというふうなことも言われています。

 ただ一方で、何回も何回も投票を重ねると「教会が分裂しているんじゃないか」という印象を与えかねないということで意外とすぐに決まるんじゃないかという意見もあります。決まった後は、大聖堂正面の装飾がある特別なバルコニーから新教皇が姿を見せて、世界に向けてメッセージを発信することになっています。