世界同時株安の連鎖が止まりません。トランプ大統領が日本に24%の関税を発動すると発言し、4月5日にはそのうちの10%が先行発動されました。それにより急激に株価が下がっていますが、影響が及ぶのは株を持っている人だけではありません。日本総合研究所・関西経済研究センター所長の藤山光雄氏とともに詳しく解説します。

◎藤山光雄:日本総合研究所・関西経済研究センター所長 専門分野は地域創生・地域経済

“トランプショック”は他人事じゃない!?生活への影響は…

―――トランプ関税による株価下落の悪影響として、藤山氏は『倒産』『ボーナスカット』『大阪・関西万博』の3点を挙げています。具体的にはどのような影響なのでしょうか?

 (藤山光雄氏)「まずは『倒産』、これは倒産までいかないとしても企業の業績への影響がかなり大きくなってくるんじゃないかと思っています。今回の株安でも、予想以上にトランプ大統領が強気というか、このままいくと日本からアメリカへ輸出している企業の業績に大きく影響が出てくる。大手企業だけではなく、その取引先にも影響が出る可能性がある。取引先まで含めると、部品や材料を納入している企業も中小企業を含め多くあるので、幅広く影響が出てくる可能性があると思います」

 また、そうした企業の業績悪化により、賃金に回すお金が減り、早ければ夏のボーナスにも影響が出るのではないかと藤山氏は指摘します。

―――さらに、もうすぐ開幕の大阪・関西万博にも影響すると?

 「中国人観光客がかなり回復してきていますが、特に今回のアメリカの関税引き上げは中国への影響も非常に大きい。中国の景気が悪化すると海外旅行どころではないと。海外から日本を訪れる観光客にも下押しの影響が出てくるんじゃないかと懸念しています」

株価下落で『ドル安→円高』…これは良いこと?

 株価下落でアメリカの景気が悪化することで、ドルの価値が下がり『ドル安→円高』となれば小麦などの輸入品全般やガソリン価格が下がるのでは?…と思いきやそんなに簡単なことではなさそうです。

 例えば、輸入品である「iPhone」は高くなるのではないかという試算も。Appleはアメリカ企業ですが、iPhoneの大半は中国で生産。中国からアメリカの関税は54%のため、アメリカの証券会社の試算によりますと、最新機種のiPhone16のアメリカ国内での価格は43%上がるのではないかということです。

 この話だと「中国→アメリカ」のことなので、中国から直接的に日本に入る分には関係ないのではないかと感じますが、実は無関係ではありません。

“関税の応酬”で世界の物価は上昇へ…

 トランプ大統領は、中国からアメリカへの関税を54%かけました。それに対し中国も報復として34%の関税をかけていて、二国間で関税の応酬が起きています。また、EUからアメリカへの関税は20%ですが、EU側も報復関税をかけるとしていて、近日中にもその税率を発表するとしています。

 各国で関税の応酬が起きると、お互い高い関税をかけているため、モノの値段はどんどん上がります。それにより、各国から日本へ入るモノの値段が上がるため、日本も物価上昇の影響を受けるということです。

―――藤山さんは「個別交渉がどうなるか」がポイントだとしていますが、どういうことでしょうか?

 「まずは日本からアメリカの関税が24%かからないように、アメリカとの交渉が必要になってくると。ただ、個別交渉は必要ですが、グローバル化する中で企業はモノを安く作れるように世界各地で分業体制を敷いていますので、どこかで関税が上がると完成品のコストが上がってしまう。日本には直接関係のない関税でも、製品の価格に転嫁されて日本に入ってくるモノの値段が上がる可能性があるので、なかなか難しいところはあります」

アメリカの経済は「良くならないと思います」

―――トランプ政権はアメリカの経済を良くするために関税をかけていると思いますが、アメリカ国内のインフレを引き起こしてモノの値段が高くなると指摘する専門家もいます。藤山さんはこの方法でアメリカの経済が良くなると考えますか?

 「私自身はならないと思います。トランプ大統領は、むしろ『良くなる』と強気でこうした関税政策を打ち出していますが、時間軸の違いなのかもしれませんが、そう簡単に企業がアメリカ国内でモノを作るようになるのかと言われると、なかなか難しいのではないのかなと。不透明感、どうなるかわからない状況が経済や企業活動にとって一番不安になってしまう」

日本は今後どうしていくべき?

 JNNの世論調査(4月5・6日調査)によりますと、「日本もアメリカに対抗措置をとるべき」とした人が57%でした。

 一方で、同志社大学大学院でアメリカ政治を専門としている三牧聖子教授は「報復関税は良くないのでは」という見解を示しています。三牧教授は「関税にこだわるトランプ大統領なので譲歩しないだろう」とした上で、「EU・カナダ・オーストラリア・アジア諸国など、自由貿易体制を守ろうとする国々と団結したうえで対米交渉すべき」としています。

 藤山氏も、“団結交渉”の重要性について三牧教授と同様の見解です。

 「中国とアメリカの関係が悪くなくなる中で、日本の企業も中国にあった工場をアジア諸国のベトナムやタイに移して、そこからアメリカに輸出することを積極的に進めてきたところもあるので、アジア諸国の関税が上がると日本企業にとっても非常に大きな問題になります。まさに利害が完全に一致しますので、日本とアジア諸国が一緒にアメリカに対して関税の引き下げ、あるいは条件交渉をやっていくことが日本のためにもなると思います」