大阪府内で公立高校の一般入試が3月12日に行われました。志願者数は約3万4000人、平均倍率は1.02倍で、ともに過去最低に。『定員割れ』する公立高校も相次いでいます。

 高校授業料の無償化で大阪の教育は今後どうなっていくのでしょうか。公立・私立の授業料負担の差がなくなることで考えられる問題点とは?教育アドバイザーの清水章弘さんに聞きました。

◎清水章弘:教育アドバイザー 東京大学在学中の20歳で学習塾を起業 京都在住

公立高校の定員割れは今後も増え続ける?

 2025年度の大阪府立高校の一般入試の出願状況(全日制)は、志願者数が3万4003人、平均倍率は1.02倍と、志願者数も倍率も過去最低となりました。

 定員割れする府立高校の割合はこの3年、増え続けていて、清水章弘さんは「今後もこの増加傾向が続くのではないか」とみています。

 【府立高校の定員割れ状況】
 2023年度:27%(152校中41校)
 2024年度:47%(131校中61校)
 2025年度:51%(128校中65校)

 こうした状況の背景にあるとみられるのが、大阪府が2024年度から段階的に始めている高校授業料の完全無償化です。

 旧制度では、所得によって負担する授業料が区分されていて、収入が多いほど負担額が増える仕組みでした。2026年度に完全移行する制度では、国や府が年収にかかわらず授業料を63万円まで補助し、超えた分は学校が負担する形になることで、家庭負担は実質ゼロに。

 公立・私立を問わないこの無償化によって私立高校の専願率が上がったことなどが、公立高校の定員割れ増加に影響しているとみられます。

「競争や統廃合はいいこと。そもそも大阪には高校が多すぎる」

 清水さんはこうした状況に「公立・私立の授業料負担の差がなくなり、競争や統廃合が起きるのはいいこと。そもそも大阪には高校が多すぎる」と指摘します。

 大阪府内の高校数は現在、公立128校、私立94校。人口が減少している今、適切な学校数・適切な定員に変えていかなければ教育の維持が困難になるということです。一方で、「公立離れ」の加速によって、公立の質が低下する懸念があるといいます。

 大阪府の吉村洋文知事はSNSで「私立も半分が定員割れしている。メディアはここを報じない」「今後さらに少子化になる。今後も定員割れは避けて通れない」とコメントしています。

 清水さんは、私立でも定員割れが起きている現状を認めつつも、「私立と公立を競わせるなら条件をフェアにしてあげてほしい」と話します。条件とは、人件費(教員)・施設・教育内容に関する予算で、この条件を揃えた上で公立・私立を競争させないと不平不満が出てくるのではないかと指摘します。

公立の教員不足に拍車がかかるおそれも!?そのワケとは

 無償化で大阪の高校は今後どうなっていくのでしょうか。“良い未来”と“悪い未来”について、清水さんの見解は以下の通りです。

 【良い未来】
 ■公立・私立で競争し教育の質が向上
 ■大阪全体に適正数の高校が残る

 【悪い未来】
 ■公立教員の負担が増え教員不足に拍車
 ■辺境の公立がなくなり通学や過疎の問題に

 公立の教員不足に拍車がかかることについて、清水さんは次のように述べます。

 (清水章弘さん)「私立は生徒募集などに力を入れていて、塾まわりをしないといけない先生もいる。公立は教育委員会の方針に従う形ですから、求められているものが違う。今後、私立と公立が切磋琢磨、競争していきましょうというときに、公立の先生に生徒募集の業務を求めるとなると、普段やってきたことと違うため、公立の先生になりたい人が減ってしまうのではないかと予想しています」

 高校が集約されて数が減れば、教員も一部の学校に集約されるため、教員不足が改善されるのでは?という疑問に、清水さんは「校長など管理職の人数は減らせるかもしれない」とした一方で「教員は生徒数によって配置されているため、現場の教員の人数は大きく変わらない」という見解を示しました。

 また、公立高校が1校しかないような辺境エリアの自治体では、その高校がなくなってしまった場合に、通学などの問題で子育てがしにくくなると指摘。それにより働き盛りの世帯などの人口流出が起きて、過疎の問題につながるのではないかということです。

大阪の高校の未来…公立が急激に減ることはなさそう?

 清水さんによりますと、高校選びで子どもたちが求めるのは「一番は部活」だといい、教育内容だけでなく、部活が強い・盛んな学校で頑張りたい子どもが多いようです。それぞれの部活で必要な部員数を確保するには生徒数が必要なため、そういった点からも、高校の統廃合は「良い面もある」とコメントします。

 大阪府の公立高校で定員割れが相次いでいる状況。ただ、急に学校が減ることはなさそうだということです。授業料が私立で無償化されても、制服や修学旅行の積立金などを考えると公立のほうが安いと清水さんは指摘。また、保護者からの話でも、大阪の人には高校や大学の進学時にできる限り値段を抑えて入るという意識、“根強い公立主義”があるということです。加えて、農業系・工業系など特色がある学校も残るのではないかという見解を示しています。