3月10日午後に発生した奈良県川上村での山林火災。これまでに約8万平方メートルが焼け11日午後に鎮圧されました。山林火災は今年1月にはアメリカ・ロサンゼルスで、2月には岩手県大船渡市でも発生して1人が死亡、私たちの生活を脅かしています。
山林火災は日本で減少傾向にあったようですが、「温暖化の問題」で今後増えるかもしれないと言われています。山林火災に詳しい京都大学防災研究所の峠嘉哉特定准教授と、日本大学の串田圭司教授への取材をまとめました。
日本で年間1300件発生する山林火災 南米では日本全土の2.3倍の面積焼失
日本の山林火災は2022年までの5年間で年平均約1300件発生しています(林野庁)。おととしには約1299件発生しています(総務省消防庁)。
2023年から世界各地で大規模な山林火災が発生しています。主なものを以下にまとめました。
・フランス南西部の村 焼失面積:約500ha 約2000人が避難
・ポルトガル 焼失面積約:8400ha 約1400人が避難
・ハワイ・マウイ島 114人以上が死亡 約3000棟が被害
・カナダ 1037か所で火災発生 焼失面積:約1400万ha
・カリフォルニア(今年) 約3400ha以上が焼ける 被害1万6000棟
山林火災に詳しい日本大学の串田圭司教授によりますと、去年南米で起きた山林火災での焼失面積は、日本全土の2.3倍の大きさだと話します。そして、山林火災での焼失面積は過去20年で倍増しているということです。
山林火災の99%は人為的理由 日本では木の種類にも特徴
串田教授はまた、『火災の発生理由は人為的なものが多い』と指摘しています。
山林火災が発生する原因は、世界でも日本でも最も多いのは人為的な理由で、日本だと99%が人為的だということです。ほかの原因として、落雷による火災(北米で多い)や、まれに枯葉がこすれて発火することもあるようですし、過去には火山の噴火による火事も起きていました。
どうして山林火災が大規模になってしまうのでしょう。「乾燥」「強風」「急峻な地形」の3つの要素が関係しているといわれます。風向きが当てはまる場合は、緩やかな山より、急な山の方が広がりやすいということです。
そして、日本の場合にはもう1つ”木”にも理由がありました。日本の森林の4割は人工林で、スギ・ヒノキが多いですよね。
人工林の種類はスギ 36.0%、ヒノキ 9.4%、マツ類 1.0%、カラマツ 30.1%、その他針葉樹 17.5%といった割合ですが、日本の人工林の94%は針葉樹となっています。
針葉樹は乾燥した地域や寒い地域で生きることから、油分が多いそうです。そのため火がつくと燃え広がりやすい傾向にあり、針葉樹が多い日本は、山林火災が広がりやすい1つの理由だということです。
温暖化すると山林火災リスク それはなぜ?
続いて「乾燥」についてまとめていきます。まず、火災リスクが上がると言われる乾燥は、「空気中の乾燥ではなく、地表の乾燥のこと」です。
そこに、温暖化との関係が加わります。気温が1℃上昇すると、空気中に含むことができる水蒸気が5%~7%増加するそうです。そうすると地表にあった水分が蒸発して空気側に移っていき、地面が乾燥していきます。空気の湿度は増しますが、その空気は風で移動していき、また地表上の新たな空気に水分が移っていきます。
温暖化すれば山林火災のリスクが高まる、と言われるのはつまり地表が乾燥するこうしたメカニズムだということです。日本の場合は冬から春にかけて、梅雨入り前の5月までは特に乾燥しやすいため注意が必要だということです。
山林火災は現場だけの話ではない
山林火災では現場から離れて暮らす人たちに関係する問題があります。山林火災がもたらす4つの不安要素は以下のようなものです。
■温暖化スパイラル
温暖化が進行→森林が焼ける→山林面積の減少→二酸化炭素吸収量が減少して温暖化が進行するという不安
■土砂災害リスク
強く大きな木が燃えてなくなると根を張って土壌を安定させているものがなくなり、土砂災害リスクが上がる不安
■生物多様性の消失
オーストラリア火災ではコアラも犠牲に。火災によって生息している動物や植物の住処などが消失するリスク
■永久凍土から…
シベリアなど永久凍土で火災が起きたらメタンガスが放出されます。メタンガスの温室効果は二酸化炭素の20~30倍となっていて、より温暖化が進行する不安
かつて自然界において、山林火災は“良い循環”ももたらしていました。火災で焼け野原になった場所に、新たに多様な生物が育ち、新しい森が育ち、若い木は、年期の入った木よりも二酸化炭素をよく吸収するというサイクルです。
ただそれは、山林火災が起きる間隔がそれなりの長さ、という状況下での話です。
山林火災のサイクルは温暖化とともに短くなっているとされます。そうなると“悪い循環”になります。短いサイクルで次の火事が起きると、次の森が育っていないし、もし生き残るとしても外来種など火災に強い生物・植物だけになり、多様性が失われていくということに繋がります。
”火災が起きてからでは遅い。起きる前に対策が必要”
峠嘉哉特定准教授と串田圭司教授に話を聞くと、「火災が起きてからでは遅い。火災が起きる前に対策が必要」と指摘しています。
具体的にどうすればいいでしょう。昔から生活に欠かせない火、例えば「シベリアでは暖を取るために必須な火」であったり、「酸性土のアフリカで土を中和するための焼き畑」、といった暮らしに密接した火を制限するのは難しいと言われます。
日本でも、野焼きや火入れは原則禁止されていますが、許可をとった開墾・害虫駆除・焼き畑などの火入れは可能となっています。
生活の火そのものを禁じることができない場合、山林火災の対策としてできることは、
■台風で折れた木・枯葉、など燃えやすいものを取り除いておく山の整備
■燃えたとしても延焼を防ぐ「防火線」「防火帯」の設置。例えば道路などで仕切ることも、これに該当するそうです。
いま、山の手入れをする人が減っていることで、防火帯の手入れができないことなども指摘されていて、山林火災が広がってしまう背景にあるかもしれません。