兵庫・斎藤元彦知事のパワハラ疑惑などを調査してきた百条委員会が、3月4日に調査報告書を公表しました。報告書では、斎藤知事の職員への叱責などについて、「パワハラ行為と言っても過言ではない」などと評価。その一方で、百条委員会が出した結論に異を唱える関係者もいます。

 報告書の受け止め方に差が出ているワケとは?今回の報告書に斎藤知事はどのような反応を示したのか?以下の3人の専門家への取材を含めてまとめました。

■日本大学法学部・林紀行教授
■法政大学大学院・白鳥浩教授
■白鴎大学法学部・岩崎忠教授

「7つの告発」を百条委はどう判断?

 兵庫県議会本会議で5日、百条委員会の調査報告書が提出され、賛成多数で了承が得られました。

 調査報告書では、告発文書の中で斎藤知事のパワハラとして例示されていた職員への叱責などについて、「パワハラ行為と言っても過言ではない」などと評価。元県民局長を告発者と特定し懲戒処分とした県の初動について、「告発者潰しと捉えられかねない不適切な対応」などと指摘しました。

 また、告発文書で示された7つの疑惑と、県側の対応が公益通報者保護法違反にあたるのかについて、以下のような見解が示されました。

 1.不当な解任で理事長が急死→△:おおむね事実と言えるが一部で臆測も含まれる
 2.知事選で職員が事前運動→否定:確認できず
 3.選挙への投票依頼→否定:確認できず
 4.おねだり体質→△:一部認定
 5.パーティ券の購入依頼→△:一定の事実が記載されており虚偽とまでは言えない
 6.優勝パレードで不当な協賛金集め→△:一定の事実が記載されており虚偽とまでは言えない
 7.職員へのパワハラ→認められる 
 公益通報者保護法→違反の可能性が認められる

 百条委員会が認定した「職員へのパワハラ」や「公益通報者保護法違反の可能性」については法的なものではなく、あくまでも政治的な責任を決めるものとなっています。
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 百条委の調査報告書には以下のような「提言」も記載されています。

 ■告発の調査に当事者は関与しない、通報者探索等は行わないことの明確化
 ■告発者の不利益処分が行われていないか第三者による常設の検証機関の設置
 ■知事は公益通報者保護法及び個人情報保護法に関する研修を受講

専門家の間でも分かれる評価

 一方で、こうした百条委員会の“結論”に、関係者からは異論も出ています。百条委に証人として出席した片山安孝元副知事と、2月に維新を離党した元百条委メンバーの増山誠県議がそれぞれコメントを出しています。

 ■片山安孝元福知事(5日に書面でコメント)
 「不公正な委員会運営」
 「予想された通りの内容の報告を出すに至ったことは誠に残念でなりません」
 「百条委員会として中立公正さを欠いている」

 ■増山誠県議(5日に議会で反対答弁)
 「百条委員会は中立性、客観性が損なわれている」
 「委員会の中止を含めた議論をすべきであったにもかかわらず、それができなかったことを私自身大いに反省」
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 また、専門家のなかでも評価が分かれています。

 ■白鴎大学法学部・岩崎忠教授「(知事をクロにしたいという)結論ありきに見える余地をつくってしまっている」

 ■法政大学大学院・白鳥浩教授「一定の信頼度はあると思う」

 ■日本大学法学部・林紀行教授「はっきりクロと書けたはずなのにわざと中途半端な表現にしている」

 このように意見が分かれる背景について、3人の専門家は口を揃えて言及したのが『去年9月に出した全会一致での不信任決議』。これが一連の混乱に関わっているということです。

”議会が手順を間違ったことが混乱の元凶”

 一連の出来事を時系列に沿って改めて見ていきます。

 去年3月:「7つの疑惑」の告発文書が出される
 6月:百条委員会を設置
 9月12日:弁護士による第三者委員会が発足
 9月19日:全会一致で不信任決議
 11月:兵庫県知事選で斎藤知事が再選
 今年3月4日:百条委が調査報告書を公表     

 林紀行教授は「議会が手順を間違ったことが混乱の元凶ではないか」と指摘しています。本来ならば百条委員会が調査・事実認定をして、その事実認定をもとに県議会が知事の進退を問い、不信任案を提出するかどうかなどの判断をすべきでした。しかし、実際には百条委員会の調査途中で「議会の停滞」を理由に不信任案が可決されました。

議会の選択肢は?各会派の受け止めは?

 では、百条委員会の報告書を受けて今後、兵庫県議会はどうするのか?以下の選択肢が考えられます。

 ■法的拘束力あり…斎藤知事に『不信任決議』
 
 ■法的拘束力なし…斎藤知事に『辞職勧告決議』『問責決議』『辞職申し入れ』(選択権は斎藤知事にある)

 また、議会側の選択肢として『自主解散』で再度民意を問うという方法も。しかしこれは議員の4分の3以上が出席・5分の4以上が賛成する必要があり、不信任決議よりもハードルが高いと言えます。

 林紀行教授は議会の今後について、「今回の結果を重視するなら再び不信任を出すべき」としつつ、「不信任を出さないなら去年の不信任を検証し、県民への謝罪も必要」という見解を示しています。
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 各会派の県議は報告書への受け止めについて、以下のように回答しています。

 ■自民「第三者委の調査結果を待ち整合性を見てから考える」

 ■公明「いったん知事の対応を見守ります」

 ■ひょうご県民連合「知事は『重く受け止める』だけで終わらせないようにけじめをつけてもらわないと」

 ■維新「民意を得ている以上、不信任を出すことはない」

斎藤知事「対応は適切」「違法性の認定はされていない」

 そして、当事者である斎藤知事はどんなリアクションだったのか?5日の本会議終了後の会見での発言をまとめました。

 (斎藤知事)「委員の皆さまに敬意を示します。しっかりうけとめていきたいと考えています。一つの議会側からの見解だったと思います。第三者委員会で調査を進めているところですので、その調査結果を待って適切に対応していきたい」「私としては、県の対応としては誹謗中傷性の高い文章を作成・流布されたことについて、対応は適切であったと考えます」

 公益通報者保護法違反の可能性と指摘されたことについては…

 (斎藤知事)「公益通報もだが違法性の認定はされていないというのが今回の報告書だと思います。違法性の可能性とおっしゃっているので、可能性というからにはほかの可能性もある」