“今シーズン最強で最長”ともいわれる寒波が襲来。こうした冬の寒さがヒートショックや低体温症などを引き起こし、命にかかわることも。また、近年の研究では寒さが高血圧、そして心筋梗塞や脳卒中につながることもわかってきているというです。
専門家によりますと、そもそも“日本の住宅は寒い”ようです。寒い家で高まる健康リスクとその対策法を、建築に詳しい東京科学大学・海塩渉助教への取材などを含めてまとめました。
寒い家で健康リスクが高まる!?『生活環境病』に注意
実は、寒い家で健康リスクが高まる、というデータがあります(「国土交通省補助事業のスマートウェルネス住宅等推進事業調査による成果」より)。
寒い家で生活をしている人は…
■総コレステロール 基準の1.9倍 ※因果関係は不明
■心電図の異常 基準の2.2倍 ※因果関係は現在不明
■血圧の上昇(4mmHg低下で脳・心臓の疾患リスク低下)
※『心電図の異常』の数値を放送後に訂正しています
なかでも血圧については普段の生活の温度との関係がわかってきています。
80歳では男女ともに、室温が5℃下がると血圧が約5mmHg上昇、30歳も、男女ともに室温が5℃下がると血圧は約2~3mmHg上昇。逆に、室温を5℃上げれば、血圧が下がることが判明しています。
厚労省などによると血圧を4mmHg下げることで心臓の疾患や脳の疾患リスクが下がるということですが、上記によれば、血圧は室内の温度を上げるだけで改善されるかもしれません。
建築に詳しい東京科学大学の海塩渉助教によりますと、高血圧・心筋梗塞・脳卒中などの“生活習慣病”だけでなく室内などの環境が引き起こす『生活環境病』にも気を付けるべきだと呼びかけています。
世界の基準より寒い日本の部屋 『低体温症』の死者数が熱中症を超える年も!?
日本の家の居間の平均温度は16.8℃、寝室の平均温度は12.8℃、脱衣所の平均温度は13.0℃。一方で、WHO(世界保健機関)が推奨している冬の最低室温は18℃です。
ちなみに地域別で「冬の居間」の平均室温を見てみると…
・北海道 19.8℃
・新潟 18.4℃
・京都 17.8℃
・大阪 16.7℃
・兵庫 16.5℃
・香川 13.1℃
・大分 14.9℃
・高知 15.8℃
実は北国の方が室内温度が高く、西日本の方が低いことがわかります。
「寒さ」はほかにもこんなリスクにつながります。
・免疫低下による『風邪』
・温度差で血圧が大きく上下することによる『ヒートショック』
・体の深部体温が35℃を下回る『低体温症』
厚生労働省によりますと、2023年の低体温症による死者数は1354人。年によっては熱中症より死者数が多いこともあります。そのうち7割は室内での発症で、さらに65歳以上が6割を占めています。
日本の住宅が寒いワケ① 日本の四季
日本の家は海外と比べても寒いということです。
その理由の1つは、日本の四季。家を建てる際、“寒い場合は厚着をすればいい”という考え方もあり、『夏』に合わせて風通しを重要視するのです。
この考え方は昔から日本にあったのかもしれません。鎌倉時代に書かれたと言われる(※諸説あり)『徒然草』で吉田兼好は、「家の作りやうは夏をむねとすべし。冬はいかなる所にも住まる」という文書を残しています。
日本の住宅が寒いワケ② 習慣的な背景
2つ目の理由は、習慣的な背景です。日本人は、自分がいるときに自分がいる部屋でしか暖房を使わない傾向があります。
住環境計画研究所のデータによりますと、日本における世帯あたりのエネルギー消費量は、他の先進国と比べて少なく、そこに占める暖房の割合も突出して少ないことがわかります。その背景には、こうした日本人の“暖房の使い方”が関係しているのかもしれません。
日本の住宅が寒いワケ③ 制度面
3つ目の理由は制度面。住宅を断熱性能の違いで分けると、以下のようになります(※国交省・2019年度より)。
等級1(無断熱):29%
等級2(1980年基準):36%
等級3(1992年基準):22%
等級4(現行基準):13%
等級が上がるほど断熱性能が高くなりますが、現行基準の住宅はまだ13%しかありません。
ちなみに、住宅の等級は1から7まであります。大阪の場合、等級7の住宅の「建物からの熱の逃げにくさ」は、等級2の「7分の1~8分の1」に抑えられるということです。そして、今年4月からは全ての新築住宅で等級4以上が義務付けられます。
住宅の断熱改修により血圧が下がったというデータもあります。
・高血圧患者(388人)→平均7.7mmHg血圧低下
・全体(1656人)→平均3.1mmHg血圧低下
断熱性能を高めるにはコストがかかりますが、日本の住宅は、これまで耐震にコストをかけてきたことで、断熱については疎かになっていたのかもしれません。
「部屋」「朝晩」「上下」の温度差を減らそう
しかし、「断熱性能を高める」といっても、早急に行うのが難しい人も多いでしょう。そこで海塩渉助教に、きょうからできる家での寒さ対策を教えてもらいました。気をつけるべきポイントは3つはあるといいます。
1つ目は、部屋間の温度差。居間と脱衣所では平均3.8℃の差があるため、小型ヒーターやハロゲンヒーターを活用して温度差を減らすのがポイントだそうです。
2つ目は、朝晩の温度差です。朝と晩では平均3.0℃差があります。布団から出る少し前に、暖房のタイマー機能を活用するなどして部屋を暖めることが大切。さらに布団をはぐ時が一番温度差が生じるため、特に高齢者はゆっくり起き上がることも意識することが大切です。
3つ目は上下(1m)の温度差です。胸元よりも足元のほうが平均3.1℃低いため、靴下や電気カーペットを活用することが効果的だということです。
※「温度差」の値を放送後に訂正しています。