ドナルド・トランプ大統領と石破茂総理大臣の初の日米首脳会談が2月7日に行われる見通しです。安全保障やエネルギー政策といった幅広い分野で意見を交わすとみられます。石破総理はトランプ大統領にどのように渡り合っていくのでしょうか。会談の“成功”のポイントは?早稲田大学・中林美恵子教授、同志社大学大学院・三牧聖子准教授、ジャーナリスト・武田一顕氏といった専門家への取材を踏まえまとめました。

石破総理に“勝算”はある?麻生氏のアドバイスは…

 石破総理は現地時間の2月6日~8日に訪米。7日にトランプ大統領との会談が行われる予定です。前回、電話会談のときは5分で終わってしまったということで心配の声も上がっていますが、「楽しみにしている」とトランプ大統領は発言しています。
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 まず、今回の首脳会談はどういった点がポイントなのか。専門家は『日本の“貢献度”をアピールすること』そして『人間関係を作ること』だと指摘します。貢献度については、外国からアメリカへの投資額でみると、日本は5年連続1位(※2023年で約120兆円 ジェトロ資料より)。アメリカの隣国であるカナダ(2位)よりも投資額は上です。こうしたことをアピールすることが大事だということです。

 そして、人間関係を築くことをめぐっては、石破総理からすると犬猿の仲と言われる麻生太郎氏が、大統領就任前の去年4月にトランプ氏と会っています。そんな麻生氏にアドバイスを求めた石破総理。授かったアドバイスは『結論から言いましょう』ということですが、石破総理は『私が一番苦手なこと』と発言したそうです。実際に会った時、どのような説明をされるのか注目です。

日本側の“安心材料” 石破総理の味方になるかもしれない存在も!?

 また、専門家によりますと、今回の首脳会談については以下のような“安心材料”もあるということです。

【日本は割と優先されている?】
 トランプ氏は大統領になってからホワイトハウスで会談をするのは、イスラエルのネタニヤフ首相の次と言われています。会談はさまざまな国が申し込んでアメリカ側が選ぶということです。といったことから、日本はもしかすると優先されているのかもしれません。

【1期目ほど人間関係を重視しない?】
 1期目は安倍晋三氏と“家族ぐるみの仲”だったトランプ大統領。当時のトランプ氏は政治経験もなく、ヨーロッパと緊張関係になる中、安倍氏は訪米。ただ、2期目となり、“友達”やアドバイスが必要な状況でもないということで、中身重視でしっかり交渉してくれるのではないかという見立てです。

【側近に“日本びいき”】
 トランプ大統領自身はわかりませんが、外務大臣にあたるマルコ・ルビオ国務長官、財務大臣にあたるスコット・ベッセント財務長官という関税や外交などに関わる中枢の2人が、“日本びいき”なのではないかということです。ベッセント財務長官は中林美恵子教授と一緒に日本に関連するイベントで司会をした経験もあり、日本のことを考えてくれている人物だと。ルビオ国務長官はどちらかというと反共産主義で、中国に対して強硬派のため、日本を味方につけておく必要性をわかっている人物ではないかと。こういった2人がトランプ大統領の側近であるため、安心材料ではないかということです。
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 さらにもう1点、石破総理の味方になるかもしれない存在が、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長です。孫氏は、日米企業連合でアメリカのAI関連に4年間で約78兆円投資することを発表。石破総理は訪米前の今年1月、孫氏らと会合を開き、意見を交わしています。トランプ大統領が『経済・雇用を大事にしている』という点からすると、石破総理は孫氏の取り組みもPRに使うのではないかとみられます。ジャパンマネーという意味で追い風となるのでしょうか。

『Win-Winの提案』ができるかどうか

 では、首脳会談では何が話題に上がるのか。可能性のあるものとして、まず『日本の防衛費』についてです。現在、GDP比2%まで上げている途中ですが、トランプ政権のコルビー国防次官は「GDP比3%に」と主張しています。首脳会談ではどのような“要求”があるのか、ないのか…そして石破総理はどのように対応するのでしょうか。

 また、『関税』についても話題に上がるかもしれません。アメリカ側が関税を上げると、日本の輸出品が売れにくくなり、日本の景気が冷え込むおそれも。過去にトランプ大統領は「一律10%~20%へ」という発言をしています。特に日本の自動車産業が大打撃になってしまうかもしれないという中で、石破総理が狙うべきは、アメリカと日本、双方ともに利益が出るような『Win-Winの提案』ができるかどうかだというこです。
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 例えば、安倍総理(当時)のときの2019年、トランプ大統領は『日本から輸入する自動車の関税を2.5%から25%に上げたい』と要望したということです。これに対し安倍総理(当時)は『それは困るから…アメリカから輸入する食べ物や農産物の関税は、9割以上、下げるor無くす』という提案をし、日本の自動車産業を守る“取引”をしたということです。

 さらに、『化石燃料』についても話題に上がる可能性も。“掘って掘って掘りまくれ!”と化石燃料の増産を訴えるトランプ大統領。実は、アメリカの化石燃料は割安だということです。距離的なことやアメリカの都合もあるのか、日本はアメリカからの輸入割合は高くないようですが、ここをもっと増やすという手もあるとの見解も。運送費がかかるかもしれませんが、日本にとっても輸入先を分けるということは防衛上の観点からも良いでしょう。アメリカにとっても売れるのは良いことであり、こういった提案を日本側が先に出して、何とか交渉をうまく進められないか、ということです。

 今回の首脳会談について、武田一顕氏は「“被害”をいかに抑えられるか」が大事とコメントし、中林美恵子教授は「“また会いたい”と言われるような人間関係が作れるかどうか」というのも成功のラインだと指摘します。

トランプ大統領の政策に関する“矛盾”…この先解決されていく?

 関税をめぐって、トランプ大統領はカナダとメキシコに25%、中国に10%の関税を課す大統領令に署名。これに対し、カナダやメキシコは報復関税を表明するなど反発し、中国もWTO=世界貿易機関に提訴する方針を示しています。反発は国外だけではありません。アメリカ国内からも経済団体、業界団体、労働組合からも「経済にマイナスだ」ということで反発が出ているということです。こうした反発を受ける中で行われる今回の日米首脳会談。どういった影響があるのでしょうか。

 一方、アメリカはこの先、トランプ大統領の政策に関する“矛盾”に気づき、それを解決できるのかどうかが試されているということです。例えば、どんな矛盾があるのか。アメリカ国内はどんどん物価上がっていて、『物価を下げる』ことを訴えてトランプ大統領は当選しましたが、『関税上げる』ということも言っています。自国の産業を守るための発言だと思われますが、関税を上げると国内の物価は上がります。ここの矛盾をどうしていくのでしょうか。また、『製造業を強化する』と主張していますが、『移民を規制する』政策によって労働力が足りなくなるとも言われています。

 我が道を行くトランプ大統領に石破総理はどう渡り合っていくのか...今回の日米首脳会談に注目です。