5人に1人が75歳以上の高齢者となる2025年。多くの人にとって、他人事ではなくなっているのが「実家じまい」です。「親になかなか言い出せない」という人も多いと思いますが、実家じまいを早めに考えるべきだと専門家は言います。その理由とは?気を付けるべきポイントは?実家じまいアドバイザー・永野彰一氏の意見を交えながら解説します。
年々増加する空き家 治安悪化や倒壊のリスクにも
実家じまいを早く考えた方がいい理由として、まず「空き家問題」が挙げられます。
賃貸などの用途がない空き家は年々増加していて、総務省の住宅・土地統計調査によると、2023年には約386万戸に。
実は、空き家の半数以上は“親は生きているが誰も住んでいない”状態で、その数も増加傾向にあります。その理由の多くは介護の必要性などから「別の住宅へ転居したため」「老人ホーム等の施設に入居したため」です。
しかし空き家は、火災発生や治安悪化など“ご近所リスク”の増加につながります。また、税金の面でも、倒壊のおそれなどがある空き家については、2023年の法改正により固定資産税が6倍と負担が増えてしまいます。
実際にあった「兄弟の骨肉の争い」
不動産の相続は“もめる”ことが多々あるというのも、実家じまいを早く考えるべき理由の一つです。実際に“兄弟でもめた”こんなケースがあります。
兄・弟の2人で実家を相続することになった際、実家じまいで売却するという話になりました。
不動産に詳しい兄は、当時の相場を約2000万円だと考え、少し上乗せした2200万円での売却を提案。しかし弟は、4000万円で買った家だから3800万円で売りたいと主張。その後、買い手が現れ、3500万円で売れることになりました。
兄としては“ラッキーな話だ”と売却に乗り気で、「取り分は折半で1750万円」と主張します。しかし弟は「兄の取り分は1100万円(兄が提案した2200万円の半分)」と反論。弟の本音としては、3500万円でもまだ売りたくなく、この金額で売るなら兄は1100万円だという主張のようです。
話し合いが決裂した結果、実家は売却できず、空き家になってしまいました。
親の存命中に実家じまいしておくメリット
一方で、実家じまいが“うまくいった”ケースも。
東京在住の60代Aさん。自身も育った熊本県の実家を母親の存命中に足かけ3年で実家じまいしました。
介護で東京に母親を呼び寄せていたため、使っていない状態だった実家。しかし父親ががんばって建てた家であり、母親としては夫に対する思い入れもあるため、Aさんはなかなか売却の話を言い出せなかったといいます。
それでも決意して母親と話し合ったAさん。母親の存命中に実家じまいをして良かった点は、処分するものや残すものを直接母親に聞けたことだといいます。例えば、父親の仏壇をどうするか悩んでいたところ、母親は意外にもあっさり処分を了承したそうです。
売却時に必要な住宅購入時の書類がどこにあるか、すぐにわかった点もよかったといいます。
専門家に聞く“実家じまいを成功させる”ポイント
実家じまいする際のポイントを、これまで500件以上の実家じまいに関わったという実家じまいアドバイザー・永野彰一さんに聞きました。
まず大切なのは、親の生前に関係者を集めて話し合うこと。
永野さんは、「家は生き物。ただただ持っておくのは最も悪手」だとしたうえで、売却などをしないのであれば、相続して居住するかリフォームして貸し出すなどするべきだと話します。
また、売却したうえで賃料を支払って住み続ける「リースバック」という手段もあります。
そして住まない・売れない場合は、持ち続けることでさらにコストがかかるため、費用がかかるとしても早めに処分した方がいいということです。
また、実家じまいがうまくいくかどうかは片付けにかかっていて、作業するのは「業者」一択だといいます。身内が片付けようとすると思い出と向き合ってしまい、時間がかかったり先延ばしになったりするため、本当に必要なものだけ身内で判断して、あとは任せることを永野さんは推奨しています。
家は人が住まなくなると、傷んで「負動産になる」と永野さんは警鐘を鳴らします。“負動産”になってしまう前に、今一度、実家じまいを考えてみてもいいかもしれません。