8月14日、岸田文雄総理が緊急会見で総裁選不出馬を表明しました。「ポスト岸田」をめぐり、総裁選レースは動きが加速しそうです。ジャーナリストの武田一顕氏は、総裁候補として8人の名前を挙げます。それぞれどんな強みと弱みがあるのか。そして総裁選のポイントの1つとなる「キングメーカー」と呼ばれる権力者の動きについてもまとめました。
◎武田一顕:ジャーナリスト 元TBS記者 元JNN北京特派員 中国情勢に精通 小渕内閣以降の歴代政権を取材 愛称は「国会王子」
お盆の真っ只中に不出馬を表明した「3つの理由」
現在、岸田政権の支持率は厳しい状況です。経済面では賃上げ、デフレ脱却、ゼロ金利脱却を実現したほか、外交面ではG7広島サミットでウクライナのゼレンスキー大統領を日本に呼ぶなど評価されている面もあります。しかし裏金問題が大きい打撃になり、支持率は伸びませんでした。このままでは自民党としても苦しいため出馬しないだろうと言われていましたが、なぜお盆の真っ只中に総裁選不出馬を表明したのでしょうか。
まず、自民党の総裁選は9月末にあるため、お盆明けだと1か月前ということで、他の候補者がどんどん「出馬する」と言い始めるタイミングです。ジャーナリストの武田氏によりますと、他の人が出馬表明をした後で岸田総理が「辞めます」となると、“引きずり下ろされた感”が出るため、これを避けようとしたのではないかということです。お盆前だと今年はパリオリンピック™があり、ニュースとして小さくなるのもありますが、選手、国民が頑張っている中で辞めると言うのは“空気を読めていない”となります。
武田氏はもう1つ、このタイミングになった理由を指摘しています。実は岸田総理は、北朝鮮訪問で何か成果を上げようと模索していましたが、断念。北朝鮮と友好国であるモンゴルへの訪問で何か実績を上げてから不出馬を表明するのではないかと言われていました。しかし、出発予定だった8月9日の前日に南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」発表があり、モンゴル訪問が延期に。モンゴルの首相とは電話会談をしてひと区切りついたこともあり、このタイミングだったのではないかということです。
ジャーナリスト武田氏が挙げる有力候補 強みと弱みは?
では次の「ポスト岸田」は誰になりそうなのか。武田氏は以下の8人を挙げています。もちろん他の人が出馬する可能性もあります。
◆元幹事長・石破茂氏(67)
◆元環境大臣・小泉進次郎氏(43)
◆幹事長・茂木敏充氏(68)
◆経済安保担当大臣・高市早苗氏(63)
◆元総務大臣・野田聖子氏(63)
◆外務大臣・上川陽子氏(71)
◆デジタル大臣・河野太郎氏(61)
◆前経済安保担当大臣・小林鷹之氏(49)
まず、石破茂氏。総裁選へ挑むとすれば次で5回目となります。強みは、自民党の中でも比較的、主流派ではなく“刷新感”がある点だといいます。安倍元総理と対立していたため、安倍派が主流だった十数年間はある意味“冷や飯を食わされていた”状況でしたが、自民党が変わらなくてはいけないときに刷新感を出せる1人です。幹事長経験もあり、農林水産大臣時代には地方行脚をするなど国民人気が高いといいます。ただ、武田氏によりますと、決定的な弱みがあるということです。それが“党内人気の少なさ”。2012年の総裁選では決選投票で敗北しています。
あらためて、自民党総裁選の仕組みはこうです。1回目投票では国会議員票367票と、全国に100万人いると言われる自民党員票367票(約100万人の投票を配分)が集計されます。石破氏は2012年、この1回目投票で票を多く得ましたが、過半数に届かず決選投票となりました。決選投票では国会議員票367票に対して地方票が47票と、割合が大きく変わります。つまり党内での人気が大事になってきます。石破氏はここで敗れました。
次に小泉進次郎氏。強みは、若さで“刷新感”。また、武田氏は、世襲政治家は日本人に好まれるといいます。父・小泉純一郎氏のイメージも含めてということがあるかもしれません。一方で約5年前、環境大臣だったときに「気候変動のような大きな問題は楽しくクールで、セクシーでなければならない」という発言が話題になりました。経験の浅さも含めて“本当に大丈夫?”という心配があるということです。
そして茂木敏充氏。強みは、東大、ハーバード大学院を出て、外務大臣、経産大臣などを歴任。弱みは、“対人関係”だといいます。賢いあまり、官僚が出した政策に“青ペンで添削”、どんどん直していくそうです。赤ペンではなく青ペンなのは、赤は信号で「止まれ」青は「進め」、つまり“俺が政策を進めるんだ”という姿勢だということです。また、知名度の低さも弱みと言われています。
高市早苗氏の強みは、保守に人気があることです。しかし、それを後押ししていた安部元総理が不在となっています。
野田聖子氏は、経験が豊富ですが、党内で人望がなかなか集まらないと言われているということです。
そして上川陽子氏。岸田派の1人で、岸田総理が不出馬ということと、仕事の堅実さが強みだといいます。一方で、本人が総理への野心があまり強くないと言われていて、それほど準備していないのではないかということです。
河野太郎氏。SNSを駆使しているため、比較的若い世代にも有名なのではないでしょうか。経験も豊富です。弱みとされるのは、マイナンバーカードに関する対応のほか、裏金問題をめぐり最後まで派閥を残した“麻生派”の一員という点です。ただ、本人はやる気満々だそうで、次期アメリカ大統領になる可能性があるトランプ氏が好きなゴルフ外交に向けて、最近ゴルフを練習中だということです。
最後に小林鷹之氏。総裁選は総理大臣になる可能性があるため、大臣を経験しないと候補になれません。小林氏は経済安保担当大臣を経験して出馬資格もあり、若手のホープだといいます。東大、ハーバード大学院を出て財務省に入り、非常に優秀と言われている人だということです。弱みは、若く知名度が低いこと。武田氏が実際に小林氏と会ったことがある人から聞いた話によりますと、トップに立つ政治家としての魅力が弱いのではないかということです。また、ジャーナリストの立岩陽一郎氏は小林氏について、「大臣を経験すればいいわけではなくて、経済安保担当大臣というのは役所がないわけです。そこを仕切っても大臣として経験したとは思われない。内閣府の大臣ですから。だからそういう意味ではちょっと弱いかなという気はします」と、見解を述べています。
総裁選を裏で動かす「キングメーカー」にも注目
ただ、それぞれの候補の魅力やウィークポイントだけで決まらない部分もあるようです。その理由は「キングメーカー」の存在だといいます。1人目のキングメーカーは麻生太郎副総裁。“麻生派”がまだあり、影響力は約50人だということです。麻生氏は勝ち馬に乗りたいということで茂木氏を推すのではないか言われていますが、石破氏だけはNGだそうです。自分が総理ときに“もうあなたやめなさい”と直接言われた相手で、恨んでいるということがあるそうです。
2人目は菅義偉前総理。30~40人への影響力を持つと言われています。菅氏は石破氏を推していたそうですが、神奈川つながりということもあり、小泉氏に“推し変”するのではないかと言われています。
そして3人目が岸田文雄総理だといいます。30数人くらいに影響力がありますが、誰を推すのかはまだ見えていません。
総裁選のスケジュールが出るのは8月20日です。私たち国民も今後の動きに注目していく必要がありそうです。