パリオリンピック™で日本は、海外開催では過去最多のメダル45個を獲得する目覚ましい活躍を見せました。そんなオリンピックで活躍したメダリストたちには報奨金も出ます。大きな金額が動くオリンピックですが、いつからお金が絡むようになったのでしょうか?“五輪とお金”の関係について、五輪アナリストの春日良一さん、環太平洋大学の真田久教授に聞いた情報をもとにまとめました。
JOC+競技団体からの報奨金 一番多いのは体操・岡慎之助選手!
オリンピックの報奨金は日本の場合、JOC(日本オリンピック委員会)から労いなどの意味で金メダルなら500万円、銀メダルなら200万円、銅メダルなら100万円を非課税でもらえます。これとは別に報奨金が出る競技団体もあります(※500万円まで非課税)。日本体操協会では金メダルで50万円、銀メダルで30万円、銅メダルで20万円。日本ゴルフ協会では金メダルで2000万円、銀メダルで1000万円、銅メダルで600万円です。
今回のパリオリンピックでは、一番報奨金が多いのはが金メダル3つ、銅メダル1つを獲得した体操の岡慎之助選手。JOC(日本オリンピック委員会)から1600万円+日本体操協会から170万円で計1770万円がもらえます。東京オリンピックのときにはフェンシングの見延和靖選手がJOCなどの報奨金以外にも所属企業から1億円もらったということで話題になりました。
海外では「ラーメンが生涯無料」という報奨も!?
報奨金について、海外ではどうなっているのでしょうか?パリオリンピックでフィリピン男性史上初のメダルを獲得したカルロス エドリエル・ユーロ選手は体操男子ゆかと跳馬で2つ金メダルを獲得しました。国から約1600万ペソ(約4000万円)、フィリピンの平均年収で約60年分に相当する報奨金をもらいました。日本人の平均年収で計算すると2億円以上をもらうような感覚です。他にも大手不動産会社から不動産+現金で約9000万円、病院から「内視鏡検査の生涯無料」、大手飲食チェーンから「ラーメンが生涯無料」という報奨をもらいました。
社会主義国の『政策』として1952年に始まった報奨金
各国のオリンピック委員会が出す報奨金は「選手のバックアップ」や「名誉」の意義がありますが、報奨金の始まりは、1952年のヘルシンキオリンピックで旧ソ連が開始したこと。国を挙げて応援しようという社会主義国の1つの政策でした。
日本はかなり遅れて1992年のアルベールビルオリンピックから導入されました。その理由は、1988年のソウルオリンピックのときに韓国・中国にオリンピックで惨敗しメダル数が減少したからと言われています。特に韓国ではメダリストの徴兵制の免除などもあるため、日本もご褒美というよりは頑張ってもらうために始まったというちょっと意外な理由があります。
当初は「非商業化」「アマチュアのみ」だった
お金とオリンピックの関係について、ルーツを見ていきます。そもそも1896年にアテネで近代オリンピックが始まったときは、商業化しておらず、参加者もアマチュアのみでした。これは古代オリンピックのときから、お金をもらっている選手のような人たちが参加できないという昔からの思想に基づいてのものでしたが、現在のオリンピックではスポンサー料や放映権料なども入り商業化しています。プロチーム所属の選手やスポンサーがいる選手も参加できるようになっています。
商業化した理由は「大赤字」「政治からの独立」
オリンピックが商業化した理由の1つは大会自体が赤字だったことです。特に、体操のナディア・コマネチ選手が一世風靡した1976年のモントリオールオリンピックは、実は大赤字でした。市の負債は8000億円になり2000年代前半まで市民は税金という形で負債を払い続けていました。これを見て各国は『うちはもうやらない』となり、商業化しなくてはという声が出始めました。
もう1つは政治に左右されたくないという理由です。本来であればスポーツと政治は分離して考えるべきですが、1980年のモスクワオリンピックでは東西の冷戦や、旧ソ連のアフガニスタン侵攻に反対してアメリカや日本などの国々がボイコットするといったことがありました。財政基盤があれば政治から独立できるため商業化せざるを得ない状況になっていったということです。
五輪がプロ化した経緯 実は「東西の冷戦」が大きく関係
プロ選手がオリンピックに出るようになった理由は、東西の冷戦です。社会主義だった東側のソ連や東ドイツは、国を挙げて報奨金も早くに出して選手をどんどん強くしていきました。資本主義の西側諸国はスポーツのプロ化が進み、バスケットボール・テニス・サッカーなどでプロリーグができました。
プロ選手はオリンピックに出場できないとなると、争ったときに勝つのは東側が多くなっていきました。そうすると、1950年代のオリンピックでは“「資本主義」対「社会主義」で勝つのは社会主義”というプロパガンダにオリンピックが利用され始めます。これに対して西側もトップ選手を送り込んで、オリンピックをは世界一の大会にしたいということで、プロ化を解禁せざるを得なくなったのです。
「運営」「政治から独立」「冷戦」などの理由で、1984年のロサンゼルスオリンピックから商業化もプロ化もしていきます。各競技団体ごとにプロ選手が出場可能かどうかが異なります。
ただ、一方でスポンサーの選定は厳しく、オリンピックの考え方に合っている企業だけにするとなっていて、パリのトップスポンサー14社のうち日本が3社となっています。それに加えて、サッカーでは23歳以下と年齢制限があります。オリンピックの理念では差別は禁止になっているため年齢制限も本当はしてはいけません。しかし、プロ化するにあたり、FIFAというプロサッカー連盟が主催する世界一の大会「ワールドカップ」があります。オリンピックを世界一の大会にするとワールドカップの地位が下がってしまうため、その兼ね合いで年齢制限を設けてオリンピックを行っているのです。
『お金』めぐり過去には不正も 一方で収入9割は「スポーツ界に再配分」
オリンピックでは、お金にまつわる不正がこれまでに起きています。2021年の東京オリンピックではいくつかの企業で運営業務の不正受注や、スポンサーに選んでもらうための賄賂などの問題がありました。2002年のソルトレークシティオリンピックでは招致レースが激しく、IOC(国際オリンピック委員会)委員に、誘致の際にアメリカで買い物・身内の進学などの便宜を図り、約10人のIOC委員が辞任する事態となりました。
五輪アナリストの春日良一さんがIOCの資料から作成したデータによると、IOCの収入はどんどん大きくなっています。協賛金・放映権料などの総額は、40年近く前は約8億ドル、日本円で約1200億円だったのが、2017~2021年には約68億ドル、日本円で1兆円を超えています。IOCの会長は各国の大統領と対等で話すほど、非常に大きな組織となっています。
不正もある一方で、専門家によりますと、IOCの収入の9割はスポーツ界に再配分していて、毎日6億円をスポーツ界に支出し貢献している計算だそうです。分配された分で途上国や難民への支援が行われていて、これにより今まで参加できなかった国が出られるようにもなりました。パリオリンピックでは、シンディ・ヌガンバ選手がボクシング女子75kg級で難民選手団として初の銅メダルを獲得しています。
世界が注目して盛り上がるイベントだからこそ、お金の使い道を間違わなければ、平和につながる大会になるのではないでしょうか。