阪急の有料座席『PRiVACE』。すでに有料座席を運用している京阪・JRなどに続き、満を持して導入が決まりました。そもそも『PRiVACE』とは?導入の理由は?鉄道ジャーナリスト・梅原淳さんへの取材などをもとに情報をまとめました。
料金は「運賃+500円」 阪急の有料座席『PRiVACE』とは?
阪急京都線に導入される有料座席指定サービス『PRiVACE』。private とplaceを合わせた 「プライベートな場所」を意味する造語だということです。
利用料金は「運賃+500円」で、区間に関係なく一律500円(税込み)の追加料金がかかります。阪急電鉄がかなりお金をかけたという今回の有料座席は、特急・準特急・通勤特急の8割で導入予定ということです。
2週間前からインターネット予約が可能で、最初は鉄道ファンらの争奪戦になるかもしれません。
この『PRiVACE』車両は京都線(全8両)の大阪側から数えて“4両目”にあります。以下の理由から、消去法で4両目への設置が決まったということです。
・1両目 = 大阪梅田駅の改札に近いため混雑する
・8両目 = 京都河原町駅の階段に近いため混雑する
・5両目 = 女性専用車両
・2、3、6、7両目 = モーターがあるため少し音がする
では、1車両が有料車両になった分、それ以外の車が混雑することになるのでしょうか。阪急電鉄によりますと、そもそも乗客数がコロナ前と比べて10%近く減っていて、約2年前のダイヤ改正のときに特急の本数を減らす選択肢もあったが、『PRiVACE』の運行を見越してあまり減らさなかったということです。データ上は混雑しなさそうですが、慣れるまでは有料車両の近くは混み合うかもしれません。
鉄道各社が『有料座席』導入を進めるワケ
なぜ鉄道各社は有料座席の導入を進めているのでしょうか。前提として、まず乗客の内訳は以下のようになっています。
【乗客の内訳】
・約6割 = 定期券で乗る人
・約4割 = 定期券以外で乗る人(切符など)
多くが「定期券」を利用していますが、この定期券は1か月あたり30%以上値引きされています。そのため、実際の売り上げを比較すると、定期券以外で乗る人の売り上げの方が多くなるのです。
【売り上げ】
定期券で乗る人 < 定期券以外で乗る人
つまり、定期券以外の収入を増やしたいというのが、有料座席設置の狙いとみられます。
鉄道各社の有料座席の導入状況、運賃とは別にかかる料金は次の通りです。
・泉北高速「泉北ライナー」(2015年):税込み520円(一乗車)
・京阪「プレミアムカー」(2017年):税込み500円(出町柳~淀屋橋)
・JR「新快速Aシート」(2019年):税込み600円(一乗車 ※チケットレスの場合)
“高級感”を売りにした阪急は最後発です。また、京阪に関しては、今1両ある有料座席を2両に増やす方針です。
JRvs京阪vs阪急「大阪ー京都」めぐる激戦の歴史
実は、有料座席導入の背景には、大阪ー京都をめぐる、JR(国鉄)・京阪・阪急の激しい競争の歴史があります。
【国鉄「大阪ー京都」開通】
明治時代の1877年、JRの前身・国鉄が、比較的人の少ない場所に、スピードの出る直線的な線路を通しました。
【京阪「天満橋ー五条」開通】
1910年、京阪は渋沢栄一の尽力もあり、開通。門真や枚方など昔から人が多い街に通しました。沿線人口は多い一方で、カーブが多く速度が出せないという事情も。
【新京阪「天六ー西院」開通】
激しい速度競争の中、京阪は子会社の新京阪を作り、1930年ごろ天六~西院に新路線を開通。
【新京阪が「阪急京都線」に】
スピードを出すために直線的な線路を作ったものの、沿線人口が少なく不採算路線と化してしまいます。その後、新京阪は経営が悪化。阪急がこの路線を引き継ぎ、「阪急京都線」が誕生します。つまり、阪急京都線はもともと“京阪”だったのです。
【阪急による沿線開発】
不採算路線を引き継いだ阪急は、「乗客がいないなら作り出せばいい」という創始者・小林一三の言葉どおり、沿線に住宅・学校・遊園地などをつくり、“開発”を進めていきました。
【価格競争のスタート】
価格競争も始まります。国鉄はスピードが速い一方で、経営悪化によって運賃が値上げされました。そして、以下のような構図ができあがっていきました。
・国鉄 = 速いが高い
・京阪 = そこそこ遅く、そこそこ高い
・阪急 = そこそこ速く、そこそこ安い
【京阪の差別化戦略】
そうした中で京阪は、「エアーサスペンション」「2人掛けシート」「テレビカー」など新しい技術を積極的に導入し、乗客を取り込んでいきました。近年増えている有料座席についても、大手私鉄で最初に導入したのは京阪です。こうして、“新しいもの好き”の京阪は“アイデアの京阪”といったイメージとなりました。
子ども向け「一律運賃」高齢者向け「鉄道サブスク」 少子高齢化に備える鉄道業界
今後の鉄道はどうなっていくのか。キーワードは「少子高齢化」、子どもと高齢者に優しくがこれからの流れのようです。
例えば、関東の小田急電鉄では、子ども運賃がICカード利用で一律50円。小田急電鉄に乗って思い出を作ってもらい、将来沿線に住んでもらおうという狙いです。
また、東急電鉄は2020年に“鉄道のサブスク”を実験的に行いました。ひと月3万3500円で、グループ内の電車・バスが乗り放題、映画が見放題、1日1杯の蕎麦付き…というもので、1日約1000円分使えば元が取れました。
そして、皆さんが一番望んでいるのが「通勤ラッシュの緩和」ではないでしょうか。これに関しては、空いている時間帯は安く、混雑する時間帯は高い料金にする『変動運賃制』という仕組みがあり、JR東日本ではすでに、混雑時間帯以外は利用可能な“通常の定期券より安い”定期券を販売しています。