去年1月に淀川の河口付近で見つかり、その後に死んだ迷いクジラの『淀ちゃん』。大阪市は紀伊水道沖に沈めることを決め、市内の海運業者によって海にかえされましたが、業者との契約をめぐって不適正な点が指摘されています。

大阪市側の試算額は2068万円 業者側の見積額は8625万円

 去年1月13日、迷いクジラの淀ちゃんが死んだことが確認されました。この日に処理方法と委託業者が決定。放っておくと体内でガスが充満し爆発するおそれがあるとして、災害対応として急ぎの処理となり、6日後の1月19日に淀ちゃんは紀伊水道沖に沈められました。処理方法をめぐってMBSが取材した専門家からは、土に埋めた方が費用も少なく、その後、標本にできるという意見もありましたが、当時の松井一郎市長の思いもあって海に沈める形になりました。

 通常は、金額に納得して契約して処理するという流れですが、今回は災害対応に準ずる急ぎということだったため、まず処理を業者にお願いしました。処理後に、金額が確定して、契約という流れとなったのです。そして、処理後の去年1月25日、業者側は8625万円という見積額を出しました。一方、大阪市側の試算額は2068万円で、6000万円以上の隔たりがあり、交渉が始まりました。交渉の場で大阪市側は“そういう事情でかかっているんですね”と、徐々に試算額は2000万円が4000万円になり、6000万円になりと少しずつ上がっていきました。業者との金額交渉に当たっていたのは担当者のA課長ですが、このA課長が交渉している中で、市側に不適切な行動があったことが後に発覚します。

「8000万円で持っていくべき」B課長は業者との会食後に“心変わり”?

 キーパーソンとなるのが、契約手続きの事務を担当するB課長です。B課長は本来、契約の金額交渉の場には出るような人ではありませんが、契約の事務を担当するということで、関わり始めました。このB課長が去年2月ごろに業者と会食をしていたことも後々わかってきます。公正契約職務執行マニュアルでは、関係業者との会食は、たとえ割り勘であっても禁止されています。

 B課長は、淀ちゃんを処理した直後の去年1月26日は、業者の見積額について『言い方は悪いですが、とんでもないぼったくりですね』という認識を示していました。このほかにも『単価どう考えても上げすぎ』『二重計上などあやしいとこだらけですね』『技術費で20%加算ってありえないです』と、具体的なことにまで言及していたB課長。

 しかしその後、去年2月ごろに業者と会食していたということがわかってきています。この約1か月後、去年3月のメールのやり取りでB課長は『私の感覚ではせめて7500万円以上できれば8000万円で持っていくべきと思っています』とコメント。また『地元企業との関係悪化は非常に良くないですね』『こちらから泣きついておいて金額が高いから払えないというのはありえないですよね』という意見も示しています。

 この後、結局、大阪市側は積算していき、7500万円としました。ただ、委託業者の8000万円とは500万円の乖離があり、去年3月27日に生々しい交渉が行われることになります。

「今すぐ電話してこいや!!」交渉の場でA課長に強い口調で迫るB課長

 この交渉の出席者のセリフは議事録に細かく出ています。登場人物は、市側は金額交渉の担当者であるA課長、そして契約手続きの担当者であるB課長。委託業者側は2人いましたが、このうち1人は市の元職員です。

 金額の交渉で一つ肝になったのが『船の掃除』でした。腐ったクジラを運んだ以上、臭いがついているため、これの掃除はお金がかかります、というのが業者側の言い分です。例えば、自分の車でクジラ肉を運んで一生臭いが取れないとして、そんな状況でも宅配便代と同じ1500円でやりますか?と。掃除にお金がかかると思ったら金額が高くなるのは当たり前ですよね、ということを業者側は主張しています。一方で、業者側からは「一番ブラックボックスにできるのは清掃なので」という発言もありました。清掃のところで何か金額調整ができると言っているようにも聞こえます。

 市側と業者側では以下のようなやりとりがありました。

 (A課長)「清掃しているところは誰も見ていないじゃないですか」
 (業者側)「そんな写真より、臭いがえげつなかったから」
 (A課長)「ちょっと局長に諮らんと」

 するとそこにB課長が会話に入ってきます。

 (B課長)「諮らんでええて、もうこの期に及んでそんなこと言ってる時間ないやろ!!」
 (A課長)「今の局長のイメージは7500万円になってますよ」
 (B課長)「(局長は)根拠持って言ってんの?」
 (A課長)「7500万であとは調整、と」
 (B課長)「いやいや、根拠持って言ってんのか!!って」
 (A課長)「根拠は持ってない」
 (B課長)「おお、そしたら『根拠はこれです』って言うだけやろ、ちゃうの!!ほんま、お前ええ加減にせえよ!!」
 (A課長)「そこは確認させてほしいです」
 (B課長)「そしたら今すぐ電話してこいや!!」

 なぜか市の職員、港湾局の職員同士でこのようなやりとりがありました。

結果的に契約金額は8019万円に

 さらにB課長は、A課長と業者側の別のやりとりにも入ってきます。

 (A課長)「これほんまに3回はやってるんですよね、清掃。何回も言いますけど」
 (業者側)「そりゃやってるんでしょ。それ、運搬と合わせもって16になってるじゃないですか」
 (A課長)「同じ単価で連続3回同じことしてるということになるんですよね」
 (B課長)「それじゃあ『臭い取れんかってもええやろ』って言いたいわけ?」
 (A課長)「それは言ってないですけど。3回やらな取れへんのか、っていう」
 (B課長)「3回やっても取れてへん、って言うてるやん。何回もそれ言うてるやろ!3回やったのも信用でけへんと!?」
 (A課長)「世間的にまかり通るかな、という。清掃するのに600万、700万かけて3回…」

 関連費を入れると清掃に1000万円というような会話もしています。こうしたやり取りの結果、最終的に去年3月31日、契約金額は8019万円となりました。ちなみに金額について、2000万円以上は局長の決裁ですが、B課長の決裁でこの金額に関しては済ませて通っています。局長にあげていないというあたりも不適切だったという結果になっていて、今後、検査が続いていくということです。