一部業界はインバウンド景気に沸く中、消費税の免税制度の悪用や転売が横行しています。ダイコクドラッグを運営する「ダイコク」のグループ会社2社では、転売の疑いがある客に免税品を販売していたとして、大阪国税局が過少申告加算税を含め約3億円を追徴課税しました。この免税制度について、元国税調査官の税理士・笹圭吾さんに話を聞きました。
◎笹圭吾:REBFLEET税理士事務所代表 元国税調査官税理士としてSNSなどでも精力的に活動する
免税の対象となる条件は?買い物の流れは?
―――そもそも、消費税の免税制度とはどういったものなのか。消費税は「国内の消費」に課税するもので、国外で消費するなら消費税を免税するという制度です。日本国内での免税の買い物は次のような流れとなっています。まず、レジでパスポートなどを示して買い物をします。その場で消費税抜きの金額を支払うか、施設内の免税カウンターで返金を受けます。買った商品は“開封したらわかる”包装で海外へ持ち出しとなります。これは、国内で消費したら課税が発生するので、包装でわかるようにして、自分の国に持ち帰って使ってくださいねということです。
そして、免税となる条件は2つあり、1つ目は日本居住者でないこと。入国後6か月以上が経過していると免税になりません。2つ目は、1人1店舗1日あたりの販売合計額が一般物品(家電やカバンなど)で5000円以上、消耗品(薬品類や化粧品など)が5000円以上50万円以下であるということです。こうした条件について、いかがですか?
(笹圭吾さん)「あくまで居住者かどうかを見たいわけですよね。観光客なのかどうかを見たいのと、(商品が)自分用なのか、事業者ではないかを見たいというところですね。事業者だったら課税されますから。そこの線引きが50万円で、これが適正なのかどうかっていうところはありますよね」
立岩陽一郎さん「店側の善悪について議論するのではなく、制度をどうするか」
―――重要なポイントとして、事業用・販売用に買う場合は免税にはなりません。しかし、外国人観光客が多くレジ対応に追われていると、このあたりの確認が不足してしまうという問題もあるかもしれません。ジャーナリストの立岩陽一郎さんはどう考えますか?
(立岩陽一郎さん)「これは割と昔からあって、最初に問題になったのは百貨店ですよね。大手の百貨店に外国人が買いに行って、要は消費税を脱税しているんじゃないかって言われた。でも税金の話で非常に気をつけなくてはいけないのは、悪質なものもあるわけ。国税が言う仮装・隠蔽、つまり書類を偽造して税金をごまかす、これはもう脱税で、悪いわけです。今回のダイコクのようなのは、悪とか正義で語っちゃいけない。制度の問題です。だからダイコクが悪いとか百貨店が悪いっていう善悪で議論するんじゃなくて、この制度をどうするかですよ。国税は把握したわけですが、何で把握したかといえば、空港で把握するわけですよ。だからそういうふうに制度を変えられるかどうかですよね。そこを議論しないと。『この業者は悪いんだ』という議論は絶対しない方がいい」
「海外で転売」のケースと「日本で転売」のケース
―――免税品の転売はなぜ利益が出るのか。例えば、税抜き1000円のものを購入する時、消費税10%の商品の場合、免税されない人は1100円を支払いますが、免税される人は1000円なので100円“得”。こういう構図ですね?
(笹圭吾さん)「そうです。消費税の課税の仕方っていうのが、いったんもらった消費税と払った消費税、この差額を納めるということを事業者がやっているんですね。この売り上げに関しては、海外に販売したときに、売り上げの中に消費税がもらえていない状態だから免税っていう形になっているんですね。国内で消費されないものについては免税取引されるので、結果的に海外に売ったのと同じような形になるから100円お得に買えるということですね」
―――そして笹さんによりますと、転売のパターンはさまざまだそうです。転売を主導する人には、海外在住者、そして国内に住んでいる人もいるということです。そして転売する場所は海外に持ち出して転売する場合と、日本国内で転売するパターンもあるんですね?
(笹圭吾さん)「限定すると良くないかもしれないですけど、多いのが中国の方で、『買い子さん』というのを雇って何%かの手数料を渡し、その後、商品をもらって国内に売るとか国外に売るとかいろんなことをしているという。日本国内で転売するケースは10%分の利益を狙いに行くっていうパターンですよね。海外に持ち出す場合は、架空の取り引きも結構あったりするんですね。持っていったふうにするっていう。そもそも転売の仕入れのときにもドラッグストアと通謀して、仕入れたふうにする、書類のやり取りだけするパターンもあるんです。実際には仕入れておらず、紙だけが動いている状態。実際、何かしら数量は入れとかないといけないので10個入れて100個送ったことにするとか、そういうようなことが過去に結構起こっていたんです。それを取り締まってきたのが今までの歴史的な背景で、割と制限をかけながらやっているのが現状」
出国時には「抜き打ち調査」 免税の不正チェック
―――今回、追徴課税を受けたダイコクドラッグはそのような意図はなかったということですが、お店側が“グル”になるケースもあるようです。そして、免税の不正のチェックは、買い物の時点と出国の時点の2つで行われています。まず、買い物の時点では販売店から税関の「電子税関システム」に送信されるということですが、この電子税関システムとは?
(笹圭吾さん)「新しく導入されて、買い物された段階でスキャンしてそのデータが行くっていう。それで国税庁と税関が管理しているサーバーに入ると。パスポートと紐づくということですね。だから税関でそのデータと実際に物を開けたときに、入ってるかどうかチェックを入れるという状況です」
―――今、説明があったのが出国の時点のチェックですね。この時、税関で過去のデータなどに基づいて「抜き打ち調査」をするということですね?
(笹圭吾さん)「そうです。(時間の関係もあり)全部ができるわけじゃないっていうのがあるので、過去の実績から考えてあやしそうな人、例えばスーツケースを何個も持っているとか、大量だなとか、この人は事業者じゃないなとか、いろんな知見がたまっていってるので、それのパターンでいくみたいな。抜き打ち調査で引っかかった場合は、その時点で課税の書類を書いてもらって消費税を納税してもらいます」
家電量販店などでも“免税”めぐる追徴課税 制度の見直し検討も
―――2022年度に日本国内で免税で購入された額は約6000億円です。免税された消費税は、全部10%だったとすると単純計算で約600億円になります。この中で納められるべき消費税が納められていないとすると大問題ですよね?
(笹圭吾さん)「直近のデータで国税局が摘発した脱税額で563億円というのが出ているんですよ。これは1年間だけではなくて数年間の実績で563億円。直近データで言ったら結構な金額。免税でそういう不正が働かれていると」
これまでに家電量販店や百貨店でも「転売目的」などの指摘で国税庁が追徴課税しています。エディオンでは約1億7000万円(※2022年3月までの4年間)、近鉄百貨店で約8億円(※2022年2月までの4年間)、阪急・阪神百貨店で約2億円(※2022年3月までの3年間)の追徴課税がされたということです。
こうした中、政府は免税制度について、今年度の税制改正で見直し、海外で一般的な「リファンド方式」というものを検討しています。これは、買うときはいったん消費税を課税して支払い、出国時に消費税分をまとめて払い戻すといったシステムです。
(笹圭吾さん)「これ、経済的な側面では、『もっと買ってほしい』とか、客の利便性を損なうという意見もあるので、今の体制がいいんじゃないという声もあります。そういう経済的な側面と管理強化の側面とのバランスがすごく重要であると言われています」