東京地検特捜部は1月19日に自民党の裏金問題について刑事処分を発表しました。その中で『起訴される人・起訴されない人』の線引きについて、元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士に話を聞きました。政治家には「資金管理団体・政党支部・政治団体」といった複数の財布があるため、「カネをどの収支報告書に記載すべきか特定できなければ起訴できない」と郷原弁護士は立件の難しさを解説。そして東京地検特捜部の戦略については「裏金総額が5億円6億円とかみんながびっくりする金額を世の中にアピールすることを優先していたとしか思えない」とした上で、「脱税で税金を払わせる方向も可能だった」と指摘しました。
(2024年1月19日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎郷原信郎:弁護士 元東京地検特捜部検事 政治資金規正法違反事件を数多く手がけてきた

――裏金問題で、起訴された人と起訴されない人、略式と在宅の”線引き”など、詳しい話について、元東京地検特捜部の検事だった郷原信郎弁護士に伺いますと、今回の捜査について2つポイントを挙げています。「東京地検特捜部は、①大きなミスをした。また、②取引的決着に持ち込もうとしている」と。

(郷原信郎弁護士)結局、裏金の総額が5億とか6億円とか、みんながびっくりするような金額を世の中にアピールすることを優先していたとしか思えないんです。いろんな捜査の方法はあるんですが、今回の捜査は、収支報告書の虚偽記入を前提にやってきたじゃないですか。その方向だけじゃなく、他のやり方もあったんです。

「政治家個人は寄付を受けてはいけない」

(郷原信郎弁護士) 例えば「政治家個人は、(金銭の)寄付を受けてはいけない」という禁止規定、罰則があるんです。もし事実がはっきりすれば公民権停止になるような罪なんですけど、法定刑が低いんですよ、禁錮1年以下。ですから、それでやろうとすると時効3年なので、刑事立件できる裏金の総額が小さくなっちゃうんですね。ですから、そっち方向を考えないで、全体を大きくする方向で考えていったのが今回の特捜部のやり方。

でも結局ですね、裏金をもらった議員を処罰しようと思っても、国会議員には財布がいくつもあるわけです。・資金管理団体、・政党支部、・その他の政治団体もある。裏金って結局、どこの収支報告書にも『記載しないのが前提』ですから、どの団体の収支報告書に記載しなければいけないのか、っていうことを特定できなくて、特定できない限りは、処罰的な起訴できないんですよ。

郷原弁護士「逮捕された池田議員は『自爆した』」

(郷原信郎弁護士)たまたま今回逮捕された池田佳隆衆院議員は、資金管理団体で収支報告書を訂正したんです。『自分で特定したので自爆した』わけです。自爆してくれない限りは、他の議員のケースはなかなか刑事立件が難しい。谷川弥一衆院議員も結局認めるって言ってるから「略式起訴」ですけども、大野泰正参院議員は「在宅起訴」ということはおそらく認めてないからですね。

それ以外の少額の議員の処分がまだどうなるかわからないんですけれど、何とか略式ぐらいに持っていこうとすれば結局、特定するような供述を取らないといけない。結局、対立型ではこの事件はできない。取引をして終わらせるという形にしかできないのが今回の事件で、清和会側も結局、否定されてしまうと、壁が乗り越えられなかったということで、こういう結果に終わってしまったと考えています。

――政治資金規正法でも、キックバックされたお金がどの財布に入るかということが決まっていないから、不記載であってもそれを責めることができないとして、でも、それ特捜部もわかってたんですよね。なんでそこが?

おそらく、そこのところを何とかして乗り越えようとして、たまたま池田議員のようなケースが出てくればやれるわけです。結局やれたケースはこれだけで、そこが大きなミスということです。もう一つは、やっぱり税金の問題っていうのが大きいんですよ。みんながなんで怒ってるかって言ったら、自由に使えるお金をもらっておきながら税金払ってないじゃないか、と。みんな、それで怒ってるじゃないですか。

国民の怒り「脱税の方向」も可能だったのではないか

それなら、「脱税の方向」で、税金を払わせる方向で事件を持っていくことも可能だったんですよ。政治家個人は、さっき言ったように「政治資金としてもらったら政治資金規制法違反です」し、「個人がお小遣いとしてもらったら脱税」ですし、そのどっちかに持っていくっていう方向もありえたんですよ。その方がもっと有効な攻めになったんじゃないかと思うんですが、むしろ特捜部は、裏金の総額を膨らませることを優先して考えたんでそうなったんじゃないかと思います。

――キックバックなどの額。立件された議員は4000~5000万円を超えていた。立件を見送られた議員はに関しては1000万円くらいだったとなると、金額の大小にも見えてしまいますけれども、その辺りはいかがですか。

(郷原信郎弁護士)基本的に金額の大小は立件の基準になりますけれども、やっぱり全体的に処罰することが難しかったっていうのは金額だけじゃなくて、(財布の)特定の問題があるんです。相手方の国会議員の側が、自分は知りませんよと言われると、なかなかそれを乗り越えられないっていうことがあったから、どうしても限定的になってしまった、ということが言えるんですね。


――結局、ルールを決めるのが議員側だから、特捜側もそのルールの中で何とか立件できそうなやつを見つけていると、相当苦しい状況だと、国民も感じていますよ。郷原弁護士が考える政治改革として何点かあげてもらいました。

――「政党から政治家個人の寄付を禁止」、「政治資金収支処理のデジタル化」、「国会議員の政治資金について、総括収支報告書を導入すること」となっています。

(郷原信郎弁護士)優先順位で言うと、上2つは、とにかく領収書がいらない金のやり取りが当たり前みたいな状況をなくしてもらいたい。そのためには、政治資金規正法自体が許しちゃってる「政党から政治家個人への寄付は完全に禁止」する。

 そして、民間企業だったら当たり前、政治資金の出入りはデジタルで逐次処理、リアルタイムで誰でも見られるようにしていく。

 もう一つは、財布がたくさんあっても、全部を総括する、企業でいえば連結決算のような形にしてどこに行くかわからないようなお金なんて一切認めない。というのが必要だと思います。