日本大学のアメリカンフットボール部の薬物事件をめぐり、学内で開かれた「競技スポーツ運営委員会」で、アメフト部を廃部にする方針が示されたということです。日大は、アメフト部の廃部について、今後学内の手続きを経て正式に決定された場合には速やかに公表するとしています。これについて大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは「廃部を決める前に現役学生にどういう補償・ケアをするとか全部決めてから廃部というべきだった」と述べて他の部員らへの影響を懸念しました。アメリカ出身のタレントであるREINAさんも「アメリカであれば廃部という選択肢は絶対ない。無関係な学生に対する人権侵害とみなされ、チャンスを奪うことになる」と話しています。(2023年11月29日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎石渡嶺司:大学ジャーナリスト 全国の大学を500校以上見て回り、教育問題・組織運営などについて執筆・評論を行う
◎REINA:アメリカ出身のタレント ハーバード大大学院修了 CIA・FBIに内定 ビル・クリントンの事務所で勤務

――日大アメフト部は1940年創部の歴史あるチームで、愛称はフェニックス(不死鳥)でチームカラーは赤。関西学院大学アメフト部の関学のライバルとしても知られ、大学日本一を決める甲子園ボウルでは日大が「日本一21回」関学が「日本一33回」です。

さらに30回行われた直接対決では、「日大17勝・関学11勝、同点両校優勝2回」あったといい、大学アメリカンフットボールの双璧と言われています。一生懸命アメフトを頑張ってる人も大勢いるはずで、「廃部という方針」は本当に残念な情報となっています。大学ジャーナリストの石渡嶺司氏は、「廃部で問題解決ではない。監督や競技スポーツ部長らも会見して明らかにすべきことがあるのではないか」と指摘されています。

(石渡嶺司氏)はい。他の大学で運動部の不祥事が起きた場合どうなるかというと、必ず当事者である部の監督と、運動部を統括する部署の管理職、それと運動部を統括する副学長などが記者会見をするのが一般的です。さらに事案が重いとか、責任不足だったということであれば、その部の監督を更迭するなどの人事処分が行われる、というのが一般的なんですけれど、日本大学の場合、それがないまま現在に至っているわけで、だからここまで問題がこじれています。

――現場の責任者である監督らが出ない、コメントを発表しないというのはなぜでしょう、石渡さんはどう思われますか。

(石渡嶺司氏)田中元理事長時代から、人事ってあんまり動いてないんです。アメフト部でも、あるいは競技スポーツ部でも、旧田中派・隠れ田中派がいるとまでは言いませんが、当時の空気感を良しとしていた人たちが、まだ管理職ないし、監督・コーチとして残っている。その「空気感というのは何か」というと、パワハラ体質だったり、隠蔽体質だったり、スポーツである我々が日大を引っ張っているんだという特権意識だったりで、その一端が背景として、今回の事件に繋がっているのかなと見ています。

――トップは林真理子氏に刷新されたけれど、実はそこまで改革が進んでなかったんじゃないかという見方ですか。

(石渡嶺司氏)大学本部や他の部分で、林理事長はある程度の評価、成果は残してきたと思います。ただ、運動部、アメフト部を含めた競技スポーツ部の対応というのが、後手後手すぎた、あるいは無関心すぎたのが引き金になってしまったのではないかとも思われます。

個人的には「廃部」全く納得できない

(REINAさん)個人的には「廃部」っていうのが全く納得できないです。事件に無関係の部員がコストを負わなければいけない状態です。廃部に対し「しょうがないとか、残念だけど仕方ないよね」っていう声も聞こえるんですけど、しょうがないと言えるほどの情報も我々にはないです。なぜ選択肢が廃部しかないのか、この問題がどんどん複雑化したので、「蓋をして1回リセットしよう」というふうにしか見えないんです。ちょっと納得できないと個人的には思います。

――アメリカンフットボールの社会人リーグ、Xリーグの関係者はこの問題をどう見ているのか、話を聞いてみました。『日大については、悪質タックル問題の後、下部リーグに落ちたんですけども、すぐに上位リーグに戻り甲子園ボウルに出場もしました。今も十分実力のあるチーム』と評価しています。

――『附属高校も強いそうで、来年日大へ進学することが決まっていた生徒は、慌てて他の大学を探しているのではないかということで、こういったところにも影響が出ているんじゃないか』ということです。現役大学生については、『1回生は全然試合に出られていないので、改めて他大学を受け直す人もいるかもしれない。3回生、4回生はフォローする仕組みが必要で、社会人リーグの窓口を広げる取り組みなどがあってもいいんじゃないか』という意見でした。

(石渡嶺司氏)私はそもそも論として、部の廃部を決める前に、現役の学生に対して、こういった保障、ケアをするとか、一部報道ではスポーツ推薦で高校生をリクルーティングしているという話もあるんで、そういった高校生に対して、どう対応するのかですとか、その辺全部決めてから、「廃部」と言うべきだったんじゃないのかなと思います。

(石渡嶺司氏)難しいのが、スポーツ推薦でもう合格しました、っていう高校生の場合、他の大学を受け直すと言っても、もうスポーツ推薦の時期は終わっていますので、一般入試であれば、どうにかなるかもしれませんけど、そこまでは、という高校生であればなかなか難しいというのが一つ。

それと「現役生が他大学に編入学」については、編入学先も強いチームであれば、これだけの事件を起こした日大アメフト部の出身者を、下手に受け入れて何かあったらどうしようという防衛反応が働いちゃうんですね。そうなると、「下手に受け入れない方が・・・」と考える大学が出てきてもおかしくはないのかなと思います。

(REINAさん)アメリカだったら絶対ないんですよ、廃部っていう選択。なぜかというと【無関係な学生に対する人権侵害】とみなされるんです。チャンスを奪うことになるので、そういった対応や対策がないまま、まず廃部って打ち出されるのは非常に違和感があります。

――まだ具体的な対応は明らかになってなく、今のところ「廃部の方針」ということしかわかっておりません。もう一つの話は日大の構造です。大きく分けて「経営」と「教学」、経営は林理事長がトップで人事や財務、教学は酒井学長と沢田副学長で、学務部や競技スポーツ部などを管轄することになります。

――先週の臨時理事会で、学長・副学長には辞任勧告となりました。林理事長に関しては報酬50%減額処分という判断です。沢田副学長は辞任届を提出へ、酒井学長も辞任勧告を受け入れ方針ということですが、大学ジャーナリストの石渡さんは対応と処分をどうご覧になっていますか。

(石渡嶺司氏)沢田副学長と酒井学長については、辞任勧告が決まった後、当初それを拒否するという報道も流れていました。しかし結果的に2人とも受け入れています。背景としましては沢田副学長に対しては、辞任勧告が満場一致だった、つまり林理事長以外にも全員が「お願いだからやめてくれ」ということで、味方がいないということに気づかれて辞任を受け入れた。

酒井学長も、日大総長を経験された方ですので同情論があると見られていたのですが、結果的には、反対票が2人ぐらいしかいなかった。やはり味方がいないということで辞任を受け入れたということがあるようです。

林理事長1人が辞任勧告ではなく報酬50%減となってますが、これは林理事長を支持する理事が多かったというのが一つ。もう一つは「3人ともやめた方がいい」という理事もいる一方で、この問題はまだダラダラ続くだろうという見方が非常に強く、日大の中でも3人一気にやめさせるより、林理事長を留任させて、次何かあったら林理事長あなたが切り捨てられる番ですよ、ということで、最終的に報酬50%減の案に賛成したという話も聞いております。

――もう一つ、これはどう捉えたらいいんでしょうか?沢田副学長が林理事長を、27日パワハラで提訴しています。8月22日から9月7日、主要な会議の出席禁止を命令。全ての責任が自分にあるような印象操作をされたということです。訴状には、林理事長の発言として、「(日大の執行部は)世間に尾っぽを振っていこうと決めた。補助金も欲しいし、真実など関係なく、世間を納得させるために」と話したということです。

――これについて石渡さんの見方として、「辞任勧告は不当だという訴訟ではなく、林理事長のパワハラで訴えたのは林理事長への気持ちの問題が大きいんじゃないか」と、そう見ていらっしゃるということですね。

(石渡嶺司氏)はい。「村八分型のパワハラ訴訟」ということを代理人の方が言われていますけれど、パワハラっていう定義に当てはまるのかどうか、というと、解釈を重ねると確かにそうと言えるかもしれない部分は確かにあるんです。例えば学内の手続きを経ずに学内の会議の出席禁止命令を一方的に出すとか、確かに林理事長の落ち度なんですけれど、沢田副学長あなただって当事者じゃないですかっていう話なので、私はパワハラ訴訟って聞いたときに「えっ」て思いました。元検事であり、法律に一番詳しいはずの方がパワハラ訴訟を仕掛けるというのは、これは周囲を見失ってるんじゃないのかなと見ています。

――そしてやっぱり学生が置き去りになってるんじゃないかなと思ってしまいます。問題は根深いと思うんですが、何とか学生たちのために前進してほしいと思います。

【日本大学に関する経緯】
・2018年に悪質タックル問題(アメフト部 対戦相手は関西学院大学)
・2021年に運動部等に影響力があった田中元理事長が脱税で逮捕・起訴。
・その後理事長に就任した作家で大学OGの林真理子氏は「度重なる不祥事により失った信頼を回復、新しい時代を作る」。
・今年発覚した薬物事件では7月6日、大学側などの調査で寮から植物片などが発見される。12日間の空白経て警視庁に報告。8月5日、10月16日、11月27日に部員が3人続けて逮捕される。