ビッグモーターの兼重親子は社長・副社長を辞任したものの、100%持ち株会社の経営陣として依然ビッグモーターの実質支配を続けています。一方で、このまま売り上げが激減することも予想され、従業員の雇用問題も出てきます。そこで山岸久朗弁護士は「民事再生だと雇用を守りながら、兼重親子との関係を断つことができる。民事再生すべし」と話します。(2023年7月31日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎山岸久朗弁護士(大阪府出身 神戸大学法学部卒業 2002年大阪弁護士会登録)

副社長LINE「死刑死刑死刑」・・・「もろですね。大阪地裁の裁判長も『パワハラや』と言います」

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―ビッグモーターの兼重宏一前副社長から社員へのLINEが明らかになっています。関係者の提供です。副社長のLINEのメッセージです。「次の車も決めずに、フェアなんで来てくださいで呼び込む?」。フェアというのはキャンペーンとかイベントという意味だと思いますが、それに「死刑死刑死刑死刑」と続き、途中から「姫路姫路姫路姫路」でまた「死刑死刑死刑」。このメッセージを受けて「何度もチャンスをいただいているにもかかわらず大変申し訳ございません」と謝っています。今、世の中がこれだけハラスメントに気をつけましょう。パワハラ・セクハラはダメですよという中で、ちょっと考えられないなと思うのですが?

山岸久朗弁護士:そうですね。パワーハラスメントって割と線引きが難しいときが多くて、あたるかどうかが。でもこれはもろですね。大阪地方裁判所の裁判長でも「パワハラや」と言います。

―こういったことが日常的に行われていたんじゃないかということですが?

神戸学院大学 中野雅至教授:誰も注意しなかったんでしょうね。出来なかったかどっちかでしょうね。
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―そんな前社長・前副社長ですけども、今後、責任追及はどこまで可能なのか。親子は7月26日付ですでにビッグモーターの社長・副社長を辞任しています。責任を取って辞めますという形です。しかし、ビッグモーターの株を100%所有する資産管理会社「ビッグアセット」の取締役は継続しているということ。これは責任を取ったことになるのですか? 

山岸久朗弁護士:全くなってないですね。会社は誰のものかって言ったら株主のものなんですよ。取締役とか代表取締役というのは、株主がいつでも解任できるので、専任も。決定的な権限を持ったままでは全く責任を取ったことにはなっていない。まだこの親子の影響力が及んだままです。

―修理した車を傷つけ保険金を水増し請求の件、これに関しては考えられる罪は器物損壊罪と詐欺罪の2つだということですね。

山岸久朗弁護士:その通りです。車を傷つけるのは器物損壊罪ですね。それをもって修理代金を損害保険会社に請求する、これは詐欺罪です。刑法の中でも最も重い方の罪です。

詐欺罪も器物損壊罪も「故意」立証のハードルが高い

―詐欺罪は10年以下の懲役となっています。では、この2つの罪を2人に問うことができるのかという話なのですが、実際に犯罪行為を行った正犯は社員本人になってしまう。車を傷つけた本人が正犯になるので、前社長・前副社長はどうなるかという話ですね?

山岸久朗弁護士:実際には、やった本人が正犯なので、社長・副社長には責任は及ばないというのが実態、原則です。ただし、例えば暴力団なんかのケースで、末端の組員が拳銃を所持していたときに「組長が指示して持たせていたんだ」ということで、共謀共同正犯という理論がありまして。共謀していたと、その罪について。それと同じように前社長・前副社長の指示によって、器物損壊だったり、詐欺だったりをしていたということが立証されるならば、本人たちも正犯として逮捕、また起訴される可能性はあります。

―具体的な指示の立証は難しい?

山岸久朗弁護士:非常に難しい。ホームページでビッグモーターが反省を示して謝ったというふうに報道されていますけれども、実際には除草剤を撒いたことによって結果的に枯れてしまった、ごめんなさいと書いてあるので、故意を否認しているんですね。ところが器物損壊とか詐欺っていうのは過失犯がなくて、故意でしか立件できませんので、あれは本当は否認しているんですね。罪を認めたような謝罪文じゃないんですよ。そこを乗り越えて検察が立証するというのは非常にハードルが高い。(街路樹を枯らしたのは)主に考えられる罪は器物損壊罪にあたる。市区町村の所有物ですので、勝手に枯らすというのは器物損壊罪になります。ただ、これも故意が必要なのですね。

―故意の立証も非常に難しいと。これをどう立証するかが今後のポイントになる?

山岸久朗弁護士:そうですね。刑法犯で立証しようと思うと、検察官は相当難しいハードルに迫られる。ただし民事の損害賠償、この場合は過失でもできる。過失自体は認めていますから、会社に対する損害賠償請求はできる。ただ、現場の弁護士の声として言わせていただければ、街路樹1本あたり5万円とか7万円という報道が出ておりますので、それを会社に対して損害賠償請求しようと思ったら、弁護士に頼むのにやっぱり20万円30万円と裁判費用がかかるから、そうするとやはり赤字になってしまう恐れがあるんですね。それでもやるかどうかというのは各市区町村の長が、「やっぱりこれ天網恢恢疎にして漏らさずとして、許しておくことはできない」という正義感ですね。もしくは政治的パフォーマンス。そういうところでやるかどうか、踏み切るかどうかというところに私は注目しています。

―ここも具体的な指示が必要だということ、証明するのが難しい?

山岸久朗弁護士:会社に対してはできると思います。勝つと思うんですけども。社長・副社長個人に対して損害賠償を請求しようと思ったら、具体的に指示していたというところが刑法と同じく要るので、それができるかどうかというところは問題になります。大きな争点になりますね。

―副社長のものすごいプレッシャーがあってやってしまったみたいなことでは通用しないと。具体的なものがないと。中野教授、こういった除草剤で枯らすというのは自治体のものですからね?

中野雅至教授:プロの弁護士がおっしゃるからそうなんだろうけど、やっぱり国民はなかなか納得しづらいね。国策捜査じゃないけど、なんかやらないと納得しないという雰囲気になってきたらやるのかなと思うし。でも社長はわからんけども、副社長って懲戒処分というか降格処分を含めていろんなことやっていると報告書にも書いてあって、副社長の方はどうなんですかね、立件は法的に難しいんですか?

山岸久朗弁護士:難しいハードルは実際ありますけれど、今おっしゃった通り、もう検察・警察は世間がこれほど騒ぐと、やっぱり引っ込みがつかないので、やらざるを得ないように追い込まれていくとは思いますね。そしてまたやってほしいです。

―今後もしもビッグモーターの経営が立ち行かなくなったらどうなるのか。兼重親子が取締役のビッグアセットとの関係はどうなっていくのかというところですが、山岸弁護士によると「高く買ってくれるところに事業譲渡する形で民事再生を行う可能性」があると?

山岸久朗弁護士:大前提を説明しますと、民間の車検場としての許可が取り消される可能性がある。そして、そもそも客足が激減している。そして損害保険会社の代理店の契約も取り止めになると、そうすると売り上げが激減すると思います。そうすると銀行の借り入れを返せなくなる。たちまち経営が成り立たなくなって破産するんじゃないのかなと見ているんですね。破産の一形態として、民事再生というのがありまして、今あるビッグモーターの資産、工場やショールーム、そして何よりも働いておられる方の従業員の雇用、こういったものを守らないといけないと私は思うんですね。破産になると全てが台無しになってしまう。民事再生という制度は、そういった資源を守りながら、それを同業他社に高く買ってもらうことによって、そういった雇用を特に守りながら、資産を残せると。これになっていくんじゃないのかなというのが私の見立てです。

ビッグモーター社員の雇用を守り、兼重親子を断ち切る、「民事再生のすすめ」

―それによりビッグアセットの兼重親子との関係も切れるということですね?

山岸久朗弁護士:まさに世間が一番怒っているのは社長・副社長の権限が残っていると。まだ今でも大きな権限が残っておりますから。これが民事再生になると株がほぼゼロになるんですよ。事業譲渡を起こされることによって抜け殻になったビッグモーターは破産するしかなくなって、この親子の統治が切れるんですね。だからこれになっていくんじゃないのかなというのが私の弁護士としての今後の予想です。

―調査報告書によりますと、2021年9月にはビッグモーター従業員数5324人いらっしゃるんです。中には真面目に一生懸命お仕事されている皆さんも大勢いらっしゃると思うんです。だからこういった方々をどうやって守っていくかっていうことは考えないといけませんね。

山岸久朗弁護士:その通りです。こういった言い方したらなんですけど、いち早く民事再生に取りかかることが、取るべき経営者としての道じゃないのかなと私は思っています。