北朝鮮が衛星ロケットを発射することを予告。期間は5月31日から6月11日としています。日本は弾道ミサイルの可能性があるとみて日本の領域を通過することを想定して自衛隊に「破壊措置命令」を発令しました。このロケットについて龍谷大学教授・李相哲氏は「軍事衛星ロケット」で「アメリカの動きを細かくチェックするのが目的」と指摘します。(2023年5月29日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎李相哲氏(龍谷大学教授、中国・黒竜江省出身、中国共産党機関紙記者、朝鮮半島情勢に関する著作多数)

---衛星ロケットを打ち上げると予告した北朝鮮は、三つの危険区域を設けるとしています。一つが黄海。二つ目が東シナ海、もう一つがルソン島の東方というで、この付近に部品などの落下が予想されるとしています。日本の領域を通過する可能性があるとして、浜田防衛大臣が自衛隊に破壊措置命令を出しました。与那国島、石垣島など4島にPAC3を展開し、迎撃態勢をとるほか、東シナ海にはイージス艦を派遣するということです。最近の北朝鮮のミサイル発射はだいたい北海道近く日本海側に落ちたとみられるという情報がよく入ってきますが、今回は全然場所が違いますね?
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(李相哲氏)衛星を地球の軌道に乗せる必要があるので、その地球の回転とその角度を計算して、一番いい角度を選ぶんですね。ですからそれが大体今の角度だと思います。

---1番2番だと、中国がすぐそばじゃないですか。中国への気遣い、配慮みたいなものってないのですか?

(李相哲氏)ロケットの発射というのは国に害を与えない建前。ミサイルと違ってこのロケット衛星を打ち上げるので、武器ではないですね。ですから大丈夫だと。

---北朝鮮の衛星ロケットの打ち上げの予告期間というのが、5月31日から6月11日まで12日間ですね。予告してきたわけですが、気になるのがどうして今、発射なんでしょうか?もう一つは、なぜわざわざ予告をしてきたのかというところ。7月27日が一つのポイントになるということですね?

(李相哲氏)7月27日は北朝鮮でいう戦勝記念日です。韓国と戦って休戦協定を結んだ日を北朝鮮では戦勝記念日で、そこに向けて準備を進めてきたんですが、4月におそらく準備が整わず、少しずれ込んでいる。でも今年は一連のことを今着々とやっていくというふうに見られます。(9月9日建国記念日は)今年は特に75周年ですので、北朝鮮では5周年、10周年は大々的にやるんですね。そのために衛星とか、国威発揚のための成果をアピールする必要があります。衛星に関しては北朝鮮にとってはとても大事なミッション、必ず成功させたいんですね。

---ではなぜ事前に予告をしたのか?近年、北朝鮮が人工衛星発射の事前通報をした事例を見てみると、2012年に2回、そして2016年に1回。いずれも通報期間の初日から3日目に発射がされています。今回の通報期間は5月31日から6月11日。どうなるのか。日本は発射しないよう強く自制を求めています。これら3回のときは事実上の長距離弾道ミサイルの発射だったとされていますが、李教授は今回に関しては「軍事偵察衛星を打ち上げるのでは。衛星だからこそ堂々と予告したのでは」としています。

北朝鮮の衛星は軍事衛星に必要な「地上50センチ以下の識別能力」は未だ達していない?

(李相哲氏)衛星は平和的利用を目的としますよね。これまで北朝鮮は5回、衛星を発射してます。その中の2基は、一応軌道に乗せています。これは宇宙局には、物体としては登録されてるんですが、実は死んだ衛星、鉄くずと同じだと言われています。今回は以前の衛星と違うのは、軍事目的の軍事偵察衛星1号機と北朝鮮では言っています。過去と違って今回は本当に機能する可能性が高い。今までの衛星は民生用で地球を観測したり、天気を見たりとか、そういう目的だと言いましたけれども、おそらく実験の性格が強かったんですよね。

---1号機という言葉もありましたが、北朝鮮が目指す初の軍事偵察衛星打ち上げ、その思惑は何なのか?李教授は軍事偵察衛星を用いてアメリカの動きを細かくチェックしたいのではと話しています。
(李相哲氏)今、アメリカと韓国の間では、北朝鮮の脅威に備えて、戦略武器を朝鮮半島周辺に展開すると。定期的に潜水艦とかが朝鮮半島周辺に来るんですね。北朝鮮はそれを見たいというのが金正恩総書記の目的の一つですけれども、それ以外も北朝鮮にとっては必要なのは、今までは、目の見えない状態で物を投げて、たくさんミサイル発射していたけれど、でも今回軍事偵察衛星があれば、見える状態で打つことになりますから。脅威は高まります。ただ今回の衛星の大きさとか大体わかっているんですが、北朝鮮が衛星で撮った写真を公開したのですが、それが大体、地上の20mぐらいの大きさが識別できる。しかし、軍事衛星の場合は50センチ以下のものが識別できなかったら意味がない。しかも1基だけだったら、意味がなくて北朝鮮が続けてやるというのは、地球を一周するのに時間かかりますよね。だから五基ぐらい打ち上げないと駄目なので、これ1号というのはこれから打つという意味ですね。

「破壊措置命令」は、衛星切り離した時の落下物が対象?

(中野雅至・神戸学院大教授)軍事偵察衛星だと思うんですが、破壊措置命令まで出しているところを見ると、弾道ミサイルの要素も入っているのかなと。結構強烈ですよね、破壊措置命令って。

(李相哲氏)衛星であるのは間違いないです。ただ衛星打ち上げるためには、ミサイルと同じように打ち上げなければならない。1段と2段を分離するときに落下物が発生します。それが害を及ぼす可能性高いので、落下物に対して、破壊装置命令を出すか。万が一衛星そのものが落ちる可能性もありますけれども。

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---もう一つ注目は、金正恩総書記が娘のジュエ氏とみられる女の子を伴って準備状況を視察した。これはどういうことなんですかね?こういう場所に娘を連れて行って写真を撮らせて公開する。
(李相哲氏)小学生の娘を連れ回していいのかと思うんですけれども。よくよく観察してみると、とても北朝鮮が自慢したいものとか、場所に連れて行くんですね。世界の注目を浴びたいという目的もあると思います。北朝鮮からすると衛星を自力で打ち上げた国は、韓国が最近、打ち上げましたけれども、7カ国しかないんです。そんな中で成功すればこれは自慢すべき。国威発揚のためにぜひ必要なものですよね。