5月19日からG7広島サミット。「ロシアのウクライナ侵攻」「G7とグローバルサウス」「気候変動とエネルギー問題」などなど。地球規模のテーマがうずたかく積み上げられている中、世界のリーダーを自認する各首脳はどんな頂を目指すのでしょうか。サミット取材歴豊かなジャーナリスト池上彰さんにサミットの“そもそも話“から“岸田総理の野望”といったリアルな政局話も交えて「前・後編」でお伝えします。(2023年5月16日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

「プーチンの核使用発言」...だから今こそG7首脳に「核の悲劇、惨劇をみてほしい」

---では次の質問。「広島サミットで岸田総理がやりたいことは一体何なんでしょうか」?

(池上彰氏)岸田総理は広島選出です。広島といえば被爆地ということで「核のない世界」へ、少しでも進みたい。これが岸田総理のライフワークですね。もちろんすぐには進まないわけですが、とりあえず各国首脳に平和記念資料館に来てほしい。原爆が落ちると、こんな悲惨なことになるんだってことを見てほしい。そういう思いがあるんですね。実際に2016年にアメリカのオバマ大統領が広島に訪問したときに、平和記念資料館を視察しました。私もすぐ近くで見ていたんです。あの大統領が見てくれるんだって思っていたら、わずか10分で出てきてしまったんです。どれだけ見てくれたのって、ちょっとがっかりしたんです。今回はどれだけ長い時間、みんなが滞在するんだろうかというのも注目点になるわけです。そして核兵器を持っているアメリカ・フランス・イギリスの首脳が資料館を訪問し、原爆が落とされると、いかに悲惨な目に遭うのかということをぜひ知ってほしいんだということ。広島の人たちも岸田総理もそういう思いを持っているということですよね。特に最近、ロシアのプーチン大統領が「核兵器をいざとなったら使うかもしれない」と脅しています。去年の9月に「我々の領土が脅かされれば、あらゆる手段を取る。単なる脅しではない」と言って、核使用も排除しないような考え方をしている。非常に危機的な状況ですよね。だからこそ今、世界の首脳たちが核兵器が使われると、こんな悲惨なことになるんだ。だからロシアに絶対使わせてはいけないという、これがある種の核抑止力になりうるんだということですね。なので、核兵器を持っている国々の首脳にこの資料館をしっかりと見てほしいという思いがあるということですね。そしてもう一つ。最近「グローバルサウス」という言葉が出てきています。結構これ、ニュースでも出てくるようになってですね、間違いなく今年の流行語大賞に出てくる言葉になると思うんですね。グローバルサウスはサウスですよね。いわゆる南北問題と昔は言われてました。先進国の北と開発途上国の南。昔の開発途上国、経済的には途上国、一方政治的には東西冷戦時代の西側でも東側でもない。いわば第3世界という主に南の国々があるんですが、そこが今、非常に経済的に発展してきているわけです。昔はG7だけで、世界経済のことを議論できたけど、今はグローバルサウスの国々を巻き込まないと、世界全体が回らなくなってきている。今回実はG7の会場にインドやインドネシアブラジルの首脳も呼んできて、みんなで一緒に世界経済のことを考えましょう。あるいは岸田総理や大臣は、例えばアフリカ諸国を歴訪しました。アフリカ諸国をグローバルサウスとして、何とかこちらに繋げていきたい。要するに意図があるんです。グローバルサウスの国々って、途上国ですから経済では中国と密接な関係がある。あるいは政治的には、実はロシアを批判していないという国々がある。そこを何とか切ってしまって、グローバルサウスを民主主義の国々、あるいはG7サミットの国々に引き寄せたいという思いも実は今回のG7サミットでは狙いとして入っているんだということですね。日本は核兵器禁止条約には入ってない。核廃絶というなら、核兵器禁止条約に入ればいいじゃないかという、よその国から批判されることもある。アメリカの核の傘にある中でどれだけのことが言えるか、ギリギリの発言をどこまでするのかということが今回のサミットでの一つの注目点だと思います。

サミット議長国で支持率アップ→6月衆院解散→7月23日(大安)に総選挙投開票、、、という野望

---池上さんが考える岸田総理の野望とは。

(池上彰氏)サミット議長国を務めると、きっと国内の支持率が上がるんじゃないか。そこを狙って、来月6月に国会の会期末終了直前に衆議院を解散する。そうすると7月23日が日曜日大安の日なんですね。だいたい政治家っての験を担いで、解散総選挙の投票日を「大安の日」に設定するということが多いんです。ちょうど6月の末に解散すると、投票が7月23日にある。ここで勝利をすれば、来年自民党の総裁選挙ですから、そこで再び岸田さんが総裁に再任されるという。こういう野望を持っているんじゃないかということなんです。

---池上さん、でも先日、解散総選挙を近々はやりませんという趣旨のことを話していましたね?

(池上彰氏)以前は「解散総選挙はどうですか」と聞くと、岸田さんはそういうことは考えていませんって言ってたんですよ。それが最近ですね解散総選挙はどうですかと言ったら「適切なときに適切に判断します」という言い方にちょっと変わったんですよ。なるほどちょっと微妙にニュアンスが変わってきているということがあるんですよね。そしてさらに岸田総理は野望があるんじゃないかということですね。それは郷里の先輩、元々岸田さんが所属している派閥ってのは宏池会です。宏池会って元々、池田勇人総理の派閥の名前です。元々は池田勇人さんの後援会の名前だったのですが、それが池田勇人が率いる派閥が宏池会という名前になり、さらに岸田さんはそれを受け継いでいるわけですよね。「郷里の先輩」というわけですから、池田勇人元総理の在任期間を超えるという野望を持っているのではないか。池田勇人元総理の在任期間は4年4ヶ月でした。最近、岸田さんが側近に「池田さんの在任期間はどれくらいだった?」と聞いたという話がありました。あれ?気にしてるんじゃないのと。やっぱり総理大臣になった以上、歴史にいろいろ記録を残したいわけです。安倍元総理も在任期間で史上最長ということを記録しました。岸田さんにしてみると、そこまで望まなくても、せめて郷里の大先輩を上回りたいというこういう思いがあるんじゃないか。そのためにはサミットが終わったところで一挙に解散総選挙に持ち込めば、勝利できるんじゃないかという野望を持っているんじゃないかというふうに今、国会周辺では、多くの人たちが見ているということなんです。6月になると、解散総選挙があるかどうかが見えてきます。