アフリカ・スーダンの軍事紛争が激化する中で、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」率いるプリゴジン氏の存在がクローズアップされています。スーダンで産出される金をワグネルが密輸し、引き換えに兵士を派遣しているというもの。そのワグネルの創設者プリゴジン氏はウクライナ軍事侵攻の「作戦修了宣言」について言及。背景に「これ以上、ウクライナ侵攻を継続してもお金にならないから」との見方を筑波大学名誉教授・中村逸郎氏は示します。そしてワグネルが手を引くことで「プーチン氏は5月9日の対独戦勝記念日に軍事作戦を終了するかも」というのが中村逸郎氏の独自分析です。(2023年4月21日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎中村逸郎氏(筑波大学名誉教授、専門は現代ロシア政治、ロシアへの無期限入国禁止)

民間軍事会社「ワグネル」は金が要るから、スーダンのRSFと結びついて「金密輸」

---筑波大学名誉教授の中村逸郎先生に解説していただきます。ロシアのウクライナ侵攻とアフリカのスーダン内戦には、実は密接な関係があるということですよね。鍵を握る人物は民間軍事会社ワグネル創設者のプリゴジン氏。
プーチン大統領の側近と呼ばれている人物、一体どういう関係があるのか?まずスーダンでの武力衝突。スーダンというのはアフリカの北東に位置する国です。スーダンの国軍の兵力はおよそ21万から22万と言われています。そして民兵組織のRSFの兵力およそ7万人規模で武力衝突が起きているということです。2019年両者は協力して、元々当時の独裁政権であったバシール大統領を失脚させました。しかしその後、国軍にRSFを統合する時期について対立、今回の衝突に結びついてしまった。

(三澤肇解説委員)スーダンには日本人も60人ほどいて、ジブチに向けて自衛隊のC130輸送機っていうのが出発したという情報ありますけれども、やはり問題はきっちりと救出できるかどうかっていうことです。とりあえず72時間の停戦が発効したという情報もあるんですけれども、実際に停戦がきっちりできるのかっていうのは誰もわからない状況だし、飛行場自体が狙われてるので、なかなか入りにくいっていう状況には変わりないと思いますよね。
---ではアフリカのスーダンで起こっている武力衝突になぜロシアが関係あるのかというところをですね。プリゴジン氏とスーダンの関係ですが、スーダンは世界第10位の金の産出国です。プリゴジン氏率いる民間軍事会社ワグネルは兵士を、スーダンの民兵組織RSFに派遣をして、逆にスーダンから金を密輸している。金の採掘会社を共同運営している構図になっている。
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(中村逸郎氏)実はワグネルという会社は、出来たのは2013年で結構古いんです。その後2014年15年にかけてワグネルはアフリカの方に約10カ国にどんどん進出していってきてるんですよ。その中の一つがスーダンなんです。そしてこのワグネルという会社とRSFという会社、実は2017年に一緒に実は金の採掘会社を作って共同運営しています。
そこで、金の発掘をしているわけなんですね。スーダンでとれた金が
ロシアはワグネルの元に行って、金を採掘しているところっていろんな水利権が複雑に絡み合ってますので、そこにワグネルが兵士を派遣しするという構図が出来上がってきているわけなんですね。

---金を輸入じゃなくて密輸?

(中村逸郎氏)そうなんです。なぜかというとスーダンの中でワグネルに渡すっていうのは秘密なんですね。つまり共同の会社っていうのはスーダン政府がきちんと認めたものではなくて、いわゆる国有財産みたいなものを勝手に渡している。軍事組織ワグネルっていうのは民間ですから、自分たちのお金が要るんです。ですから金を手に入れることによって、武器を外国から買っていると。

---そんな中、ワグネルの創設者プリゴジン氏の発言が気になります。
14日の声明発表でウクライナ侵攻作戦終了に初めて言及したと。元々プリゴジン氏はウクライナ侵攻非常に前向きだった人なんですが、急に逆のことをいい始めた。「作戦終了」宣言し、ロシアが計画した成果を達成したと周知することが理想的だと話しています。

(中村逸郎氏)実はここでロシアが計画した成果を達成したと言っています。彼の言う成果って二つあります。一つは元々このウクライナ東部っていうのはネオナチがいるということで軍事侵攻したんですけども、大部分のネオナチがもう撃退された。これ一つの成果ですね。二つ目が実は重要ですけども、このプリゴジンが2014年のワグネルがとったクリミア。ここをロシアのものにしたといこと。説明しますと、クリミア半島は2014年にロシアが強制的に併合しますけども、そのときにワグネルが入ってって住民投票などいろいろ画策しました。クリミアというのはプーチンというよりも、プリゴジンの手柄になっているわけです。ロシアから遮断されているのでクリミア大橋を作ったわけです。ただこれだけじゃ弱いので、今回プリゴジンの言う「計画の目的を達成した」っていうのは、陸路でどこの国に兵器とか生活物資を送れる陸路の確保できるようになっている。今年の2月24日の時点でもってもう計画を達成したと言っているんですね。

---プリゴジン氏はどうして急にこの作戦終了を言い出したのか?

(中村逸郎氏)そこがポイントです。それはスーダンで軍事衝突が起こった。同時にプリゴジンの声明が発表されたと。すごいピシャットしたタイミングで、こういう話をしたということなんです。

---プリゴジン氏の思惑は、スーダンは金が取れるので、お金になるワグネルの兵を送りたい。戦闘を続けてほしい。だからスーダンでの戦闘は続けてほしいと思っているわけですね。

(中村逸郎氏)とにかくプリゴジンさんにとって、スーダンは金になる。どんな金になるかと私も調べてみたんですけども、去年の2月24日に軍事侵攻した。それから半年間にスーダンからこの金を乗せた貨物機がロシアに空輸されたと。わかっているだけで16機の貨物機が飛んだ。少なく見積もっても300億円相当だという情報が出てきているんですね。一方で、ウクライナはもう金にならない。なぜか。プリゴジンさんがウクライナに入ったのは、東部にドネツ炭田があります。世界最大級の炭田がロシアの軍事侵攻でもって廃墟と化してしまって、もう潰れてしまっているわけですね。もうお金にはならない。そして戦況もパトリオットが欧米諸国からウクライナに入っていくということで、もうこの戦争はもう今の時点で引き上げた方がいいっていうふうに考えているんですね。

---本当にお金が理由でこのプリゴジン氏ワグネルがこのウクライナから手を引くというようなことがあったらどうなっていくのか。ワグネルが手を引くとロシアは勝てる見込みがないということなんですね。

(中村逸郎氏)ロシア正規軍の方がかなり消耗してきているということで、今日、ロシアの国営通信のノーボスチっていうのが、こんな情報を売ってきたんですね。「ロシアの正規軍が失敗をしてしまった」と。ウクライナ国境に近いロシア側のベルゴロド州でロシアの戦闘爆撃機が自国の都市に爆弾を落としてしまった。それで負傷者が出ているわけですけども、こういうことが起こったら、これまでならば、「それはウクライナが撃ったんだよ」っていうことを言ってたんですね。今回はいち早く国営通信社が打ったということで、結局この5月9日、戦勝記念日というロシアにとって一年中非常に大きなお祝いの日があるんですけども、それに向けてもうこんなふうにもう正規軍がもう駄目になってきてるということで、プーチン大統領は軍事作戦の終了をここで宣言するんじゃないかということなんですね。

---今までは一歩も譲らなかったロシアが5月9日に向けて軍事作戦終了の可能性もあるということ。ただし、クリミア半島はウクライナもロシアも譲らない。クリミア半島はもうどっちも絶対離したくない。
(中村逸郎氏)終了宣言したしても、クリミアをどうするかという問題。そして今、ロシアが軍事的に制圧しているところがどうなるかというところが終了しても、ウクライナがどう出てくるかっていうとこが非常に問題なんですけども、ただプリゴジンさんはウクライナはロシアの一部ではなくて、主権のある国民国家だっていうことを言ってましたね。プリゴジンさんはウクライナとこの辺りの協議に入っていくんでしょうけど、とりあえずプーチン氏は行き詰まってしまって、一方的な終了宣言をするんではないかということなんですね。

中村氏「プリゴジン氏はポスト・プーチン氏として大統領代行就任か」

20230421_nakamura2_purigojin.jpg---停戦するというような話がプリゴジン氏の口から出てきましたけども、今後プーチン大統領はどうなるのか。中村氏の予想では、プーチン大統領はウクライナ侵攻の責任を体調不良を理由に、大統領辞任するんじゃないか。その後にプリゴジン氏は大統領代行に就任をして、選挙を経て、正式に大統領にという可能性があるということなんですね。
(中村逸郎氏)体調不良を理由にっていうのはプーチン大統領の言い訳なんでしょうけども、実際は今回のウクライナ侵攻の戦争の責任を負わされる形なんですね。ただプリゴジン氏がなぜポストプーチンになってるかというと、彼はこれまでお金をいっぱい儲けてきたんですよね。でもお金をいっぱい儲けてきたところで、彼が最後何が欲しいかって、名誉なんですね。お金をどんなに積んでも名誉がなかなか手に入れられないということで、実はプリゴジンさんは次はやっぱり大統領代行に就任。そしてプーチン大統領の辞任にあたって代行に大統領令でもって指名して、そして来年の3月に選挙が予定されてますから、それを前倒しする形で選挙をするんじゃないかということなんですけども、これだけの話ではなくてもっと実は裏がありまして、このプーチン氏はそもそも大統領として作ってきたのは、大金持ちのコバリチュク氏。銀行の。プーチン氏の、金庫番と言われる人ですけども、その人が実はプリゴジン氏に近づいてきてて、プリゴジンさんは選挙で勝つにしても、自分の政党を持たなくちゃいけないわけなんですね。ですから、プリゴジンさんとコバリチュク氏が一体化してきているということで、今後こういった流れが動き出しているのではないかということです。

---中村先生独自解説をしていただきました。