岸田総理に爆発物を投げ込んだ木村隆二容疑者は黙秘を続けています。一方、事件を受けて選挙期間中の街頭演説の在り方が議論され、演説会場を屋内で行い、セキュリティを高めていくというアイデアが浮上しています。しかし国会議員の中には「テロに屈したことになる」「選挙は命がけ」として屋内での演説に否定的な意見も。犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は「聴衆まで命をかけて演説を聞きにいかなければならないのはおかしい」と言います。
(2023年4月19日MBSテレビ「よんチャンTV」より)

選挙の街頭演説が屋内でできない理由

---犯罪ジャーナリストの小川泰平さんに解説をしていただきます。今回の事件を受けて街頭演説の安全対策の強化も進められています。例えば、演説会場を屋外から屋内へと変更し、聴衆が入るときは、金属探知機などを使って手荷物検査をする。さらには中に入る人は、受付で記名してステッカーをもらうので、ちゃんとチェックを受けましたよという印をもらう対策も行われています。屋内でセキュリティをかなり強化してというアイディアもあるようですけども、どう考えますか。

(小川泰平氏)確かに屋外よりは屋内の方がセキュリティチェックもしやすいですし、安全なんですけども、今回のように補欠選挙なら問題ないですけども。衆議院選挙となると、いつ衆議院選挙が行われるかも直前じゃなければわかりません。また全国で同じ県、同じ地区でいろんな党首だとか、いろんな警護対象者が応援演説とかに来るわけですね。そうなれば、1ヶ月ぐらい前にしかわからない解散ですから、まず会場等をおさること自体ができない。
---理想はですけども、現実を見て対応した方がいいのかなと思いますね。では和歌山県の雑賀崎漁港で屋内での演説・遊説というのは可能なのか、現実的なのかどうか。地元の反応はどうなんでしょうか?現場で大吉アナウンサーが取材をしています。

(大吉祥平アナ)雑賀崎漁港は事件発生後、一度も漁は再開されていないので、けさ漁師さんの姿はちらほら目にはしましたが、1日を通して人通りは多くありません。「天気が許せば明日から漁を再開したい」という声がありました。捜査関係者などへの取材によって新たにわかったことがあります。爆発物が投げ込まれたのは、漁港の建物屋根の下、そこからおよそ60m離れた場所、方角でいうと南東に白いコンテナがあります。白いコンテナに爆発したとみられる筒状のものの蓋らしきものが、めり込んでいたということが新たにわかりました。近づいていくと、ここからも穴が確認できるんですが、コンテナに穴が開いてます。横7センチ、縦4センチ深さで5センチほどありました。これまでの取材で、40m離れた場所にある三角屋根の倉庫、あそこに爆発物の一部が当たったということはわかっていたんですが、さらに20m遠い場所にも何かしらの物が飛んできた。しかも当たっただけじゃなくてめり込んでいたということがわかりました。今回怪我人2人出ていますが、2人とも軽傷です。ただ決してこの爆発物は脅しレベルのものではなくて、この穴が確かに人を傷つけることができる。場合によっては命を奪ってしまうレベルなんだということを物語っているのではないでしょうか。
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屋内で選挙の演説などをやっていこうという動きが今ありますが、雑賀崎漁港周辺でそういった場所というのを確保できるのか。いろいろ街の人に話を聞いてみました。例えば、私の後ろ、家が建ち並んでるエリア、あの辺りに公民館がありました。街の人たちは公民館なら人が集まれるんじゃないかと口にしていました。元々選挙の投票所として使われていた公民館なんですが、映像をご覧いただいてもわかる通り、坂が急で階段を上っていかなくちゃいけない。どうしてもご高齢の方が多いので、街の人たちに話を聞いていると、みんなが簡単に行ける場所じゃないよねと。だから、選挙の投票所だったんですが今、違うんですね。なのでこういった場所も、この街の人たちの特性を考えると難しいのかなという印象を受けましたね。もう一つ皆さんが口々におっしゃっていたのが、高台に灯台があるんですけれども、これは津波が発生したときなどの避難場所に指定されている場所で、灯台のすぐ近くにキャンプ場のセンターやカフェになっている建物があります。ここも100人ぐらい人が入れます。ただ、地元の人に話聞いてても、有事の際はみんなどうにかしてここに上がってくるんだけれども、基本的には車がないとなかなか行きづらい坂の上になってるので、やっぱりお子さんと一緒にとか、ご高齢の方と一緒に選挙演説を見に行くかといったらあまり現実的ではないよねとですので、こういった漁村というのは日本全国いくらでもありますよね。今後、選挙をどう安心安全に進めていくのか。この場所で取材していると大きな課題が残っているなというのは感じました。

---では、屋内が難しい場合はどうなるのか、こういったことが検討されています。屋外で警護される人は防弾スクリーン付きの街宣車の上に立って、聴衆は20m離れた柵で囲まれたところにいるという形が検討されているということなんです。屋外で安全を確保するにはこれぐらいやらないとっていうことになるんでしょうか?

(小川泰平氏)後ろの背景は壁とか、そういったところをやはりやってもらいたい。あとは地元の方の協力を得て、例えば今回、結果論ですけども雑賀崎の漁港では、雑賀崎の漁港の地元の方は大体地元の方の顔が知っているそうなんですね。逆に言うとSPの方とか警察官の方は漁港の方の顔を全員知らないんです。今回も後で聞くと容疑者は別のところからきたのだなってわかっていた方がたくさんいたのです。例えば私の案ですけども、消防団とか、必ずどこの地区も消防団の方がいます。消防団の方に消防団の制服を着ていただいて、警備の強力サポート体制をとってもらうとか。そういったことも必要ではないかなと。
---なるほど。我々メディアも来てますよっていうのをわかりやすくちょっとアピールするっていうのも必要かもしれませんね。

(小川泰平氏)メディアは普通の事件現場のときは腕章をつけていますが、この腕章を、レポーターだけではなくて、レポーター・ディレクター・音声さん・カメラマン全員が腕章をつけるっていうのは必要だと思います

---対策案が検討される一方で、国会議員からは否定的な意見も聞かれます。ベテラン議員は「選挙は命がけで戦うもの、私は歩いて票を取ってきた民主主義は崩壊する」。こういった主張。そして議員や関係者は「テロに屈したことになる」「屋内だと特定の人しか来なくなる」といった懸念を話します。そして公明党の山口代表は、リスクを避けるために、コミュニケーションの機会を失うようなことがあっては民主主義が機能しませんと話しました。国会議員とか候補者となり得る人たちからすると否定的な意見も一部であるということですが、元国会議員の豊田さんはどう考えますか。

「命より民主主義」とか「暴力に屈しない」とか...「気概や意気込みで片づけていい問題じゃない」

(豊田真由子氏)皆さんのおっしゃってることはすごいよくわかる。多分候補者とか議員になった時点で、自分の命なんかどうでもいいというか、命よりも民主主義とか国民との対話とか、皆さんのために、自分は命の自分を捨てられますっていうふうに多分みんな本気で思っていて、それが身に染みているので、それで弱気になってはいけないとすごく思うと思うんですよ。だけどちょっと見方を変える必要があって、これは暴力に屈するんじゃなくて、聴衆の方を含めて、警護の方含めて国民の命と安全を危険にさらさないために、変えるんですっていうふうに私は思うんですよね。屋外だとあえて距離を取ってもね結局すごく大きい威力のある爆弾だったら、爆発しちゃうじゃないですか。だから100%は防げないので本当に大きな転換をちょっと図ることを考えないと、政治家の気概とか意気込みで片付けていい問題ではないかなっていう。私ちょっと離れてみた(国会議員を)辞めた者としてみると、そこは変えた方がいいんじゃないかなって思う。

---政治家の皆さん、やっぱり有権者の皆さんに近いところで握手して、グータッチして挨拶したいってのがやっぱりある?

(豊田真由子氏)そうそう。それは票を稼ぐとかいうだけの話ではなくて、やっぱりそうやってこれが民主主義の根幹なんだと。皆さんのために私達は働く。その声を聞くんだっていう思いはあると思う。
---豊田さんの肌感覚でいうと周りの国会議員の皆さんは、どれぐらいの方が(否定的な)考え方ですか?

(豊田真由子氏)ほぼやっぱりみんなそう思っていると思いますよ。世の中から見てどうっていうのは、永田町の中で何十年続いてきた常識とか、やり方とかで、みんな当選できたと思っているっていうのもあるから、変えることへの抵抗感はすごくあると思う。

---でも一般人・民間人がすぐそばにいて危険にさらすわけにはいかないという考え方はあると思いますが?

(豊田真由子氏)落ち着いて考えるとそうだと思うので、逆に足並みが揃わないと、できないわけですよ。だから一部の人は続けて、一部行ってとなってしまうとバランスが取れなくなるってのもあるし。やはり要警護対象者ってすごくたくさんいるので、総理・閣僚・政党代表とか、与党の幹部とか。みんな全国の選挙区に行くってなったら、ものすごい量になるので、それを今まではそんなに高いレベルじゃなくてやれたのを引き上げると、地元警察にかける負担もすごくあると思うんですよ

---日本の場合はそのSPの警護する側の人的な問題というのもありますものね。

(小川泰平氏)人員的な問題もありますし、やはりこのベテランの議員さんというのは、自分は命かけてもいい、命かけようが何しようが自由です。もう勝手にやってくださいと私は言いたいですけど。その方の演説を聞きに行く聴衆の方まで命をかけて、講演を聞きに行かなきゃいけないのかということですね。今回でも実際に要警護対象者の総理大臣とか、候補者の方はけがは全くしてません。けがしてたのは警察官とか徴収の方です。警察官は命をかけて仕事をするのは当たり前ですけど、聴衆の方が命をかけて話を聞きに行かなきゃいけないってのはちょっと間違いで、議員の方が一生懸命やってくれるのはいいんですけど、聴衆の方の安全も考えて、距離を取るとか。中にはですね、候補者の方が聴衆の中にダイビングしていった人がいるの知ってますか?。そんな古い話じゃないです。どこまで本気でどこまで冗談でやってるのかわかりませんけど、グータッチとかハイタッチならまだしも、ダイビングして、もうそんなの何があってもおかしくない。常識のない議員さんがいるのも事実なんです。

0419 wakayama2  ryukkunonaka.jpg---今回の場合は、幸いと言っていいのか、2人の方が軽傷だったという。そして容疑者のリュックの中身というのも明らかになってきました。液体入りの水筒、粉末入りの小瓶、そして金属の板スプーン・ライターなどです。液体や粉末の成分は鑑定が進められています。では、これらが一体どんなものに使われる可能性があったのか、銃器評論家の津田さんに話を聞きました。粉末が火薬だったとしても、犯行直前に筒に入れたりはしないだろうと。可能性として液体は別の毒劇物であったり、あとガソリンであれば、火炎瓶として使われた可能性も。そして粉末はリュック内の爆発物を誘発させるための火薬の可能性が考えられます。金属板スプーンの用途はわからないが、ライターは着火用ではないかと話しています。あくまでも可能性ということで専門家に話を聞きました。木村容疑者に話をさせるためにはどんなことが必要になってきそうですか。

(小川泰平氏)本人がこれまでツイッター等で発言をしていますが、現在、選挙制度に云々というのも警察の家宅捜査でわかったことなんですね。それを本人にもぶつけて、もう自分自身で何か主張したいことがあるなら、自分の口ではっきり言わないと何も伝わらないよと。いったようなことを本人に話をし、信頼関係を作ってですね、少しずつでも雑談からでもいいので、話をさせる癖をつける必要があるのかなと思います。