ロシアをめぐる2つの出来事から見えてくるものについて、筑波大学名誉教授・中村逸郎氏が解説してくれました。1つ目はロシア軍が軍人不足解消のために開始した『契約軍人の募集』について。40万人の増員を目指すとして軍事作戦地域では月34万円からという報酬が支払われるとされていますが、中村逸郎氏は「給料が支払われないケースが表面化していてなかなか集まらないのではないか」と話します。そしてもう1つが『アメリカの機密情報流出』について。中村逸郎氏は「得をするのは中国であり、情報は中国へのプレゼントじゃないかという話が出ている」と語りました。(2023年4月14日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎中村逸郎氏(筑波大学名誉教授、専門は現代ロシア政治、ロシアへの無期限入国禁止)

ロシアが新たに契約軍人を募集、「報酬34万円」でも志願兵が集まらない理由

 筑波大学の中村逸郎先生です。ロシアを巡る新たな動き、二つの出来事から見えてくるもの。一つ目はアメリカの機密情報の流出にあの国がロシアを支援しているのではないかという情報。そしてロシア軍人不足解消に新たな作戦を実行しているようです。去年、予備役30万人動員に続いて40万人規模の契約軍人の募集が開始されました。街角では募集ポスターも見られました。報酬は、軍事作戦地域では約34万円。ロシアの平均月収はおよそ10万円ということですから、3倍以上ということになります。日本の平均月収が約31万円ということですからそれ以上だということになります。中村教授によりますと、提示される給料が良くても、給料未払いの噂や帰還兵の悲惨な話が広がっていて、志願者は思うように集まらないのではとみている?
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(中村逸郎氏)そうですね今もう最前線から地元に帰った人がたくさんいるんですね、そのときにどんなに戦場がひどい状態になっているのか。最近、斬首の動画がインターネットで公開されて、ロシア国内でも広がっているわけですね。そして帰還兵たちは、とにかく精神的なダメージが強くて、アル中になってしまうとか。そういう話もたくさん出ていますし、こういった形でお金をくれるっていうことになっていますけども。実際は払われない。または、怪我をしたときとか亡くなったときには家族にもきちんと補償しますよって言っているけども、実際には払われていないケースっていうのがもう表面化しているわけなんですね。ですからプーチン大統領がこういうことを言っても、兵がなかなか、志願兵が集まらない。昨年の9月に30万人、また40万人。プーチン大統領は昨年30万人集めますよと部分的段位大動員令でありましたけども、それがもう集まりましたってことをまだ一言も言ってないですね。集まってなかったかもしれないですね。引き続きまた70万人。前線の兵士たちが大体15万人近くと言われています。当初17万人中8万人が動員されたわけですから、そう考えると、当初の兵士たちがもう全滅したという状況ですね。

---契約軍人ということですから、自ら契約をしてお金をもらって戦地行きますという形ですけども実は、これとは違った形で兵士を集めようとしています。4月11日、ロシア下院で法案が可決されたのがインターネットでの招集令状です。中村教授によりますと、政府のポータルサイトにマイページというものが開設されて、そこに招集令状が表示されます。そして「受領完了扱い」に勝手になって、令状表示から20日以内に地元の軍当局に赴かなければならない。

(中村逸郎氏)政府のポータルサイトは2009年に開設されたもので、行政手続き、例えば住所変わったとか、保健所が変わったとかのときに手続きはポータルポータルサイトでやるんですね。そこに今回、一方的に招集令状が表示されて、見ても見なくても、その時点で受領完了扱いになるんですね。

---そんなことあります?だってインターネット開けて自分のマイページ見てもいないのに、いや「あんたもう受領したことありますよ」ってことですよね?

(中村逸郎氏)今朝は5時3分ですけども、モスクワに住む私の友人からメールが来て「自分は見ないよ」って言っていました。

まるで「デジタル版赤紙」、無視すると車の運転禁止や不動産売買ができなくなる

---怖くて見られないですよね。招集は志願制ではなくて、一方的に選ばれるわけですよね。高校卒業翌日から対象になります。召集された人は出国禁止となります。招集を無視すると、自動車の運転ができなくなったり、不動産売買ができなくなったり、クレジットカードが使用できなくなったりということですから、だから中村教授のお友達も見ないって言っても、本当にこの招集令状きていたら、こういう罰則が与えられる可能性もあるということ。

(中村逸郎氏)それよりもっと怖いのは、街中歩いていたらおまわりさんが、近寄ってきて、そしてIDカード、身分証明書を出せって、その場でおまわりさんが調べると「あなたのところに招集令状が行っているよ」っていうことがわかるんですね。もう「知らない」で済むのかどうか、逃げ切れるかどうかってことで。こういったニュースが出てから、ロシア人の中で「もう街中も歩けない。森林に逃げよう」っていう話が国内で広まっているのですね。

---丸田さん、これがロシア国内の現状だということですね?

(丸田佳奈医師)、私、先日ロシアから日本に戻られた方と話をしたんですけど、大都市と地方で全然空気感違うんですよ。あれだけの金額出されても、確かに地方の方々は情報入ってこないので戦地でどういうことがあるかっていうの具体的には知らないし、お金がやっぱりないので家族のために行かざるを得ないんですけど。逆に大都市の方っていうのは他人ごとで「俺ら別に行かなくていいから」といって政権に働きかけをする気も、大して起きないらしいんですね自分たちは別にそれあの兵士として行かなきゃいけないっていう実感がないらしくて。そういった背景があってもう強行的にここに出たのかなっていう気もします。

(中村逸郎氏)刑事罰になるかどうかっていうところが今後の課題なんですね。そしてマイページ開設していない人がロシアの全人口の12%いるんです。こういう招集令状があってもそもそも知らないという人たちがいるわけなんですね。

---丸田さんによると、都市部と地方でずいぶん差はあるということですロシア苦しい状況になってきてるんですね?

(三澤肇解説委員)そうですね。これ体のいい昔の赤紙のデジタル版。人権も無視していますよね。志願制とこの法案が何か矛盾していますよね。志願制でやるんだったら志願制で行って34万円をお支払いして、それに同意してる人はまだいいですけど、これは選択の余地ないですもんね。

---そしてアメリカの機密情報流出事件。どんな情報が含まれていたんでしょうか?例えば3月1日付の文書には、ウクライナとロシアの軍の体制やNATOによる武器供与の見通しなどについて書かれていた2月28日付けの文書には、ウクライナの防空システムの主力兵器、S300の弾薬が5月3日までに底をつくといった情報が書かれている。S300でどういうものですか?

(三澤肇解説委員)S300は地対空ミサイルで、ロシア版のパトリオットミサイルみたいなやつで非常に性能が高く、択捉島なんかにも配備されていると言われています。

---これに関してアメリカ政府高官は深刻に受け止めている。こうした文書が公にされるべきではないと話しています。そしてウクライナの国防省は、真実と偽りの情報が混在しているというふうにコメントをしています。こういった情報の信憑性はどう捉えたらいいですか?

(中村逸郎氏)どこまで正しいのかっていうのはよくわからないんですが、いずれにしても、ロシアについてもウクライナについてもかなり信憑性の高い情報が盛り込まれているっていうことなんですね。先ほど入ってきたニュースで今、ウクライナ、ロシア、アメリカの当事国と言っていいんでしょうか。そういった国の情報管理っていう問題が今国際的な問題になってるんですね。信用・信頼度が失墜している中で、実は中国が得をしてるんじゃないかっていう情報も出てきています。中国はこういう情報を手に入れて、そして中間に出るんじゃないかとかいろいろ言われてる中で、結局こういう情報っていうのは中国へのプレゼントじゃないかっていう話も今出てきてるわけなんですね。

---実はこの機密情報の漏洩はほかの国のも。韓国はウクライナに兵器支援を行わない方針なんですが、バイデン大統領が直接尹大統領に電話をして、圧力をかけることを韓国側が危惧している。という韓国政府内のやり取りを、アメリカが傍受していたのではないかと。アメリカと韓国は同盟関係ですよね。韓国の政府内の話を、アメリカがキャッチしてたってことで。

(中村逸郎氏)何が同盟国で、どこと戦ってるのか、本当によくわからなくなってきている状況、こんな情報が出てくるわけなんですね。

アメリカの諜報活動は過去にも問題視、ドイツのメルケル元首相の携帯電話傍受のスクープ記事

---三澤さん、アメリカの諜報機関はものすごい情報収集能力だって言いますけど?

(三澤肇解説委員)過去にも問題になって、私がベルリンにいたときに、アメリカの国家安全保障局NSAって言うんですけども、それがドイツ国内の高官だとか、あるいはメルケル首相の携帯電話を傍受していたということを週刊誌がすっぱ抜きまして、大変な騒ぎになったんですね。それとウィキリークスでも出てきて、日本の高官も傍受されてたんじゃないかというような話も出てくるぐらいやっぱり恒常的にやってるんじゃないかという話なんです。同盟国にも情報網を持ってて、スパイの世界だけど当たり前だと言う人もいるんですけれども、それぐらいの情報収集をしてやっているという話です。

---韓国怒るでしょう?

(中村逸郎氏)そりゃそうですね。こうなってくるともうみんな疑心暗鬼になって。ある意味でこういう情報が広がることでもって、もう戦況が少し穏やかになっていくっていうことも考えられ、いい方に行けばですよ。

---そしてもう一つの国が、エジプトなんですけども、シシ大統領がロシアに密かに提供するために、ロケット弾を最大4万発生産するよう部下に命じたという情報。さらにシシ大統領は西側との問題を避けるために、ロケット弾の提供を秘密にしておくように指示したという、具体的な情報も出てきたということなんですけど。エジプトは比較的中立的な立場だと思ってたんですけど?

(中村逸郎氏)ロシアとはすごい繋がってたんです。エジプトという国は穀物、特に小麦なんですけども、ロシアから輸入してるんですね。全体の60%はこれまでロシアからあと20%がウクライナ介入してたんですよ。ところがウクライナから入ってこないものですから、エジプトとしてはロシアにもっとよこせもっとよこせっていうふうに言うわけですね。その代わりに自分たちの国のロケット弾を提供すると。エジプトのロケット弾は、元々ソ連時代にソ連が輸出してエジプトはそれをライセンスので生産してきたものをロシアに出せと。

---三澤さん4万発っていう数ですけども?

(三澤肇解説委員)相当な数ですよね。旧ソ連製の兵器はウクライナも持ってますし、非常に汎用性が高いので、それが欲しいというのは、よくわかるんですが、こういった情報を、21歳の州兵がペンタゴンのデータベースでもアクセスしたんでしょうかね。なかなかこんなの引き出さないっすよ、そりゃ何十にもセキュリティして普通はね。もちろん。

20230414_maruta.jpg(丸田佳奈医師)見方によれば韓国の話なんていうのは、逆にアメリカと韓国をは仲悪くさせようとして違う国が流している可能性もあると見えますよね。何を信じていいかかわからないですから。ただ情報漏えいに関しては、年齢がわかるから駄目ってことではないと思うんですけども、どれだけ使命感を持ってやっているかっていうことですよね。人によってすごい大金積まれれば買収されちゃう可能性だってあるわけですから、日本もやっぱりちょっとそこは見習って、情報機密情報持っているところに勤めている人たちのチェックというか、やっぱりね危ないですよね。

---いずれしてもこれロシア・ウクライナには大きな影響を与えそうですね?

(中村逸郎氏)やっぱり若い人が今回アクセスしたっていうことで、もしかしたらですよ。私の見立てですよ。もしかしたら第3国、中国が今回の漏洩に関わってたかもしれないということをちょっとお伝えしておきます。