プーチン大統領と軍事侵攻を熱烈に支持する軍事ブロガーが爆殺され、ロシア人の女(26)がロシア当局逮捕されました。女が持ち込んだ金色の像が爆発したというものですが、ロシア側はウクライナの関与を主張、ウクライナは否定しています。この事件の背景をどう読むのか。ロシア政治専門の筑波大学名誉教授・中村逸郎氏はロシアによる自作自演によるものとの説を紹介。ロシア国防省参謀本部内の諜報機関が反プーチン派活動家に情報を提供したのではとするロシア国内の説を伝えてくれました。(2023年4月7日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

◎中村逸郎氏(筑波大学名誉教授、専門は現代ロシア政治、ロシアへの無期限入国禁止)

爆殺されたタタルスキー氏は典型的なロシア人、父はドンバス地方の炭鉱労働者

---第2の都市サンクトペテルブルクのカフェで起きた軍事ブロガー爆殺事件です。殺されたのはこのタタルスキーという人物です。爆発したカフェで金色の像が爆発したのではないかということで、金の像を持ち込んだのがトレポア容疑者です。いろいろ不思議だなと思うことが多いんですけども、事件の裏にはウクライナ侵攻が関係しているんでしょうか?中村氏に独自解説をしていただきます。まずタタルスキーという人物はどういう人なんですか?

(中村逸郎氏)一言で言えば、典型的なソ連人と言えるんですね。生まれ育ったのはウクライナのドンバス地方なんですよ。お父さんがドンバス地方の世界最大級の炭鉱があって、そこの炭鉱労働者。小さいときからロシア語にずっと喋ってきたんですけども、あの、ウクライナが欧米路線を走るようになってから、学校の授業がウクライナ語に変わったんですよ。それで彼はすごく反発したウクライナ政府に対して非常に反感を持って育ってきた。そういう人なんですね。

---ですからウクライナ侵攻を支持しているのですね?

(中村逸郎氏)そうです。大変な有名人で有名人ですね。今の軍事侵攻について戦地に入っていって、こんなにロシア軍が頑張ってるんだっていう戦地レポートずっと流してきた人なんです。
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---そのタタルスキー氏が殺された。現在伝えられている節二つあります。一つはロシアによる自作自演説。こういうことが考えられるんですか。

(中村逸郎氏)プーチン政権になってこれが度々起こっているのですよ。一番最初は2000年の頭ですけども、プーチン政権が発足したときに、南の方にイスラム教徒たちが住んでいて、特にチェチェンがロシアからの独立運動を起こすんですね。それでプーチン政権は何とかこれ潰そうと思ったんですけどなかなかうまくいかない。そこで自作自演ということで、モスクワの市内でテロの爆破事件がいっぱい起こったんですよ。これは知人人がやったんだということを言ったんですけども、実はプーチン政権自作自演でチェチェン人を悪者にしてやろうと。そこで国内世論を引き締めようということでプーチン政権になってこの自作自演ということが繰り返し行われてきてるっていうことなんですね。

---この1年ほど、ウクライナ侵攻についても我々伝えていますけども、度々偽旗作戦というようなことも皆さんありましたものね。

(三澤肇解説委員)自作自演の線もあるでしょうし、わざとやらせるというか、セットアップするというか、このテレポア容疑者にわざとやらせた可能性もあるんじゃないかなと疑ってしまうぐらいですよね。過去にジョージアとの戦争のときもわざと攻め込ませるっていうのをやったりもしましたんでね。口実作りなんですよ。だからそういうことももしかしたらあるのかなというふうに思っちゃいますよね。

ウクライナ侵攻反対派のテロ説、 ロシア国防省情報総局関与説

---もう一つは、ウクライナ侵攻反対派によるテロではないかと言われています。中村氏はこの二つの説ですけども、どちらの方が事実だというふうにお考えですか?

(中村逸郎氏)事実に限りなく近いのはロシアによる自作自演ではないかと。こういう話は、実はロシア国内でも今出てきてるんですね。

---ロシアの自作自演ではないかという話もあるんですが、もしかしたらこれ、事件にはロシアの国防省も関係してるんじゃないかというふうに見ています?

(中村逸郎氏)具体的に言いますと、ロシア国防省の中の参謀本部の中に、情報総局って諜報機関があるんですね。そこが動いたんではないかということが言われてるんですね。

---もしロシアの国防省が関係しているとなると、もしかしたらプーチン大統領わかってたんじゃないのみたいなことあるんですけど?

(中村逸郎氏)一応これだけの大きな事件ですから、知らないはずがないんですね。

---そのちょっと関係を見ていきたいと思うんですけども。

(中村逸郎氏)説明します。今回ブローカーのタタルスキーさんがカフェで爆破で亡くなったということで、このカフェというのは実はこの番組でもよくやってます民間軍事会社ワグネルのオーナーのプリゴジンさんの所有するカフェで起こったのですね。すごいことです。そしてこのタタルスキーさんと今のプリゴジンさんは同じ仲間で、ウクライナに対して容赦ない攻撃病院とか学校にどんどん攻撃をするということですけども、実はプリゴジンさんっていうのは戦地でいろいろ戦っているのですけども、国防省に対して非常に反感不満を持ってんですね。もっともっと武器兵器をよこしてくれと、ということでロシア国防省に対して不満を何度も何度もぶち投げかけて、対立してるんですね。ロシア国防省からすれば、プリゴジンさんの方が目立ち過ぎ、そしてロシア国防省の方が半ばもう今ほとんど崩壊状態になっているということで、この人のことが、要するにもう目障りで仕方ないんですね。

---このプリゴジンさんがずいぶん暴走といいますか行動するので、あのプーチン大統領もちょっと距離を置いているんじゃないかみたいな話ですね?

(中村逸郎氏)ですから今、ウクライナと戦ってますけども、このロシア軍正規軍と、プリゴジンさんの部隊は全く別なんですね指揮命令系統が。そこで対立が。そしてプリゴジンさんの方が力をつけてきているっていうことで、何とか2人のこの関係にくぎを刺したいということで、国防省のが情報提供を、反プーチン組織に対して情報提供をしたか、または裏でトレポアさんを動かして、操って今回の爆殺事件を起こしたんじゃないかというふうに言われてるんですね。

---ロシアの国防省がタタルスキー氏を殺害した意図というのはどういうことなんです。タタルスキーさん、プリゴジンさん、この二人が結託してるわけですけども、このタタルスキーさんを標的にすることによって、実は2人の関係ってのは完璧じゃない強くないっていうとこを見せつけてやろうと。

中村逸郎氏の見解「爆殺はプーチン氏の警告?次はプリゴジンさん、気をつけないよ」

---ロシアの国防省がもし情報提供していたのなら、プーチン大統領は、わかっていた。指示した。そのあたりはどうなんでしょう?

(中村逸郎氏)私は知っていたと思う。なぜかっていうと何と言ってもこのサンクトペテルブルクっていうのは、プーチン大統領の出身地で、彼はこの地元愛が非常に強いんですね。今、戦時下にありますから、このサンクトペテルブルクで非常に厳しい警備が敷かれてて、そうした中で非常に爆破力の強いもので、殺害されたっていうことで、おそらくプーチン政権も関与していたんではないかということが疑われているわけなんですね。ですからね、今回のことって、この事件というのは、プリゴジンさん自身に対する警告だと、っていうことがロシアのメディアにも出てるんですね。
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---ちょっと行き過ぎたことがあったら、次プリゴジンさん気をつけなさいよと、あなた狙われているかもよというメッセージにもなっていると?あと「国民共和国軍」っていうのは、何なんでしょう。

(中村逸郎氏)この軍隊ということでもないんですけれども、実は元々中心的なメンバーが10人ほどいて、街頭活動する一つ、500人から1000人ぐらいいるということなんですけども、今回去年の8月ですよね。プーチンの頭脳と呼ばれるドゥーギンさんの娘さんが車に乗ったところで爆破されてしまったと。そのときに初めて、この実は国民共和国軍というのが声明を出した。犯行声明を出した。そこで知られるようになったんですね。

---中心メンバー10人、そして街頭活動する人、火炎瓶を持つなどということでかなり過激な行動なんですけども、500人から1000人情報戦に関与は1万人以上ということで、かなりの規模なんですけども、指導者とされる人物のインタビューでは、この組織の目的についてエリートの間に混乱の種をまきプーチン政権を内部から解体するということで、大きな規模ではありますよね。1万人ですから。

(中村逸郎氏)ロシア国内だけじゃなくてウクライナの中にいたり。外国にいて指示を出したりしてると。元々作ったのは、ポノマリョフさんっていう人だと言われてるんですね。この人は日本で言うと衆議院議員、連邦議会の下院の議員だったんですね。ちょうど2014年にクリミアがロシアに併合されたとき、彼1人が議会で反対したんですよ。それで身の安全に不安を感じた彼がアメリカに出たんですね。そのときからこういった国民共和国軍の創設に動いたという情報が出ているんですね。

---反プーチン政権を掲げるロシア野党の元下院議員ですけども、現在はウクライナに住んでるんだそうですけども、このポノマリョフさんはNRA・国民共和国軍ですけども、これは組織ではなくネットワークなんだというふうに語っています。
さてプーチン大統領4月は最大の山場を迎えるのではないかということです。三つの理由を挙げてもらっていますけども一つ目は爆殺事件の影響というのがあるんじゃないか。反政権の活動がさらに活発化するのではないかということです。二つ目はフィンランドのNATO加盟ですね、飛び地カリーニングラードを巡り緊張。これどう見たらいいんでしょうか?

(中村逸郎氏)先ほど入ってきたニュースなんですけども、ベラルーシとリトアニアって国境を接しているんですね。リトアニアから国境線、ベラルーシに9キロのところにベラルーシの軍隊が派遣されて、戦車が送り込まれている。ベラルーシ軍がリトアニアに国境線に配置されたということで実は、今このフィンランドのNATO加盟と同時に、このバルト海の南側に位置しているバルト3国とベラルーシの緊張が一気に高まっているのですね。

---フィンランドはNATOの加盟が認められました。このあたりに緊張感高まっている。そして三澤さん、ここにはロシアの飛び地(カリーニングラード)がありますね?

(三澤肇解説委員)バルト3国は、NATOにも加盟していますし、EU加盟もしてるんすよ。軍事・政治あとユーロ使っていますから経済も繋がっているんで、ウクライナとちょっと事情が違う。ここが緊張したら大変なことになります。

(中村逸郎氏)ですから今、もしかしてここで何か一触即発ような事態が起これば、本当に第3次世界大戦になりかねない。なぜかというと、バルト三国とポーランドっていうのは反ロシア感情が非常に強いとこなんですね。そこにややこしいことに、このカリーニングラードという飛び地が挟まれたか形であるということなんですね。

---そして三つ目、最大の山場ということなんですが、国連安保理4月の議長国はロシアなんですね。

(中村逸郎氏)どういう議題を提出するのかっていうのを全部ロシアが決める。で、ロシアっていうのはまさにこのトップが戦争犯罪者になっているわけですよね。その国が安保理の議長国になるという信じられないような事態が起こっているわけですね。ですから、ロシアはこの議長国という地位を利用して、何か攻め込んで、国連を動かそうという思惑があるんじゃないかということなんですね。

(三澤肇解説員)4月の安保理。これ1ヶ月ごとに議事録を代わるんで、1月は日本だったんですよ。日本・マルタ・モザンビークで、アルファベット順なので。ロシア。4月になっていて、一応アジェンダ議題決めるのには、理事国の9票以上の票が必要ではあるんですけど今ロシアが議長国になっているという。

---ですからプーチン大統領、4月がもう最大の山場になりそうだねということですね。これからも注目していきたいと思います。