北朝鮮が公開した戦術核弾頭「火山31」のそばで自慢げにたたずむ金正恩氏。ずらりと並ぶ弾頭は小さく、核の小型化に成功したことを誇示しているかのよう。日本への核の脅威が現実化しているというのは軍事ジャーナリスト黒井文太郎氏。ほかにも津波を起こす核無人攻撃艇など次々と核の存在をアピールする北朝鮮。黒井氏は「もはや止められない。日米や西側の関係を強化して、北朝鮮・中国・ロシアとは事実上対決せざるを得ない」と話します。(2023年3月30日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)
▼黒井文太郎氏(軍事ジャーナリスト 紛争地の取材多数 著書「北朝鮮に備える軍事学」など)
小型化された戦術核弾頭、ターゲットは隣国・韓国か?
---公開されたのは、北朝鮮の戦術核弾頭「火山31」と呼ばれるものです。韓国の聯合ニュースは「電撃公開」としています。緑色の物体(写真)が核弾頭ではないかと。金正恩氏も一緒に写っています。もう1枚の写真には核弾頭とみられるものがずらっと並べられています。黒井さんもこのニュースには特に注目をされていて、「大変小さくて驚いた」と話しています。韓国メディアによりますと、直径が約50センチ、全長が約90センチです。黒井さん、ここのところ北朝鮮のミサイルの発射もありましたし、あとはロシアがベラルーシに核配備の計画というニュースもありましたが、何よりこのニュースに非常に驚かれたということなんですよね?
(黒井文太郎氏)驚いたというか、北朝鮮は去年から戦術核を配備したということを誇張していまして、小型の弾道ミサイルとかですね、巡航ミサイルも戦術核だと言い張ってたんで、どれぐらい本当かなというのは半信半疑だったんですが、こういった弾頭の大きさができたということを言いたいということですね。
---この直径50センチ、全長90センチというサイズはどう見たらいいのですか?
(黒井文太郎氏)これは弾頭の大きさで、中に入っている起爆装置は丸い、球体をしてるんですけれども、おそらく直径が40センチとかですね、そういったサイズになっていると思います。これ非常に小型だと思います。おそらく数百キロまで軽くなっていると思います。
---小さくするのが非常に難しいということですね?
(黒井文太郎氏)そうですね。球体にして周りから同時に何十か所も同じ圧力で爆発を起こして中の核物質をギュッと縮める、圧力をかけるとか必要になってくるんですけれども、これを小さくしていくのは難しいです。
---小さくするメリットは何なんでしょうか?
(黒井文太郎氏)それはもういろんな種類のミサイルにのせられるということですね。北朝鮮が作っているアメリカ向けとか、日本向けのものは大きいんですが、韓国や在韓米軍を攻撃できるミサイルの本体が小さいですから、それにのせられるということになる。北朝鮮は今年の正月に「自分たちはもう核戦力をどんどん増やす」ということを宣言していますので、そうなると韓国・在韓米軍に対する戦略というのはもういっきに強化されることになります。
---改めて、戦術核弾頭というものがどういうものなのか。戦術核は、敵国まで飛ばす戦略核と異なり、局地攻撃を想定しているものです。そして、核弾頭というのはミサイルなどに積み、核兵器として使用する。写真では、金正恩氏の後ろにパネルがありまして、イラストが描かれていますが、こういったものがそれに当たるのでは、というです。この写真1枚からわかることはどんなことがあるのでしょうか?
(黒井文太郎氏)これはもうこの写真を出してきた時点でもわかりますが、このサイズであれば北朝鮮は実際に持っている、もしくは開発しているミサイルに全部積みますよ、ということですね。意図的にこういう写真を撮って世界に公開しているわけです。自分たちにもこれできるんだぞと、証明したいということですね。
---この写真の信憑性みたいなところですけども、黒井さんは「あながちハッタリではないかもしれない」と見ていて、設計的に完成している可能性があるということですね?
(黒井文太郎氏)北朝鮮はこういった核ミサイル問題であんまり「ハッタリ」とかやらないんですね。しっかり言ったことをやってきているという実績がある。おそらくまだ実証して爆発実験やってないですから、実証されてないんですが、かなり自信はあるんじゃないかな。ただこれ誰もわからないんですよ。もうアメリカや韓国の情報機関でさえわからないんですが、もうできているという前提でやっぱり我々は考えるべきじゃないかなと思いますね。期待を込めて「これはハッタリだろう」というような見立てというのは非常に危険だと思います。
---戦術核なら、韓国や在韓米軍が強い核の脅威のもとに置かれることになるということで、危機感は高まるということはもう明白ですよね?
(黒井文太郎氏)たくさんそういったものを作って、北朝鮮は既に韓国全土を攻撃できるいろんな種類のミサイルをたくさん作ってるんですね。そういったものに核が積まれたということであれば、やはりアメリカといえども、北朝鮮を攻撃するのは非常に躊躇せざるを得ないという状況になってきます。
---技術の進歩、開発はどれぐらい進んでるのかそういったところに関してはどういうふうに見てらっしゃいますか?
(黒井文太郎氏)前回の核実験が5年半前で、それからやってないんですね。その間に開発をやってないことはありえないので、特に小型化の研究開発は相当進んでいるはずです。これまでのロシア・アメリカ・中国あたりの、昔の核兵器を作り始めの頃のスケジュール日程を見ても、時期的にはもう北朝鮮は相当進んでいると見ていいと思うんですね。
---やっぱり気になるのが核実験ですよね。以前から核実験をやるだろう、近々やるだろうなんて情報も伝わってきていましたが、それが今のところ行われたという情報伝わってきていません。そのあたりに関してはどう思われますか?
(黒井文太郎氏)北朝鮮は去年の2月にウクライナでロシアが侵攻した翌週ぐらいに核実験場の一度埋めた穴の取り出し作業を加速しているんですね。おそらく5月の終わりぐらいには完成しただろうと言われていて、それ以降いつでも核実験できる状況なんですね。ただ、今までやっていない理由というのがはっきりわからないです。おそらく長距離のICBM級のミサイルの開発をどんどん進めていく。最終的には日本を飛び越えて太平洋の深くまで飛ばしてみたいということまでやると思うのですね。それをやるとアメリカが当然反発しますので、アメリカが反発してくるんだったら仕方がないので核実験しましたという、おそらくそういう順番で日程を考えていると思います。
---先に太平洋までミサイルを飛ばして抗議されたら反発して核実験をするのではないかと?
(黒井文太郎氏)それを口実にしてですね。アメリカが自分たちの正当な抑止力に対して不当な圧力をかけてくるんで、やらざるを得ないという理屈。
---非常に恐ろしいなと思う兵器の話も伝わってきました。韓国の聯合ニュースによりますと、パネルに描かれたこの武器は、核無人水中攻撃艇「ヘイル」か、ということです。ヘイルは「津波」という意味なんだそうですが、朝鮮中央テレビによりますと、水中爆発で超強力な放射能の津波を起こし、敵艦隊や港を破壊すると。実はその少し前にロシアもこうした兵器を公開していまして、ロシアの核魚雷ポセイドンと呼ばれているんですけども、高さ500mの津波を起こすとも言われています。放射能をおびた津波で、考えただけでも恐ろしいこういったものを作っている。高さ500mの津波で言いますと、あべのハルカスの高さ300mをはるかに超えます。実際にこんな大きな津波を起こすことができるのでしょうか。黒井さんはどう考えていらっしゃいますか?
北朝鮮の核無人水中攻撃艇の時速は約15キロ、韓国まで2日かかる
(黒井文太郎氏)ロシアのポセイドンは、ロシアの情報ですと大体2メガトンぐらいの核爆弾を積むんですね。そうすると爆発力が強いですから、大きな水しぶきというか水の塊ができるのは事実ですが、地震のような津波の、海溝型地震のような巨大なエネルギーまでいかないので、津波そのものとはまた違うエネルギー的には少ないと思います。どちらかというとですね、これやはり空中でミサイルで爆発した方が放射線にしろ、破壊力にしろ大きいですから、あんまりそれほど軍事的な実用性としてはどうかなってちょっと疑問に思っています。北朝鮮のほうはスピードが時速15キロぐらいなんですね。ですから北朝鮮からもし発進させたとしてもですね韓国の港に着くのにもう2日とかかかるわけですね。ですからちょっとあんまり本気ではないなって気はします。ただ、北朝鮮は鉄道式のミサイルとか、貯水池から(発射)とか、とにかくいろんなタイプのものを作っておきたいというような意図がありますので、これはその1つかなというふうに思います。
---軍事ジャーナリストの立場で、黒井さんは日本の対応をどう考えますか?
(黒井文太郎氏)もちろん抗議はすべきなんですけれども、これを止めるというのはもう現実的にはちょっと難しいと思うんですね。ですから北朝鮮、特にウクライナ問題でロシアですね、それからからバックにいる中国、こういった国々とはですね、もう事実上対決せざるを得ないのかなっていう感じはしますよね。そうやって日米、それからオーストラリアとかの友好国と軍事的な協力を進めていくということしか…。西側というよりは向こうサイドがこういうふうに出てきてますんで、しょうがないのかなと思います。