ロシアのプーチン大統領は、同盟国ベラルーシに戦術核の設備を配置すると明言。さらに3月28日には日本海で巡航ミサイル「モスキート」の発射するなど威嚇や挑発をエスカレートさせています。背景に、イギリスが提供した戦車に劣化ウラン弾が使われることへの反発があるとされていますが、ロシア専門家の大和大学・佐々木正明教授はロシアは西側との間に新たな「鉄のカーテン」を作ろうとしているでは、と指摘します。それはバルト三国、ポーランドとベラルーシの間を隔てるもので、ウクライナの戦後を想定しているのではとも。
ーーロシアが3月28日に、日本海で対艦巡航ミサイル「モスキート」を日本海上で2発発射し、約100km離れた目標に命中したことを発表しました。岸田総理のウクライナ訪問への反発とみていますか?
「どうしても巡航ミサイルというと北朝鮮のミサイルだったり、戦争中の国からのミサイル発射ですので、少し私も焦ってしまったんですが、冷静に事態を判断すべきだと思います。まずこの「モスキート」というのは、ロシア語で「蚊」って意味です。そしてソ連製のミサイルで、私も日本海でこのミサイル発射ということは記憶にないんですけども、やはり岸田総理への反発、アメリカが日本と防衛面で連携しようとしていることへの対応だと思います。そして少しステージが上がったなという印象もあります。今後、日本がウクライナ支援を継続すると思いますが、今後、強硬な態度に出てくる可能性があります。そのうちの一つが、エネルギーと漁業のマイナス影響にあるのではないかと」
ーーエネルギーや漁業にもマイナスの影響、具体的にはどういったことが考えられますか?
「日本はまだロシアからエネルギーを輸入しております。そのサハリン1、サハリン2にマイナスの影響が出てくるのではないか。これをカードとして使って、岸田総理が今回G7の議長国でもありますので、日本の対応いかんによっては、サハリン1、サハリン2に対しても何らかの決断をしていく。そして漁業交渉についてもマイナス面が出てくる。そうなりますと、日本社会の動揺を狙って経済的なマイナス面を狙ってくる。ロシアが今後、様々な対応してくると感じています。日本もこのミサイル発射というのは何かのシグナルになって、そうした対応をしかねないと感じだと思います」
ーーロシアは7月1日にベラルーシで戦術核兵器を保管する施設の建設が完了する予定だと明らかにしました。配備の理由として挙げているのが、イギリスの劣化ウラン弾の供与です。イギリスがウクライナに供与する「チャレンジャー2」の弾薬に劣化ウラン弾が含まれているということなんです。このロシア側の言い分を専門家はどう見るのか、軍事ジャーナリストの黒井さんは、劣化ウラン弾は多くの国が所有している一般的なものであると、そして健康被害はこれまでに報告がないと話しています。一方で危険ではないかという指摘も専門家の中にはありますよね?
「この劣化ウラン弾を理由にしているというのを注目すべきだと思います。このタイミングをロシア側はずっと狙っていまして、1年1か月経って、イギリスの劣化ウラン、特にチャレンジャー2(戦車)が供与されるということに鑑みてベラルーシへの戦術核兵器を配備するということを発表しました。そして、発表することによってロシア国民は、やはり西側がロシアに対して強硬な手段を取ろうとしていることをアピールしようとした国内向きなPRだった可能性もあります」
既に始まっている「核エスカレーション戦術」その先に「21世紀の鉄のカーテン」
ーーロシアの核配備作戦「核エスカレーション戦術」というのは既に去年から始まっているとされていますが、バルト三国、そしてフィンランド、ポーランドなどを睨む21世紀の鉄のカーテンを作りたいのではないかという見立てです。改めてこの鉄のカーテンというのはどういうことなのでしょうか?
「イギリスのチャーチル首相が投げかけた言葉ですが、第2次世界大戦の後に西側と東側を裂く、東ドイツのところにあったライン。西側と東側を分ける言葉として歴史の教科書にも出てきます。戦術核を配備するということは、ウクライナの戦争が終わった後もベラルーシに核が配備される可能性がある。実は冷戦が90年代に終わった後で、その核というものをロシアに引き取られていった過去があります。その逆行する動きが始まったとなりますと、ベラルーシという国が新たなバルト3国、そしてポーランド、そこのラインに鉄のカーテンを作って、ここで対峙していくというメッセージがあるのではないかと考えております」
ーーロシアは既に自国内に西側を狙える核兵器を配備しているので、ベラルーシに置く軍事的なメリットは乏しく、あくまで抑止力だったり、脅しの面が強いのではないか、そしてロシア国内へのアピールの意味合いもあるのでは話しています。国民へのアピールというのはどういうことなんですか?
「まず戦術的にベラルーシに置く意味はあまりないと私は考えています。ロシアの国境沿い、ベラルーシとロシアの国境沿いに欧州を狙う戦術核ミサイルが配備されています。つまり少し西側に行ったとしても、その戦術的なメリットは乏しい。では、どういう狙いがあるのか。まずベラルーシを巻き込んでロシアは今、ウクライナ戦争に勝とうとしていますので、その戦争継続のためにこうした敵視策、敵視作戦をしなければならないということです。核はもちろん使わない兵器でありますので抑止力に使いたいという趣旨でプーチン大統領が発表になったんではないかと感じています」
ーーベラルーシの動きをウクライナの国民はどういうふうに見ているのでしょうか?実はベラルーシの国境とおよそ90キロのキーウで取材していた佐々木氏はどういうふうに感じていらっしゃいますか?
「キーウの状況をつぶさに見てまいりまして、このベラルーシの動きをウクライナ国民はかなり警戒しておりますね。何度か現場に入ってみたんですけど、射撃訓練をしていまして『なぜ射撃訓練するんですか』と聞くと、『キーウが再び戦地にまみれるかもしれない』。女性に聞いたのですけども、『男性も女性も関係がない。私は祖国を守りたい』。つまりベラルーシなど北方から攻めてくる可能性があるという警戒感を持っている。そしてボランティアの止血訓練みたいなところに行ってきましたが、自分が砲弾された時にどのようにしたらいいのかという訓練もしております。国民はルカシェンコ大統領の動きをかなり警戒している。それがキーウの方々の肌感覚だなというのを感じました。このキーウとベラルーシの間はどうやら地雷が埋まっているそうですね。地雷があって、ベラルーシから攻められないような準備体制を組んでいるとはいえ、ベラルーシが今後どのような対応をしてくるのか、予測不可能になりつつあるかもしれない。四面楚歌になりますとルカシェンコ大統領は国をおさえていますからどのような行動になるのかというところがポイントになると思います」