米韓の軍事演習に反発して日本海でミサイル挑発を続ける北朝鮮。このほど水中で核爆発させて津波を起こす秘密兵器の実験をしたと北朝鮮が初めて明らかにしました。「核無人水中攻撃艇（ヘイル）」と呼ばれるもの。核兵器を搭載した魚雷を港付近で爆発させて約５０メートルの津波を起こして港に停泊した米空母を直撃するというものです。ロシアや中国が北朝鮮サイドにつき、国連も機能不全を起こす中で、龍谷大学教授・李相哲氏は「金正恩氏の怒りを制止するものがない」と話し、北朝鮮のますますエスカレートが懸念されます。
（2023年3月27日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より）
---「3月から4月は北朝鮮の激しい反発が予想される」…2週間前の李相哲先生の言葉通りのことが起きています。北朝鮮は27日朝、また弾道ミサイル2発を発射しました。米韓合同演習のタイミングに合わせて12日に戦略巡航ミサイル、14日に短距離弾道ミサイル、16日にICBM、19日に短距離弾道ミサイルと、いろいろなミサイルを発射しています。やはり米韓軍事演習に反発する形でミサイルを発射しているということですね？
(李相哲氏)その通りです。最近、米韓がやった軍事演習は北朝鮮本土上陸訓練なんですね。だから特に怒ってる。今、金正恩総書記が怒っているという姿勢を見せる必要があるということと、一方ではですね、私達にちょっかいを出すなと、侮るなというような、力を誇示しているというふうに見ればいいと思います。
---日本はもちろん抗議はしていますが、抗議の声が届いているわけではないのですね？
(李相哲氏)全く聞く耳を持たないですね。国連でも今どうしようもない状況が続いています。中国とロシアが北朝鮮の肩を持っている状況ですからね。だからもう金正恩氏を制止する手段は今のところはないという状況ですね。
---我々国民もなんだかこうした速報が入っても以前よりも危機感を持っていない、段々慣れてはいけないのだけども。日本としてはもちろん迎撃態勢をとっているということですよね？
(李相哲氏)そうですね。アメリカと日本は30くらいの防衛体制は取っているんですけれども、それが本当に100%なのかということはやっぱり難しいですね。今、北朝鮮は様々な攻撃手段を持って、新しいものをどんどんどんどん見せている状況ですね。
---そしてもう１つこれも気になる話なんですが、こんなものを使っているという報道があります。秘密兵器「核無人水中攻撃艇」というものです。「ヘイル」という名前で、朝鮮語で「津波」を意味する言葉です。朝鮮中央テレビによりますと、水中爆発で超強力な放射能の津波を起こし、敵艦隊や港を破壊する能力があるということです。さらに北朝鮮によりますと、3月21日から23日、日本海で59時間余り潜航した後、港を想定した目的地点で実験用弾頭を水中爆発させたと。既に2年間で50回以上の実験をしているという報道もありました。去年7月のアメリカCNNの報道によりますと、ロシアも放射性の津波を起こす目的の核魚雷「ポセイドン」を開発中ということ。放射能の津波を起こす、敵艦隊や港を破壊すると、聞いただけでも本当に恐ろしい兵器なんですが、こういった話は以前からあったのでしょうか？
(李相哲氏)初耳というか、北朝鮮が初めて明らかにしているんですね。魚雷に核兵器を搭載したもので、しかも、強力な核兵器を搭載して潜航して港で爆発させれば、大きな津波が起きて焦土化すると。例えば今、アメリカが戦略武器をたくさん釜山港に持ち込んでいますが、そこまで行って核兵器を搭載した魚雷を爆発させたらですね、釜山港全体が焦土化するというとても怖い武器です。
---今までこうした話が明らかになっていなかったのに、どうして今ここで発表したのでしょうか？
(李相哲氏)正確には言わなかったけれども、「水中型核兵器」という言葉は北朝鮮を過去に使ったことがあります。今回は明らかにヘイルという言葉まで、その名前まで付けてですね、自分たちはそれを成功させたって言っていますが、本当に成功しているのかということは今のところはっきりしません。ただ「ポセイドン」というのがね、500mの高さで津波が起きるんです。北朝鮮の核魚雷はポセイドンレベルではないけれども、少なくとも50mぐらいの津波を起こすと。そうすると釜山港に入ったという空母も何の役にも立たなくなる。今回、北朝鮮が発射したというのは長さが20センチぐらいしかないんですよね。直径が40センチぐらい。海の中で針を拾うような感じですから。これは無人艇で、バッテリーですので、途中で海の上に浮かぶ可能性もあるんですね。それでも音も余りしないし、なかなかそれを防ぐのは難しいというふうに言われてます。
---では北朝鮮国内の動きは、金正恩氏の娘ジュエ氏とみられる人について、ジュエ氏が着ていたコートが有名ブランドDiorで39万円くらいするものなんじゃないかということを韓国メディアが報じています。国民は食糧不足でかなり苦しんでいるという報道もある中なんですが、韓国政府系シンクタンクの分析によりますと、キム・ジュエ氏を羨望の対象に据える狙いがあるのではということなんですね。ここ数か月、急にジュエ氏がメディアでも非常に多く登場するようになって目立っているんですが、なぜ今このタイミングでこのジュエ氏娘を前面に押し出すようなことをしてるんでしょうか？
最近、妹の金与正氏の姿を見かけないのはなぜ？
(李相哲氏)考えられるのは、やっぱり「金与正」に対する牽制だと思います。金与正に対する幻想を持ってる幹部たちがたくさんいる中で、「キム・ジュエ氏」を出したというのは、私達の世代では金正恩氏が首領になりましたが、次の世代では、金与正はあり得ないというふうな牽制だと思います。今の北朝鮮内部から漏れてる話では、金与正と金正恩氏の妻の仲が悪いと、喧嘩して権力闘争をしているというふうに言われてますけれど、そのレベルじゃないけれども、やっぱり今、金与正を牽制する必要があったというふうに思われます。
---一方ですが、最近あまり姿を見かけない金正恩氏の妹、与正氏ですが、２月の軍事パレードでの写真では、あまりアップにされることもなくその姿は小さかったという報道もありました。与正氏は、以前はわりと本当にいろんな催しでセンターにいて、非常に発言も強くしていたイメージありましたが、今ちょっと何だか立場が違うみたいですね？
(李相哲氏)明らかに写真とか見ると金与正を粗末に扱ってるんですね。昔は金正恩氏とツーショットで出たりしたんですが、最近はほとんど見かけないですね。
---改めて関係性を見ておきます。金正日氏の三男が正恩氏で、正恩氏の妹が与正氏です。正恩氏の妻が李雪主という人ですが、このあたりの関係はどうなっているのですか？
(李相哲氏)金正恩氏には実は兄がいるんです。「金正哲」（キム・ジョンチョル）という兄がいます。金正男は腹違いのお母さんから生まれた子どもで、殺されましたよね。その金正哲は、金正恩氏の実の兄ですね。しかし、金正恩氏が後継者になった後は、彼はもう息を潜めてる。動静があんまり伝わっていないんですよね。金正恩氏が後継者になった以上は金正哲氏はやっぱり“枝”というか、余計な存在ですので、北朝鮮式で言うと「幹」を太くするためには枝を切り落とさなければならない。金正哲氏が少しでも出しゃばったことをするともう容赦なく粛清されるんですよね。
---以前、長男の正男氏が死亡した、殺害されたというニュースがありました。そのときにこの金正哲氏の存在も報道されて、スイスに留学をしているとか、非常に国際感覚も持っている人物だというふうに確か報じられていたと思いますが、今は正哲氏はどうしているのですか？
(李相哲氏)あまり報道、情報はないんですけれども、彼は音楽に夢中なんですね。エレキギターとか、かなりうまいというふうに言われていまして、しかも政治にほとんど関心がないと。ですから金正恩氏にとっては脅威ではない。しかもスイス留学時代は、与正氏と正哲氏と正恩氏の3人が一緒になった時期もあるんですよね。兄弟の仲はそんなに悪いような気もしないんですけどね。
---正哲氏が前に出てくるようなことは今後も考えにくいということですか？
(李相哲氏)これは絶対ありえないことですね。北朝鮮式で言うと「太陽は1つ」。もう1つ太陽が昇ってしまったらもう北朝鮮がダメになるということなんですね。ですから絶対その金正哲氏の存在は、やっぱり北朝鮮は明らかにしたくない。一般の住民は金正哲氏の存在すら知らない。金正恩氏には長男が、長女ジュエ氏の上に男の子がいるんですね。2010年生まれで今年13歳。ほとんど情報はないんですが、2017年とかはですね、彼のために馬を買ったという報道もあったりとかロシアから報道されたことがあるんですよね。しかし最近、韓国国情院が国会に報告したところによると、確かに男の子はいるんだけれども、ちょっと体が弱いと。精神的に弱いのか、体全体が弱いのかとにかく病んでいるというか、そういうふうな情報もあるんですね。実態はわからない。しかし、キム・ジュエが後継者だということは私は違うというふうに思っています。次の世代が後継者になるとすれば、ジュエ氏のきょうだいであるというメッセージであって、ジュエ氏は後継者ですよっていうことではない。
---そんな北朝鮮に対して日韓関係はどうなっていくのか。3月に尹大統領が訪日して以降急速に改善しつつあります。具体的に見ていくと、日本から韓国に対しては厳格化していた半導体関連の材料3品目の輸出管理の緩和。G7広島サミットの拡大会合に尹大統領を招待しました。また韓国から日本に対して日韓の軍事機密共有協定「GSOMIA」、これを破棄しますよと通告していたのを撤回。さらに日本の輸出管理厳格化を受けて進めていたWTOでの紛争解決手続きも取り下げました。尹政権に代わってから日韓の距離感というのがずいぶん変わってきて、前に進んでいるなという印象を受けますね？
(李相哲氏)韓国は今、北朝鮮の脅威もありますし、中国との関係もあってアメリカとの関係を緊密にしたいんですね。しかしアメリカと仲良くなるには、まず日本との関係を回復しなければアメリカとはやっぱりその緊密な協調ができない。経済面でも安保上もそうなんですね。昔から尹大統領は日韓関係の改善は韓国企業にもプラスになるというような哲学を持っているので、この路線で押していくんじゃないでしょうかね。
---韓国国内ではいろんな声もあるということですけど、豊田さんはこの日韓関係をどう見ていますか？
（豊田真由子氏）韓国の外交官をやっていたり裁判官をやっていたりする友人と話をしました。やっぱり「今回の日韓改善にかける意気込みは本気だ」と。私も思います。というのは、まだ尹政権の外交ブレーンの方っていうのは、日韓関係は良好であるのは当然の前提だということをずっと唱えてる人たちなんですね。例えば新しい駐日大使もそうだし、新しい外務大臣もそういうスタンスをずっととっている。いわゆる知日派の人たちだと。尹大統領もそうだということで、まさに21日の閣議で「短期的に自分の利益を考えるんだったら、反日感情を煽って支持率を上げて成績を取るっていう楽な道もあると。自分はそれを選ばないと。なぜならば、こういう厳しい昨今の国際情勢を前にして、それをすることは大統領としての責務を放棄することだ」っていうふうに言っているのですね。あと1つは、多分彼らが見ているのは日韓関係っていう狭いものだけではなくて、東アジア、日米間だけでもなくて、もっとアジア太平洋全体とか、ヨーロッパも含めた世界全体の安全保障と外交と経済のために自国の国益とか自分は何をするべきかと多分考えていて、実際の昨年の6月に日韓豪とニュージーランドの4か国が新しくAP4というパートナーシップを作って、このアジア太平洋のいわゆる西側諸国で連携していくんだと。今年の1月にはNATOのストルテンベルグ事務総長という方が韓国と日本に来て、NATOと日韓、もうみんな連携していくんだと。つまり世界の中で西側諸国とロシア・中国の陣営と、あとはグローバルサウスと呼ばれるいわゆる新興国途上国、この3つの枠組みの中で、やっぱり日韓は西側の一員なので、そこも当然連携をして、安全保障を作って経済的にも世界の中でやっていくんだってことで見てるんだと私は思います。
---日本にとっても地域にとっても望ましいことだと感じるのですが、ただ尹政権が支持率が上がらない中で、続けていけるのかは気になるところですね？
(李相哲氏)そもそもですね尹大統領は支持率が低い。一番低いときでもですね日韓関係の改善に努力してきた。ですから今は逆に先週金曜日に訪日を終えて帰った後の支持率調査では、若干上がってるんですね。わずかですけれども。韓国国内でもちろん反発の声もありますけれども、全体的な傾向からすると日韓関係はやっぱりこの基調で、ずっと良くなる傾向に行くんじゃないでしょうかね。〆