クリミア半島沖の黒海を飛行中のアメリカの無人偵察機が、ロシアの戦闘機に異常接近された後に墜落した問題。アメリカは燃料をまきながら接近するロシア戦闘機の映像を公開しましたが、筑波大学名誉教授・中村逸郎氏は「米の偵察機を攻撃するという判断は、現場ではなく、クレムリンの上層部の承認を得ていたといわれています」といいます。すでにロシアは墜落した機体を回収したのではといい、ロシアのドローン開発が進むとの懸念を示しました。(2023年3月17日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――本当にギリギリのところを戦闘機が飛んでいく危険な映像、場所はクリミア半島、セバストポリというところから60キロ離れた黒海上です。飛行していたのはアメリカの「MQ-9」無人偵察機です。そこに接近してきたのがロシアの戦闘機「スホイ27」。映像では、燃料を落としながら接近している。これはどういう行為なんでしょうか?

三澤肇解説委員: 防衛省関係者とか軍事専門家に聞いてみたんですが「よくわからない」っていうんです。ただみんな「プロフェッショナルじゃない」って言うんですよ。これは「フェールダンピング」と言って、非常時にやる操作で、緊急時で着陸するため燃料を減らさなきゃいけないときにやる。ただ、これをすると航続距離が短くなるので危険、では(今回の行為に)何が考えられるのかということでいうと、例えばこの無人機の飛行を妨害したい、とっさにパイロットが思いついたのが、この方法だったんじゃないか、というのが一つ。もう一つは、燃料を落とすことによってエンジンの近くに引火するかも知れない、あるいはカメラの操作を妨害する意図があったんじゃないかと言うんですが、いずれにせよプロじゃないという見解でした。

―――中村逸郎先生は、パイロットの判断なのか、上の指示か、どう考えますか。

中村逸郎筑波大名誉教授: 2014年、クリミアをロシアが一方的に強制併合した後ですね、アメリカとロシアで非常に緊張が高まっているところだったんですね。ですから米ロの衝突は、黒海を巡って起こるんじゃないかとは言われていた。今回、ロシアのメディアでも出ているんですけども、クレムリンの相当上層部の承認を得てやった行為じゃないかって言われてるんです。これにプーチン大統領が本当に関わったかどうかはわからないけれども、プーチン政権のかなり上の方で承認を得た行為で現場の判断だけではなかったというふうに言われてるんです。

―――今後アメリカの対応ってどうなりそうですか。

アメリカとしては何とかして落ちた機体を回収したいところなんでしょうけれども、実はもうロシアがもうすでに機体の一部残骸を回収したというニュースも出てるんです。それはアメリカにとっては非常に危険なことなんです。2011年なんですけども、イランの上空を飛んでいたアメリカのドローンをイランが追撃して落としたんですね。その後いろいろ情報を得て、イランがドローン開発に成功したというふうに言われてますので、アメリカとしては残骸をロシアが回収するっていうのは、将来ロシアがドローン開発に踏み込んでいくんじゃないかということで、アメリカ側も焦ってるわけなんですね。

三澤解説委員: 「MQ-9」は翼の下に、ミサイルを積めるんです。偵察だけじゃなくて攻撃もできるんで、もしミサイルを積んでいればそれも分析されるかもしれないということで、非常に機密性が高い機体であることは間違いないですし、これ日本の海上保安庁も導入している機体です。アメリカは遠隔装置でプログラムを消去したと言ってるんですけども、本当のところまではよくわからないですね。

―――米ロ間の緊張の高まりで、より効果的になってくるのが、中国の習近平国家主席のロシア訪問。今月20日から22日までロシアを国賓として訪問するという話が入ってきました。

中村逸郎筑波大名誉教授: 偵察機を落とされたのが火曜日。その翌日に習近平国家主席がロシアを訪問するというニュースが翌日に出てきたんです。ネタ元はどこかといいますと、やはり中国の外務省の職員がロシアの国営通信のジャーナリストに漏らした。その後ダーッと広がって、ロイターやBBCなどがそのニュースを流したわけなんです。

―――中村先生は「焦るプーチン大統領」とみているといいますが、どういうことですか。

元々、4月に習近平国家主席はプーチンとの首脳会談をやるんじゃないかと言われてたんですね。ですから1ヶ月早まっているわけなんですね。その焦りっていうのは、やはり欧米からウクライナへの軍事支援が本格化して、今でさえどんどんどん消耗戦になっているところで、プーチン大統領も相当焦ってきてるということです。

ちょっとみてもらいたいものがあります。こちらは今年の「プーチン大統領のカレンダー」ですが、見えますかこれ、4月を見ると「プーチン大統領と習近平国家主席の首脳会談があるんではないか」ていうことを予想させるような写真が出ていたんですよ。このカレンダーは去年9月に入手しましたが、その時期から大体4月あたりに訪問首脳会談があるんじゃないかと。なぜかというと5月に広島サミットがあり、踏まえて2人が会うんじゃないかってことが予想されてたわけなんですね。

―――プーチン大統領のカレンダーには、かつてトランプ大統領や安倍晋三元総理も出ているということで、先生によると「そのときに大事にしたいと思っている国が掲載される傾向にあります」ということなんです。

今年のカレンダーの1月を見てもらいたいんですけど、これ、ベラルーシのルカシェンコ大統領です。そして2月(侵攻1年)になると、プーチン大統領と一緒に写っているのがロシア兵ですかね。それぞれそのときの話題や首脳がカレンダーに登場してくるんですね。

―――どうやったらプーチン大統領を止められるのか、先生本当に大きな大きな課題ですよね。
ちょうど1週間前なんですけども、中東のイランとサウジアラビア、もう本当に4~5年前から敵対する国を仲介する形で中国が出てきて和平協定に持ち込んだということで、それを習近平国家主席は「自分は国際社会の問題のあるところ、そしてアメリカが去っていったところに入っていって調整するんだ」ということで、そのまま手柄を上げて、次はウクライナとロシアの間に入ってくるということですけども、問題はうまくいくかどうか。それはゼレンスキー大統領の動き次第なんですね。一気に和平は難しいかもしれませんけど、とりあえず一時的な停戦、それを繋いでいくってことになるんではないかと思ってるんですね。

―――習近平国家主席の訪ロのきっかけとなったのが、メドベージェフ前大統領。去年12月21日に中国訪問して習主席と会談をしました。「メドベージェフ氏が習主席の怒りを抑えた。」とはどういうことですか。

習主席は、めっちゃ怒ってました、プーチン大統領に対して。なぜかというと昨年北京で冬季五輪がありましたよね。終わりに近づいたときに、ロシアのドーピング問題が出てきて、ロシアがウクライナに軍事侵攻するんじゃないかっていう話題がどんどん出てきて、もう五輪どころじゃなくなったっていうことで、習近平国家主席はプーチンさんにメンツを潰されたと、ずっと恨んでたんですね。

―――それをメドベージェフ氏が怒りを抑えたということですか。

そうです、その代わり、今回、習近平国家主席がプーチン大統領に会うという。今度はその手柄をメドベージェフさんが自分のものにしていきたいというふうに思ってるわけなんですね。

―――なるほど、ロシア国内では、プーチン氏の後継者争いに変化ということで、「メドベージェフ氏が急浮上、焦っているのは民間軍事会社ワグネルのプリゴジン氏」という話ですか。

どうやら今回、来年の大統領選挙をにらんで、この習近平国家主席とメドベージェフさんでもって来年の大統領選を動かしていこうという動きが見えてきたなというふうに思ってます。

―――三澤さんは習主席の訪ロをどうみますか。

三澤肇解説委員:中村先生がおっしゃったようにサウジアラビアとイランの歴史的な仲介をやってのけて、しかも中国って、いいポジション取ってウクライナともいいんですよね、ベストポジションなんですよ。ただアメリカはこのパフォーマンスに関して、焦ってると思いますんで、もし歴史的なことになればアメリカのプレゼンスはまた落ちますからね。

―――中村先生はどんなことに注目されますか。

ゼレンスキー大統領がどう反応するかっていうところが一つの注目点だと思います。