リーマンショック以降で最大規模となるアメリカの銀行の相次ぐ経営破綻。ベンチャー企業への融資が特色のシリコンバレーバンクに続き、ニューヨーク州に本店を置くシグネチャーバンクが相次いで破綻しました。世界的な株価下落受けて、リスクオフの流れが加速、比較的安全資産とされる金の相場が高騰しています。今が金の売りどき?それとも買いどき?マクロ経済、そして関西経済にも詳しい日本総研の主任研究員・若林厚仁さんは「ウクライナ侵攻や米中対立といった地政学リスクが続き、金相場はまだ上がっていく可能性はある」と話します。(2023年3月15日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

ウクライナ侵攻、米中対立...「有事の金」の状態はまだ続くゆえに

―――ぐんぐん上がっている金相場どこまで上がっていくのか。若林さんによりますと、ロシアによるウクライナ侵攻や米中対立、地政学的リスクからまだ上がっていく可能性があるのでは、ということです。過去5年間の1グラム当たりの金の価格のグラフというのがかなり右肩上がり。ちなみに上がっているポイントは「コロナ」と「ウクライナ侵攻が始まったとき」です。2018年の3月には4530円1グラム当たりだったものが、今日は8200円ほどと、およそ2倍になっています。では金相場が下がる条件というのは、「金利の引き上げが進むこと」、と「地政学的リスクが落ち着くこと」が挙げられるということです。

 これらの条件が当てはまるのはもう少し先になると思うのですけれども、そもそも金についてはまさに有事の金と言われまして、危機が起こると金価格が上がるという傾向がございます。一方で金はですね金利がつかないという特徴もございまして、やはり金利が上がってくると金利がつく預金や、あるいは個人向け国債等にお金を振り向ける人が出てきて、金の価格が下がってくるというところもございます。ただちょっとまだ金利がどんどん上がっていくかっていうとこはちょっと時間がかかるかなというところでございますので、もう少し時間はかかるかなと見ております。

―――ウクライナ情勢ですとかそういった国際情勢を見るとまだまだ落ち着かないという部分ですね?

もう少し先になると思います。

―――今、金相場を引き上げている一つの要因と言われているのが、二つのアメリカの銀行の相次ぐ破綻です。シリコンバレーバンクとシグネチャーバンク、二つともアメリカ16位と29位に位置する銀行です。専門家の間ではどういうふうに受け止めてらっしゃいますか?

 まさに二つの銀行の破綻というところは専門家の間でも全く事前に警戒されていなかったっていうところがあって、正直驚きを持って皆さんニュースを聞いているような状況でございます。ただちょっと調べれば調べるほど、破綻の素地はあったのかなというところは見えてきております。

―――金融危機といえばリーマンショックです。日本でも当時株価1万2000円前後だったところが一時6000円台まで下がりました。「派遣切り」が社会問題化もしました。2008年リーマンショックも非常に大きなニュースになりましたけども、若林さんは当時銀行員をされていたのですね。

 そうですね私、ちょうどこのころ銀行で働いておりまして、日比谷の方で働いていたのですけれども、まさに日比谷公園に「年越し派遣村」ができた年でございまして、まさにこの会社に出勤するときにですねその年越し派遣村に派遣切りに遭われた方々が集まられていたっていうところがすごく印象に残っております。

―――アメリカの銀行ですけども、立岩さん、非常にインパクトの大きい出来事でしたよね。

(ジャーナリスト・立岩陽一郎氏)リーマンショックときそうですね。日本の社会構造もやっぱりね、問題になりましたよね。だけどそこまでいくという印象はないです。そういう感じではないですよね。
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―――若林さんによりますと、「この二つの銀行の見通しが甘かった」そして「アメリカ政府もこれに対応している」というところから、今のところ「第二のリーマンショック」の可能性は低いと見ているということです。

 はい。リーマンショックはおっしゃる通り、まさにこのロケットサイエンティストと呼ばれるような人たちが複雑な金融商品を作ってそれを世界中に売りさばいて、大手の金融機関がそれを買って、その中でリーマンブラザーズが経営破綻して一気に金融危機が起こったという素地がございます。ただですねそれを教訓にですね、金融規制かなり強化されておりまして、大手金融機関がですね、直ちに潰れるというような状況にはなっておりません。

 ただこの金融規制がシリコンバレーバンクであったりシグネチャーといった中堅中小銀行が対象外だったいうことから、銀行の運用といいますかリスク管理のところが見過ごされてしまっていたというところはあります。直ちに預金全額保護するということから、今のところリーマンショックのような事態になる可能性というのは低いと見ております。

リーマンショックの時も最初は「世界的リスクにならない」と言っていた

―――ただし「予想外の事態が起きてもおかしくはない」と?

はい、まさにリーマンショックのときも専門家の間では「これは一部の問題であってそんな世界的なリスクにはならない」というふうに最初は言われていたのですが、どんどん危機が連鎖的に広がったというところがございますので、今回の二つの銀行の破綻がですね何か世界的な金融危機になるっていうことはないんですけれども、全く別のリスクというのがどっかに眠っているという可能性はあると思います。

―――二つのアメリカの銀行の破綻が、私達日本の年金に関係しているかもという話です。日本の年金を管理したり運営したりするGPIFというところがあります。ここは二つの銀行の株や債券、去年の3月末の時点でおよそ550億円分保有していたということがわかっているんです。今、保有しているかどうかというのはまだ発表されていないのですが・・・。550億円という額、しかも私達の年金ですよ。もしもGPIFが損を出した場合私達に年金に影響を及ぼすことは考えられるのですか

結論から申しますと、年金給付には一切影響はない。そもそも年金というのは年金の保険料や税金というものを当てられていて、その余った部分というのをGPIFが運用しているだけですので、今回そのGPIFが多少損を出したところで年金給付には影響はない。今回の550億円というのも全体の0.03%程度に過ぎないというところがございますので、金額の面ではですね正直そんなに大きな額ではない。

―――ちなみにどんなものを運用しているのかGPIFに取材しました。するとこんな答えが返ってきています。「購入する株や債券は指標銘柄といわれる代表的なもの」。ただ「保有していても、こういった指標から外れれば売却する」という形をとっている。この指標銘柄というのはわかりやすく言うとどういうものですか?

GPIFの運用指針というのが非常に細かく定まっておりまして、ローリスクで運用するということが大前提になっております。そういったことから指標銘柄に採用されるようなものしか買わないというルールがございますので、そこから外れれば売却も検討するというものになっております。

―――この破綻した二つの銀行のうち、シリコンバレーバンクはきのう指標から除外されたことがわかっています。GPIFがもしも現在もシリコンバレーバンクの株を保有していたら、安い価格で売却することになって損をするという結果になってしまう。ただ破綻した銀行の株って売却できるのですか?

 完全に清算されない限りは、株式が上場されていれば売却できるケースもございます。ただですねそれを買う人がいるかどうかっていうところになっていますので、そことの兼ね合いですね、買い手がつかなければ売りたくても売れない。今後二つの銀行をどういうふうに救済していくかっていう方針次第になってくるかなと思います。

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―――今回はアメリカの銀行2行が破綻ということなのですけど、こういったこと、日本では起きないですか。

 現状では起こる可能性は低いと見ております。実際、銀行でも米国債券投資して損失が出ている先もあるんですけれども、ただ、日本の金融機関は非常に保守的なリスク管理をやっておりますので、現状でこのようなケースが日本で起こるという可能性は非常に低いと見ております。

―――一方でアメリカはこれを機に規制も見直すという話もありましたが、アメリカの銀行はどうなりそうですか。

はい、中堅中小企業に関してはちょっと規制が緩かったというところもございますので、こういったところの規制をしっかりと見直していくというような機運は今後高まっていくと思います。

―――こういった銀行が破綻というニュースでちょっとドキッとするんですけど、私達の生活にはそれほど直接的に影響は今のところなさそうということですね。〆