北朝鮮が猛反発をよそに、韓国は「米韓合同軍事演習」を強行。背景に「北朝鮮に対する融和路線から強硬路線に変更した尹錫悦大統領の『北朝鮮はしつけなければならない』という方針がある」と話すのが龍谷大学教授・李相哲氏。一方で日本とは、徴用工問題の解決に向けた動きを加速させるなど、日韓、米韓、日米韓のパートナーシップを強化しようという尹政権の方向性が如実に見えるといいます。
(2023年3月13日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

「トランプ、文在寅大統領は騙された。だから金正恩氏はしつけなければならない」

---米韓の軍事演習を受けて北朝鮮の反発はあるのでしょうか?この時間は龍谷大学の李相哲先生に解説をしていただきます。朝鮮半島周辺で慌ただしい動き。米韓合同軍事演習に北朝鮮が反発、そして日韓シャトル外交というものが再開調整です。今日から11日間、米韓合同軍事演習、2018年以来5年ぶりに大規模実施されます。北朝鮮の核ミサイルの脅威を反映したシナリオで、上陸訓練など大規模な野外機動訓練も行われるということです。
そもそもこの軍事演習が縮小されたきっかけというのが2019年の春、当時のアメリカのトランプ大統領と文在寅大統領の2人の中にきっかけがあったということです。どうして軍事演習を縮小しようということになったのですか?

当時は核問題が世界的な大問題になりましたよね。しかしまあ文在寅大統領とトランプ大統領は、金正恩氏も話し合えば話は通じると。そこでの要求を一部受け入れて、北朝鮮が一番願っている軍事演習を中断したんですよね。しかし結果的には金正恩氏に騙されたというか。ですから今回は話し合いだけでは駄目だというふうに戻ってしまったということですね。トランプ大統領はお金がかかるからとか言いましたけれども、それは金の問題ではなくって、本当は金正恩氏と話し合いたかった。そこで北朝鮮の要求を受け入れたという背景があります。

---そんな流れの中での5年ぶりの大規模実施。その理由として李先生は「尹大統領は北朝鮮を力でしつけようとしている」、そして「尹大統領の哲学は力こそ平和を守るもの」、こういったものにあるのではということです。この文字だけ見るとちょっと怖いなというふうに思ってしまうのですが?

大統領選挙期間中に尹錫悦大統領は「金正恩氏はしつけなければならない」と。これまで25年間ずっと話し合った。金正恩氏が指導者になってからも話し合いもしたし、支援したし、いろんなことやっても全くきかない。ミサイルをバンバン打つし、核開発をやめようとしない。だからもうしつけなければならないと、話聞かないからというので。そこで話し合いでは解決しないので、やっぱり力を見せつけて、もうしょうがなく話し合いに出てくるような状況を作りたいというのが尹大統領の今の戦略ですね。

--韓国国民はどう思っているのでしょうか?

ここ20年以上、ずっと北朝鮮に騙され続けてきたので、多くの人々はですね、やっぱり力しかないんだというふうな考えを持っています。しかしもちろん「共に民主党」とか、進歩左派と言われている人たちは「それでも話し合うことしかできないんじゃないか」っていうふうな主張はしますよね。ただそれを数字で表すのは難しいんですけれども、「30%は話し合い」、「30%は力」、中間層は状況によって行ったり来たりするという状況ですね。韓国内でも意見がわかれてますね。

---軍事演習に反発するような形で北朝鮮でも動きが出てきています。北朝鮮国営メディアによりますと、12日、日本海で潜水艦から2発の戦略巡航ミサイルを発射する訓練が行われたということです。ではこの巡航ミサイルはどんなものなのか。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏に話を伺うと、巡航ミサイルというものは弾道ミサイルと違ってある程度コントロールができる無人飛行機に近いものだそうです。また潜水艦からの発射というのは今回初めてだそうなのですが、攻撃力が高まったというよりは、戦略・手段が増えたイメージとして捉えていると話していました。初めて潜水艦からの発射ということですが、これはどう考えますか?

この2発の巡航ミサイルっていうのは、前に戦略という言葉がついていますね。戦略巡航ミサイルというのは核弾頭を搭載できるという意味ですね。それから巡航ミサイルは黒井さんが言ったように、正確に目標に普通に到達するということ。それから奇襲ができるんですね。今回、水中の潜水艦から発射。これは隠れてですね、突然、正確な巡航ミサイルを発射するということですから、北朝鮮が新たな襲撃・奇襲手段を手にしたということですから、ちょっと危険度は増したと見るべきですね。

---軍事の専門家の黒井さんは攻撃力が高まったというよりも…ということを付け加えてはいますが、潜水艦から発射する映像もありますように、非常に怖いなっていうふうに思ってしまいます。

この潜水艦基地が日本海にあるのですが、北朝鮮は潜水艦が世界で3番目ぐらいに多いんです。ただ大きい潜水艦がないけれども、今、潜水艦で発射できるSLBMというミサイルと、今回は巡航ミサイルを潜水艦から発射しましたので、北朝鮮が潜水艦を日本近くに持ってきて、突然何か攻撃することができるようになりますから、これ本当に危ないですよね。

---黒井さんもこの巡航ミサイル、弾道ミサイルどちらも核が積まれたら同じくらい怖いものだということをおっしゃっていました。そして今後の北朝鮮の動きについて、李先生によりますと、3月から4月は北朝鮮の激しい反発が予想されるということです。考えられる動きとして、日本の上空をICBMが飛ぶ。そして偵察衛星の打ち上げ、韓国への直接攻撃などこういったことが考えられると。ですから3月4月はこういった動きを注視していかなければならない?

そうですね、米韓合同軍事演習をすると、北朝鮮が一番怒るのですよね。やっぱり軍事演習中に何かを起きやすい状況でもありますし、北朝鮮がその対抗措置を取らざるを得ない。しかし北朝鮮は今エネルギーもないし、軍人もろくに食べていない。そんなところで、米韓が演習やっているから、ミサイルとかで対抗するしかない状況ですね。

---ですから過去にもありましたけども、日本海、日本列島を飛び越して太平洋側に打ち込むというようなことだって、選択肢としてはありますね?

これまで以上に怒っているよっていうのを見せるためには、今までやってないことをやっぱりやる必要があるんですね。エスカレートしているのですね。ですからICBMを太平洋上に打つのではないかという見方もありますし、偵察衛星は今、着々と準備を整えているんですね。それから韓国に攻撃できる海岸砲というのを今、蓋を外していつでも発射できるような状況を作っているので、一触即発のような状況であるのは間違いない。

---今後4月の末にかけて我々も注視していかなければなりません。そしてもう1つ、日韓シャトル外交の再開調整というところです。そもそも後のシャトル外交というのは、首脳が相手の国を交互に訪問すること。日本と韓国の間では2011年の12月以降途絶えていたものだということです。シャトル外交は10年以上行われていなかったということですが、豊田さん、どうやら前向きに話を進めようという動きみたいですね?

(豊田真由子氏)これは前向きにどんどん進めていくべきだと思っていまして。というのは、背景には国際情勢がめまぐるしく緊迫してきているっていうのがあって、もう韓国としても日本とケンカしている場合じゃないじゃないと。北朝鮮が核とミサイルで本当に自分を攻撃してくると思っているわけですし、ウクライナ問題があって中露が接近して日本海で軍事演習をやったりしていますから、その場合にはもう日米韓で立ち向かっていくしかないと、西側が頑張るしかないってことの流れです。そこで私がやっぱり気になるのは日本も同じ危機意識を本当は持たなきゃいけなくて。北朝鮮がミサイルを撃ったら「海に落ちるよ」ではなくて本当に来るかもですし、あとやっぱり韓国は米韓の関係は緊密ですけども、やっぱ歴史的に「最後の最後まで守ってもらえないかも?」っていう不安が韓国にはあって、なので自国を守るって意識がすごく強くて、世論調査でも「核を持つべきだ」というのが7割ぐらいあるんですね。もちろん日本は核を持つわけにはいかないんですが、でも自分の国を自分で守るようにしなきゃいけないっていう意識を私は日本も持つべきだと思います。最後に1点、「これまたちゃぶ台がひっくり返るんじゃないか」ってご心配が結構あるじゃないですか。大統領が変わったらまた冷めるんじゃないかと。ただね、それをやっぱり心配しているよりも、もうこの国際情勢が変わっていく中でどうやって日本は自国と世界の平和と安定のために一緒にやっていけるかっていうことを考えるべきだと私は思います。

---確かにめまぐるしくも世界情勢が変わっていくわけですから、日本はついていかないといけないっていうことですね。今回このシャトル外交が再開するきっかけについては、徴用工問題で韓国側が新たな解決策を表明したからだということなんです。韓国側が示した案は、元徴用工らが日本企業に賠償請求を行っている、それを韓国政府傘下の財団が肩代わりしますよという案ですね。李先生によりますと、このシャトル外交を通じて、徴用工問題解決に同意する共同文書の採択、これができるかがポイントになるということですね?

今回、シャトル外交が復活するということで尹大統領が日本に来れば、岸田総理も韓国に行く。昼飯を一緒にしましょうかっていうくらいに行ったり来たりとかするというのがシャトル外交なんですね。今回、おそらくその共同文書が出れば、徴用工問題は一歩大きく前進すると思います。

徴用工問題解決は「特殊な人物が政権とればちゃぶ台返し」も

---ではこれで徴用工問題は解決するのか?李先生によりますと、政府間のそういった合意文書ができれば一応完全解決と言える。ただ、韓国の国会で完全解決とする法律を作ることは難しいとしています。また、韓国の政権が変わると方針転換する可能性はあるのか?という点については、今後特殊な人物が政権を取ればその可能性もあるが、そうならないためにも、国際的に解決を宣言するなど、防御策を講じておくべきと先生は言っています。

やっぱり共同文書をしっかりと作るというのもすごく大事ですね。国家間の約束は簡単には破れないですよね。さらに韓国国会が法律化すれば、これはもう完全解決ですけれども、政府間で合意をして、例えば今ポイントとなっているのが、今回韓国が肩代わりするんだけれども、将来的に日本の企業がですね、善意でちょっとお金を寄付してくれよというような案もあるのですね。そこは絶対駄目だった。「これ、あなたたちが解決しなさい」っていうのが日本の態度。その部分だけを綺麗にすれば一応はですね、将来的にも問題なさそうな気がしますけれども、どんな人が大統領になるかによってまだ揉めそうな感じはします。

---その中で、李先生は日韓の関係改善を喜んでいるのかアメリカだと言います。安全保障面、そして経済面でも3国の連携が取れるからということですね。やっぱりこの中国を見据えてというところは大きいわけですか?

中国もありますし、ロシアもあって北朝鮮もあるんですが、今経済面では中国を相手にしなければならない。例えば半導体とかはですね、アメリカと韓国だけでも駄目ですし、日本とアメリカだけでも駄目ですよね。ですから3か国が緊密に連携する。それから安保上は全地球をアメリカがカバーできないので、日本がちょっとアジアでは頑張ってくれよというふうに思っているんですが、韓国と揉めたらそれができない。ですから韓国と仲良くしてアメリカと組めば、アジアの安保と経済は良くなるというのがアメリカの戦略ですので、ぜひ日韓が先によくなってほしいですよね。

---そのあたりの足並みをちゃんと揃えることができるかどうか、そういうところがポイントになりそうです。〆